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『ジャングルの夜』第五話

 予報は雨だった。しかし空は晴れていた。
 朝食バイキングを食べに行くと、朝まで飲み明かしていた副社長と最後まで生き残っていた二人の取り巻きとかち合った。三人は最後の力を振り絞るように朝飯を食っていた。
 副社長に今日の予定を聞かれ、千多は、「日中はバイクを借りて観光地を回り、夜はジャングルを探索するツアーに参加する」と予定を説明した。 「なにそれ、めっちゃ楽しそうやん」と副社長はジャングルを探索するツアーに食いついてきた。詳細を教えると、「行きたいなぁ。行きたいけど時間がなぁ」と思案していた。
「もし行くなら連絡をくれれば予約の人数変更をしておく」と千多は伝えた。
 取り巻きは二人の話など耳に入っていないようにおかゆを口へ運んでいた。

 前日は繋がらなかったレンタルバイク屋はすんなりと電話に出た。
 開店早々の十時過ぎにバイクを借りに行くと、お決まりの規約を説明されている間にバイク屋の電話が鳴った。かなりしつこく鳴っていたが、店員はまったく気にする素振りなく無視をした。「それで電話が繋がらなかったんだな」と千多は昨日のことを理解した。
 沖縄の道路は本州とは質感が違う。それで千多がエンジンを掛ける前に、雨天時の沖縄の道について訊ねると、 「そうとうに滑るから気をつけた方がいい。雪道だと思って走った方がいい」と、雪道を知っているのか疑わしい店員は、あまり危機感のない感じでアドバイスしてくれた。

 晴れていたはずが、バイクを走らせるとすぐに小雨が降ってきた。雨男で、こういうときに天候に恵まれた記憶のない千多は別段ツイてないとも思わなかった。
 午前中は鍾乳洞とハブを見に、「おきなわワールド」というテーマパークへ行こうと計画していた。距離にして十四キロ程度のことだった。知らない道を安全運転で走るとしても一時間もあれば余裕。上手く行けば原付でも三十分あれば行けるんじゃないかと思っていた。それが雨は徐々に強くなり、逸れたとはいえ台風の影響で、風も吹いてきた。

 風にあおられてバイクは流され、貸し出されたシールドの付いていないヘルメットでは、勢いの増した雨粒が顔に当たると目をしっかりと開けていられなかった。
 雪道というほどではないが、道はたしかに滑り、千多は久しぶりに危険を感じた。たまらず適当な場所にバイクを駐めて避難した。

 バイクで行くのは無理かも知れないと思い、タクシーかバスか、他の方法も考えた。ほかの選択肢を用意することになんとなく歳を感じた。
 しかし、公共の交通機関はどうにも不便で、タクシーは往復で考えると痛い出費になりそうだった。何より面白くなかった。
 それでいくらか小降りになるのを待ってから、ヘルメットの下にキャップを目深に被り、再び走り出した。

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