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20060612 土人

 「土人」は差別用語か。その土地に昔から住んでいる、いわゆる「土着の人」「土着民」を略してできた言葉だろうから本来は差別を目的としていないに違いない。それでは「土着」には差別の意味があるか。「土」は街ではなく田舎を表しているから少しはそういった意味合いがあるかもしれない。それを気にしていると「土」が付く熟語は全て差別を意図した言葉になってしまう。従って「土着」には侮蔑的な意味はない。「着」は住み着くという意味だから全く問題ない。「土著」とも書く。「著」と「着」とは元来同じ意味だったらしい。もともと「着」は「著」の俗字であった。次第に「ちゃく」の音には着、「ちょ」には著と使い分けるようになったようだ。

 土着人の「着」が略されて「土人」となった。「住み着く」という意味の言葉が抜けてしまったが、「その土地」という意味を表す「土」は残っているので意味は通じる。電卓の様に計算機という意味が全く含まれない略し方$${^{*1}}$$とは違い、まともである。

 もしくは土着人の略ではなく、その土地に住む人という意味で最初から成り立った言葉かも知れない。

 いずれにしても「土人」と言うと南洋の原住民を思い浮かべてしまう。肌の色が黒い民族が頭の中に浮かんでくる。これは私だけではないと思う。現代の大抵の日本人は「土人」というと「南洋の未開部族民」と考えるだろう。前述したように土人は土着人の略なのだから肌の色は関係ない。「土」から茶色を連想して「肌の色が茶色の人」ということになったのか。北海道旧土人保護法$${^{*2}}$$と言う法律があった。この法律は北海道に住むアイヌ民族に対して「旧土人」と表現しているので肌の色云々ではない。「旧土人$${^{*3}}$$」と言うぐらいだから単なる「土人」や「新土人」も想定しているはずだ。つまり「土人」には「その土地に住み着いている人」という意味しかないので、区別するために法律では「旧土人」としたのではないだろうか。少なくともこの法律が制定された明治三十二年当時はそうだったのだろう。明治二十二年の古い辞書$${^{*4}}$$でも「其國土ニ生レツキタル民」とだけあって、未開の地とか南洋、色黒といった意味は含まれていない。

 なぜ未開部族などに対する侮蔑的な意味が発生したのだろうか。まず「土」という字だろう。土や泥にまみれた人と解釈されてしまったのかもしれない。また濁音から始まる言葉なので侮蔑的表現に合っていたとも考えられる。更に色黒な人に限られてきた原因は何か。日本人が思い浮かべる色黒な民族の一つにインド人がある。「いんどじん」には「どじん」という音が含まれている。これが「土人は色黒」という連想の元ではないか。「いん・どじん」である。

 ヨーロッパにも「どじん」は一杯いる。「スコットランどじん」「フィンランどじん」「ポーランどじん」など。ヨーロッパ諸国は先進国なので、やはり「土人」と呼ばれない。どんな片田舎に住んでいてもスイッツァ-ランドの牧童$${^{*5}}$$などに対して「土人」とは言わない。土人は、完全に発展途上国に生まれ住んでいる色黒の人々を区別して指し示す言葉となっている。これは差別用語になるのだろう。勉強不足の人が勝手に解釈して、侮蔑的表現に分類され、差別用語になった。元来差別を意図していなかった言葉の使い方をそういった勉強不足な人々の誤解からくる感情に合わせなければならないということが何とも情けない。

*1 パン
*2 中野文庫 - 北海道旧土人保護法
*3 旧土人学校
*4 福岡大学 図書館報No.90 4/8ページ目
*5 アルプスの少女ハイジ

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