『流浪の月』凪良ゆう (読書感想文)

2020年本屋大賞。
誰にでも勧められる一冊。

文章は柔らかく繊細だが、挑戦的な作品だと思った。
現代を軽妙に皮肉っている。
「価値観は人それぞれ」という価値観こそ「普通」の時代。
しかし世間には暗黙の基準がある。
「普通」ではない人間に対して、世間は無理解で残酷だ。

だから普通のふりをして生きる。
理不尽だと思うけど、程度の差はあれ皆がそうだと更紗は言う。
その通りだと思った。

更紗にとって、世間の優しさは的外れだった。哀れみや同情だけではなく本物の善意までも、更紗を雁字搦めにする。
「もう見捨ててほしい」という更紗の言葉が印象的だった。

数分単位で更新され、消費されていく膨大なニュース。
私たちはごく簡単にそれを検索し、想像し、同情し、憤慨する。
ご丁寧に専門家の見解や世間の同情で脚色された事実は、二度と消えない。
事件の真実は誰にもわからないのに。
そしてネットの海に沈んだニュースは、ワンクリックで掘り起こされる。

消えないのは「被害者」の烙印も同じだった。
更紗の大切にしたい物全てを、的外れな善意で社会は取り上げる。
理解されない彼女らは、どう生きることを選ぶのか。

平坦な道のりではないだろうけど、この二人の未来にはもう、孤独の陰は差さないだろうと確信して、本を閉じる。

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