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夢見た世界を実現する家電メーカーバルミューダはどう生まれたのか「行こう、どこにもなかった方法で/寺尾玄」

こんにちは。

今日の読書録は「行こう、どこにもなかった方法で」です。
この本は家電メーカーバルミューダの社長、寺尾玄さんの半生(というか生まれる前の家庭環境から)を綴り、いかにしてバルミューダを軌道に乗せたのかが描かれています。

バルミューダというと革新的機能かつ洗練されたデザインで、使って感動がもたらされる家電を作る会社でしょうか。扇風機やトースターの会社…というイメージが多いかと思います。
バルミューダは製品が優れているのはもちろんですが、クリエイティブも感性に訴えかけるものでとてもいいんですよね。

トースターでいうと商品コンセプトが「世界一のトーストが焼けるトースター」なんですが、製品はトーストを美味しく焼く機能に絞っていますし、クリエイティブは美味しそうなトーストの写真が使われてます。
よくあるモノづくりだとトースト焼く機能以外にも色々搭載して多機能にして、団らんで使われてます〜って製品とクリエイティブが使われるものです。そういう部分で一線を画したメーカーとして存在しています。

私もバルミューダの家電がほしいな〜とは思うのですが、家電の買い替え時期が来ず、買っていませんね笑 バルミューダの製品は高級な価格帯ですけど、家電レンタルのサブスクもあったりしますので最近だと初期投資控えめでチャレンジできそうです。

さて話が脱線しました。バルミューダの製品はいい感じではありますが、その性能は市場において突出するほどではありません。他社の数倍の性能がある!というものではないんですね。それでも他社と差別化して人気を博しているので、そのあたりのエッセンスをこの本から得るべく読んでみました。では読書録に参ります。

やりきるちから

実はバルミューダは初のヒット商品である扇風機を発売するまえに倒産の危機を迎えていました。注文が一ヶ月来ず、FAXの故障を疑ったという話は寺尾さんの著書ではよく出てくる話。

その窮地を脱したのが寺尾さんのやりきる力、実行力だと思います。

この力はご両親の影響があったように思います。
父親は洋蘭農家をチャレンジしたものの失敗。その後、偶然であった陶芸に自分のエネルギーの行き先を見出して以降、現在に至るまで陶芸家として活躍してらっしゃいます。
陶芸家になるというのも本当に突然のことだったそうで、寺尾さんが小学生ぐらいの頃に父親が陶芸教室のチラシを持って帰ってきて「陶芸家で生きていく!」という流れでした。そこからまたたく間に知識を得て、技術を身に着け、道具を揃え、半年で作品が売り物として店頭に並ぶまでになりました。
その時の人間のエネルギー、方向性を得たパワーが人生を拓いていく姿を間近で見たことが後年の寺尾さんにも引き継がれていたように思います。

また、寺尾さんが中学生ごろに亡くなった母親の影響もあるでしょう。
母の死に際して感じたこととして、それでも変わらず世界が続いていることと人間はすべて死を終着点にして生きていること挙げています。
そして、そこから全生命力をかけて今を生きるべきと学び取ったようです。

このほか、印象的な話としては開放感と自由の区別、でしょうか。
母親の死後、高校生になった寺尾さんはいわゆる不良になりました。尾崎豊が流行る時期ですので、当時のノーマルなんですかね。当時の満たされない自分を振り返って、不良的振る舞いは庇護のもとの幼稚な開放感であって、責任の伴う自由では無かったと綴っています。責任感の強さは倒産間際のシーンを始め随所で感じられる要素ですね。

倒産の窮地を脱する流れはぜひ本書で読んでほしいですね。はらはらしました。

不要とされた自分、ものづくり

寺尾さんは傍目からすると順風満帆とは言いづらい人生をあゆんで来られた方でした。
高校中退で一年の旅に出て、帰国したらバンドマン。
バンドマンは失敗に終わり、ものづくりを始めるものの倒産の危機に。

なかなかハードですね。
倒産の危機に陥ったのはリーマンショックのころでした。リーマンショックの頃は金融業界からダメージが広がっていって、富裕層がダメージでかかったんですかね?本書ではリーマンショックの影響で高級用品を手掛けていたバルミューダは注文がなくなった一方で、街角のファミレスには大勢の人がいるのを見た寺尾さんが自分の製品は必要とされていなかったのだと気づきました。

かっこよさを追求したPC台や省電力で明るいデスクライトを当時は展開していたそうですが、注文がなくなったことで自分勝手で独りよがりなものづくりをしていたと。
倒産が近づいたなかでこれに気づくのは絶望感がありますね。10年以上前の話ですが、当時以上に今は自分勝手で独りよがり、社会性に欠けた企業・ブランド・製品は売れない状況になっていると思います。それを思えば、必要な気付きであったと言えます。

感動と共感をもたらすアーティスティックな感性

バルミューダの家電というと、トースターの「チン」という音に楽器から収録した音を使ったという話があります。トースターを家で使うときに焼き上がりの瞬間を心地よくしたい、みたいな狙いだった気がします。
バルミューダは度々こういった人の感性に訴えかけるものづくりをする稀有なメーカーです。

この姿勢に関しては元バンドマンでアーティストだった寺尾さんの感性があるでしょう。結果的にはバンドマンとしては失敗に終わったとのことですが、「アーティストが生み出す共感」について触れる場面がありました。

アーティストに対する共感が親しみを呼び、友情や恋になり、いずれは愛になる…みたいなテキストです。この流れを家電に落としこんでいるんですよね。

前段で不要とされたものづくりについて触れました。
多くの人が変わらず消費活動をする中で、自分たちの製品が売れない状況。製品や自分たちに対して消費者に共感が生まれていなかったといえます。
ものの売買だけが接点なのかというとそうではなくて、消費者が製品を使い続ける間が自分たちと消費者の接点なんですよね。
今のバルミューダが人気を博しているのは、製品を使いつづけるなかでも感動と共感が生まれる社会性を持った製品だからじゃないでしょうか。

まとめ

バルミューダがスマホを発売するニュースがありました。今年後半か来年ごろの話だったと思います。触るたびに感動があるんじゃないかと、いまから発売が楽しみです。

さて、本書を読んで寺尾さんのアーティスティックな感性あってのバルミューダ、という捉え方がまた一段と強まった気がします。
寺尾さんはアーティストやられてましたし、歌詞や詩を書いていたそうです。自分の気持を表現して人に共感を呼び、魅了する人種なんでしょうね。
私はといえば音楽もあまり聞かないし、詩も全く…。そういうのを体感するのもいいし、今ある趣味から共感や社会性をもたせるのがいいのかなって思いました。チャレンジしてみます。

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