おいしい夜食の話をしよう。夜食と聴いてまずは何を思い浮かべるだろうか。「飲み終わりのラーメン」「受験生時代に母親が握ってくれた握り飯」「昼寝をしてしまって寝れない夜のカップ焼きそば」人それぞれ心に残るものがきっとあるはずだ。僕にとってのそれは「お茶漬け」である。

　まだ小学生くらいの頃、家族が寝静まったあとにどうしてもお腹がすいてしまい布団から抜け出して食べていたのがお茶漬けだった。夕飯で余ったご飯をあたためてその上にお茶漬けのもとをふってお湯をそそぐ。たったそれだけなのに当時の僕にとってはそれはこれ以上ない「ごちそう」だった。両親の目を盗んでこっそり食べるお茶漬けは、胸の中にぽっかり空いたよくわからないもやもやと胃袋をやさしく満たしてくれた。とくに冷蔵庫をがさがさと探してして父の残り物の焼き鮭を発見したときなどは、宝物を見つめたように声を立てずに心の中で叫んだ。「いやっほーい」って。

　なんで今こんな話をしているかというと、昨日彼女のうちでお茶漬けを食べたのだ。深夜、お腹が減って夜遅くまでやっているスーパーに買い出しにまで行って、サーモンのお刺身だけ食べるつもりだったのだけれど、この前生活の楽しみ展で買った海大臣ふりかけがあったからお茶漬けしようと思いついて。お茶漬けを食べた。それがとてもおいしくて感動していたら、そんな子供時分の頃を思い出した。夜のくねくねした住宅街を、人目を盗んで歩いてゆく。川沿いで寄り道なんかしちゃって、スーパーにたどり着くまで夜食に想いを馳せている。そのときの充足感は、たぶん子供の頃の自分があれが食べたいってねだっているみたいだった。

　こんな話をしていたらなんだかお腹が減ってきた。今度深夜にお腹が減ってしまったときはなにを食べようか。今からわくわくしてしまっている自分がいる。