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変な人 (31)とあるターミナル駅の、スキャン女

「今ワタシ、スキャンされた」と、隣を歩く娘が言った。

 それは、あるターミナル駅、その駅ビルから外に歩き出したときの、一瞬の出来事だった。
 私は駅前のロータリーなどを眺めながら歩いていた。
 すると隣を歩く私の娘が突然、ちょっと戸惑ったように言うのだ。

「今ワタシ、スキャンされた」

 私はそのあまりの意外な言葉に反応できず、
「何を言い出だすんだ、わが娘よ」
と一瞬軽く拒絶の姿勢をとりかけたが、娘の様子からすると、どうも本当にスキャンされたらしい。どんな状況なのかわからないけど、「スキャンされた」ということだけはヒシヒシと伝わってきたのだ。
「なにそれ、どうしたの?」
 娘は気味悪さと怖さとを半分ずつブレンドしたような微妙な表情で説明してくれる。
「今、前から来た女の人がこんな手つきで」
と言って娘が示したのがこの手。

こんな手つきで、頭から足先までを、スキャン!

「こんな手つきで、まずね、私の顔に指先を向けてピッと止めたあと、そのまま頭から足先まで手を下ろしたの。ひえー、なんだあれ!!」
「え? それで、その人は?」
「そのまま駅の方に行っちゃった」
「なんだそれー。どんな人だった?」
「たぶん40歳くらいの女の人。一瞬だったからよく覚えてないけど」
「えー、なんか呪いでもかけられたんじゃない?」
「嫌なこと言わないデー、きも~!」
「それともモデル事務所の人でさ、お前がキレイなんで思わずスキャンしたんじゃない」
「なんじゃそりゃー」
「しかしなー、何かされたんならまだしも、追いかけて行って『お前、いま娘をスキャンしたろ!』と文句言うわけにもいかないしなー。何か身体、変な感じしない」
「しないけどさ」
「ふーん。なんか甘いもんでも食べにいく?」
「そうしようか」
 それにしても、あのスキャンにはどんな意味があったのだろう。
 自分の頭に刻み込む、そんな意味だったのか。
 それとも何かを吸い取っているのか(怖)。
 一日何人くらいスキャンするんだろう。
 決して解決されない疑問は広がるばかり。

 変な人は、いつも突然現れるのであった。


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