祈りについて

4/22 寄稿

祈りについて

 ということで今回は、「祈り」を軸にしてそこから拡げてゆき、記述してまいりたいと思います。前回は、覚えておられるでしょうか。アニミズム(マナイズム)からシャーマニズムについての超自然的な霊魂にまつわることなどを、学説に基づいてお話させていただきました。今回取り扱う「祈り」というのは、そうした文脈から信仰や儀礼、呪術などにも近接しています。タイラーにおいても、宗教を“霊的存在への信念”と定義したように¹)、いずれにしても霊魂(精霊)のようなものへ意識を集中させることと捉えることもできるかと思います。

前回の例えにもありましたが、腹痛に見舞われたとき、何かの病に患ったとき、私たちは無意識裡に神のようなものへ祈ってしまいます。パスカルやデカルトなども、胃の痛みなどで苦しんだ際には、思考を集中させることによって、苦痛をとっていたとの学説もあります。²) 私たちは何か心身への苦痛を感じた際には、どうも反射的に神頼みをしてしまう癖が昔からあるようです。

また、現在においても、たとえばイスラム教徒などはそれが中東でも日本でも何処にいたとしても、地面に布を敷いてメッカの方向に向かい、神聖な祈りを捧げます。³)枚挙に暇がないほど、私たちは自ずから超自然的なものに対して祈っているわけですね。そのときにだけ人間は、被造物になります。語弊を恐れずいうと、絶対的な支配―被支配としての関係性を自ら作り出していきます。徹底的な受動性、ともいえるかもしれません。

研究は必要か否か

諸説ありますがデュルケムによれば、まず呪術というのは宗教から派生してきたといいます。いや、いきなり出てきたその呪術とは何ぞやという説明にはなりますが、様々な種類や変異などがあるので後述いたします。端的にいえば「超自然的な力を自分たちで操作しようとする営み」のことです。⁴)この呪術においても、万物に宿る大いなる力の信仰に基づいていると小林道憲は述べています。⁵) 今も探求がなされていて2018年の研究では、呪術を科学的に研究するか否か、の議論が分かれています。否のほうに気持ちが傾いている方からすれば、全く無意味だと思われる方がおられるかもしれません。しかしデュルケムにおいては「(呪術のような)誤魔化しの効かない技術が、余りに久しい間、どうして人々の信任をつなぎとめたかが説明されない」と述べています。⁵)つまりこれを書いた1942年時点で既に、これほど未開から歴史を積んでいる技術が説明されるべきだと憂いているわけですね。

いま現在において、実際に私が結局目撃者の方々に御理解いただき、こうして書籍として記述するまでに至ったのはやはり、誤魔化しが効かないほど、いわゆる〈 超自然的な力 〉だったからだと、私は考えるのですね。そうしたものにどれほど信用ならない方でも、では不思議な現象を根拠でもって説明しようとなると、なかなか難しいのではないでしょうか。そうした意味でも、私は現象を目撃した当事者として、既存の学説に微力でも説得性を増すための寄与となれば、これ幸いに存じます。

理屈と感情

そして「祈り」から派生して、礼拝についてのデュルケムの考察ですが、たとえば説教師は説得しようとするときに、何か特別な真理や戒律の効用を、正しい証拠によって定めようとするよりも、礼拝の規則的な執行により得られる道徳的慰安の感情を覚醒、あるいは再覚醒させることに腐心するといいます。そうすることで、信じようとする意向を創造し、論理的理由や証拠を超えた、あるいは先んじた命題を突きつけて、信仰を構成させます。⁶)

これは、人間関係にも似ていますよね。どれだけの利害関係者でも、感情には概ね敵わない。100の理屈より、1の感情だと、私は感じるんですね。定型的に決められた条文よりも、生身の誠意や真剣が人のこころを打つのだと思います。100の既存論文と1の実際的な現象、とも言い換えることができるかもしれません。1の現象を集めたり、紐解いたりしていけば、それが分岐して後追いのもと数々の議論、そして界隈の活発化や、それに伴う潮流、研究結果に繋がっていくわけですよね。理論を集めて(集まり)、そこから科学的根拠を作るのは、これまでにも先人がなされてきたことです。

その意味で、こうしたまた感情といった、喜怒哀楽の4つにだけに分類されるには余りにも多いこの多彩なこころの動きの行き所や、または夫婦や同僚、友人などといった少数のカテゴライズだけでは収まりきらない自己や他者との関係性も含めて、祈りは天界へ昇華させてくれるとも、いえるのかもしれません。そうしてこそ、人は地上界に向き合える、とも捉えられると思います。

引用・参考文献:¹)本間愛理『エストニアのMaausk : アニミズムを再考する』北海道大学(https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/57690/1/14_003_Homma.pdf )(最終閲覧:2021.4.11)

        ²)清原 迪夫著『痛みと闘う』東京大学出版会(1979)p.31

         ³)寺島実郎著『中東・エネルギー・地政学―全体知への体験的接近―』東洋経済新報社(2016)p.126

           ⁴)小林道憲『宗教とはなにかー古代世界の神話と儀礼からー』NHKブックスp.31

        ⁵)髙山善光著『呪術とは何かー近代呪術概念の定義と宗教的認識―』広島大学大学院(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcanth/83/3/83_358/_pdf)(最終閲覧:2021.4.11)

         ⁶ )デュルケム著、古野清人訳『宗教生活の原初形態(下)』岩波文庫(1942)p.229

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?