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ビルマとの縁

桜を見に行ったはずなのに、幹にくくりつけられている小さな植樹の記名板に目が行った。

靖国神社。

報道番組ではよく耳にした名だから、興味はあった。政治との関わりの深い神社のため、特別な緊張感で鳥居をくぐったけれど、黙々と参拝してはわいわいと桜を愛でる人ばかりだった。

境内に博物館があるなんて、思いもよらなかった。屋外のショーケースに近付くと、ビルマに送られた兵の遺品。

ケルンの美術館で学芸員に話しかけられたことを思い出す。

英語もドイツ語もちっとも話せない私の冒険で出会った人。顔立ちや肌の色で移民だとすぐわかる。

彼は、どこから来たのか尋ねたのちに、自分はビルマ出身だと語った。確かにビルマと先に言ってからミャンマーと補足した。

「ビルマ」と耳にした途端、詳しくもないのに繊細な一族の歴史を察知して自分の目に力がこもる。

なけなしの英語で「アイノウイット」と伝えて、四つの眼で鋭く深く何かが交わった。わからないのにわかっていて、わかっているのにわからない私の指すどこまでも抽象的な「イット」を、言葉でも身振りでもないもので分かち合っていた。

桜の写真を見返すのもそっちのけで、帰宅するなり「ビルマ 日本兵」と検索し、ひとまずWikipediaを読み流す。

彼は、貸切状態の展示室でいつまでも仔細に鑑賞する私を観察していたのだ。聞かずとも日本人だと踏んでいたのかもしれない。ビルマと先に述べた意図も少しはわかったような気がする。

他の美術館を紹介してくれて、「あなたはもう一度ここに来るべきだ」と言ってくれた。

「私はソレをまた学び直すよ」と、しっかり握手をして別れたのだった。

今、約束を果たす時が来たのかもしれない。

#靖国神社 #靖國神社 #ビルマ #ミャンマー

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