『かがみの孤城』辻村深月 (読書感想文)

とても面白かった。
心理描写がめちゃくちゃ上手い。
文章は読みやすく、それでいて、子供の世界の誰も言葉にしてこなかった暗黙の了解や、中学生の感情の機微を明瞭に描き出す表現力が流石。

この物語はファンタジーだけど、辻村深月はファンタジーの舞台を利用して、現実よりリアルな人間模様を描く。
そして理屈のないファンタジーとしてしまっても十分通用する物語に、巧い仕掛けを施しているのが心憎い。    

物語の主人公は、中学1年生の「こころ」。
起こったのは、たかが学校の、たかが1クラスの中の出来事。でもこころには、絶対に「たかが」とは思えなくて、自分が体験したあの恐ろしさは、「いじめ」なんて言葉では絶対に括れない。

口にしてしまうことすら悔しくて惨めでたまらない。こんなちっぽけで理不尽な世界で、閉塞感に押し潰されそうになる。

煌びやかな鏡の世界は、自分の世界で闘い続ける、7人の傷ついた小さな子供たちを迎えた。
夢のようなお城は居場所となり、集められた子供たちは仲間になった。
住んでる場所も本名もわからない7人は、鏡の向こうでは会えない。

清らかな願いが縁を紡ぐ。
孤独な彼らは、あまりにも生きづらいこの世界で、
助け合うことができるのか。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?