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自転する日記 2月13日深夜1時 補聴器

母の新しい補聴器が出来上がってきたので受け取りに行った。
前のはもう8年以上使っていた。
片方は1年ほど前から寿命が切れていて、もう片方も最近は電池を変えても掃除をしてもらっても、明らかに聞こえ方が落ちてきていたのでちょうど替え時だったと思う。

重度難聴だが、店からの帰りはクルマの中でも会話ができた。
テレビの歌番組も、昨日までなら信じられない音量に下げて聴いている。
ほんとかよ、と思ってCMの時にちょっと借りて装着してみたら、ほんとにうるさいほどビンビン聞こえてきておおっとなった。
私と母の聴こえのレベルは大きく違うとはいえ。

今度の補聴器にはリモコンがついていて、単純なボリュームの調整なら8段階ほどはこれで出来るという。もちろん補聴器は耳に入れたままでOK。
病院など聞こえづらい時には+ボタン、逆にうるさいと思えば-ボタン。

ごく小さなものだけどこれは便利だ。
ただ電池は単6を2本入れてくださいと言われた。
単6。単6?聞き返した。売っているのを見たことがない。
大きな電気店に行けばありますよ、と、至極シンプル丁寧に教えてもらう。

ソファに転がり、適度な音量で歌番組を見て聴いている母に安心して、私は夕飯の支度にとりかかった。
冷蔵庫から、ビニール袋に入れた野菜をシャガシャガ言わせて取り出す。
まな板で白菜や人参を刻む。
ちょい気になって母に「こっちの音聞こえる?」というと、
聞こえてるよと頷いた。ほほう。
薬缶をコンロに置く時、少し大きな音を立ててしまった。
ごめえん、と言うと振り向いて、うん、と言った。
離れた場所でこんなにサクサク会話が進むのは久しぶりだ。

でも心なしか、母の声に力がないのがずっと気になっていた。
具合が悪いとかではないと思うけど、補聴器の出費が今頃気になり始めたのかなとちょっと心配になった。
確かに久々にスカッとしたクレジットカードの使い方をした。

あ、スカッとと言えばSKATだ。今週あたりが、来月のヤマ場への最終コーナーだなあ。今年も全然関係なさそうだけど。せめて3回目の3次通過を心の奥底で願おうか。いやそれも相当高い壁のよう。むーん。全滅ばかりだから早めにここで供養していこうか。

そのうち母が「うるさいくらい聞こえるわあ」と言い出した。
そして補聴器のリモコンをテレビに向けて、一生懸命-ボタンを押している。テーブルの上には忘れられたテレビ専用リモコン。
母よそれは微妙にちがう、と台所から思ったが、まあどこに向けて押しても、ちゃんと自分の耳に装着した補聴器に反応したようだ。

ご飯を食べる時に、なんか元気ないけどだいじょうぶ、と訊いたらだいじょうぶ、と蚊の鳴くような声で答えた。
テレビの歌番組は、私でももう少し大きくして聴きたいなと思うほど音量が下げられていた。それで気づく、ああ、自分の声がよく響くからだ。
響きすぎて自分でうるさいんだ。

考えたら、私も店を出る時から意識して、随分小さめの声で話していた。
少々叫ぶくらいでないと会話できなかった昨日までの母と娘はリセットされました。ガサツな動きも、大声の長電話も気をつけます。
お母様、女ふたり明日からはしとやかに、静かに丁寧に日々を暮らしてまいりましょう。

すごいなあ補聴器。
本人の聴こえだけでなく家族の暮らし方まで変圧する。
多分。きっと。
私が絶対変わる。
補聴器=変圧器か。
すごい。

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