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日常の中の一瞬の煌めきや、ゼロからゼロに戻る様な話が好きみたいです。飽きてすぐやめてし…

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日常の中の一瞬の煌めきや、ゼロからゼロに戻る様な話が好きみたいです。飽きてすぐやめてしまうかもしれません。

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【短編小説】今日がその日  #島の話

郊外を走る休日の私鉄はほどよく空いていて、のんびりとした空気が流れている。隣に座る娘は推しのTwitterをチェックするのに忙しく、気が向いた時しか母親と話をしてくれない。 スマホのネットニュースを流し読みしながら、目の端で向かいの席に座る家族連れを見ていた。座席に膝を立てて車窓をみている年中さんくらいの男の子に慣れた手つきで靴を履かせているのは、25年前に一緒にいた人だった。 ================================= 島で住み込みのアルバイトを

    • 最後の日 #シロクマ文芸部

      最後の日も慌ただしかった。 午後になって面倒なデータ集計を頼まれたので、いろんなものを放っぽり出してそれにかかり、なんとか18時を過ぎた頃に終わった。  まだ残っている数名に簡単に挨拶を済ませると、デスク周りも片付けないままパソコンを消してタイムカードを押した。  外に出ると師走の冷たい空気を二度三度、ゆっくりと肺に入れる。肩の力がふっと抜ける。 少し前まで気になっていた納期も見積もりも、同僚のご機嫌も急に遠くになる。 「今年もお世話になりました」 あと5日もしたらま

      • 【ss】ありがとう #シロクマ文芸部

         ありがとうございました―― 細い声が夕空に吸い込まれていくのを見送る。 西の空にまだピンクと紫の雲が残っているのに、もう冬の星たちが見え始めている。 今夜はもうお終いねと独りごちて庵にもどると、程なく、ほとほとと戸を叩く音がした。 訪ねてきたのは小さなテディベアだった。 「かえりたい、かえりたい」 薄汚れて、あちこち破れた小さな茶色いクマは、何を聞いてもそう繰り返すばかりだ。 作られて五十年経つかどうか、おそらくそれほど多くの言葉を知らないのだろう。 『かえり

        • 今年もブックサンタに参加しました。 いつも(といっても数回) は絵本だけど、今年は中高生向けに乙一を。本好きの皆様、よろしければ是非ご参加ください。 https://booksanta.charity-santa.com/

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        【短編小説】今日がその日  #島の話

        • 最後の日 #シロクマ文芸部

        • 【ss】ありがとう #シロクマ文芸部

        • 今年もブックサンタに参加しました。 いつも(といっても数回) は絵本だけど、今年は中高生向けに乙一を。本好きの皆様、よろしければ是非ご参加ください。 https://booksanta.charity-santa.com/

        マガジン

        • #シロクマ文芸部
          18本
        • 毎週ショートショートnote
          20本
        • 短編小説、エッセイなど
          5本
        • 島の話
          3本

        記事

          白骨化スマホ(毎週ショートショートnote)

          「それで、昨日は誰とどこに行ってたの?」 美幸とは付き合って5年になる。 ちょっと地味だけど料理上手のしっかりした女で、そのうち結婚するつもりだ。でもそれまでは少しくらい・・・とギャル系キャバ嬢のノアちゃんと遊んでいたのが何故かバレているようだ。 「そういえば、白骨化アプリって知ってる?」 急に話が変わったので、このまま忘れてもらおうと俺は全力でかぶりを振った。 「ほら、スマホを無くした時に遠隔操作で初期化できるでしょ?」 あれと同じでね―― 満面の笑みで俺の目を

          白骨化スマホ(毎週ショートショートnote)

          【ss】冬の色 #シロクマ文芸部

          冬の色は何色?と聞かれたら迷わず空色!と答えると思う。東京の冬はいつも晴れて青空が広がっているからだ。 事情があってナナの両親は離れて暮らしている。お父さんは東京にいて、ナナとお母さんはお母さんの実家のある東北の町で暮らしている。両親の間にどんな取り決めがあるのか分からないが、お盆とお正月は東京のお父さんと過ごすと決まっていた。 冬になると雪雲が垂れ込め、毎日灰色の空ばかりの東北の町と違い、東京の冬はいつも晴天だ。 「空っ風が冷たいだろう?」 お父さんはいつもそう言う

          【ss】冬の色 #シロクマ文芸部

          助手席の異世界転生(毎週ショートショートnote)

          「俺、転生してきたんだよね」 助手席の彼がVAPEを吸うと僅かに甘い香りが漂う。 「転生ってスライムや悪役令嬢になるあれ?」 「そう、あれ」 「えーっとドコの世界線から?」 「山梨。現代の山梨から現代の東京に転生したの」 「それ転生じゃなくてただの引越しでしょ」 「いや、転生だよ、真面目な葡萄農家だったのに現代東京にホストとして転生しちゃってさ、挙句、姫に飛ばれて借金まみれ…あ、このICで降りて」 「もう! 急に言わないで」 「だから元の世界線に戻りたいなぁ

          助手席の異世界転生(毎週ショートショートnote)

          【ss】十二月 #シロクマ文芸部

          遅れるにも程がある!! のでお昼休みにこっそり投稿 十二月に入ると街はクリスマス一色になる。 オフィスビルのエントランスに飾られた大きなツリーを見上げながら、我が家のツリーはどこに仕舞ったかな? と考えていると、後ろから声をかけられた。 「おはようございます! 先輩」 後輩の西山君はきれいな檸檬色のマフラーを巻き、両手でドトールの紙カップを持っている。 そういえば先日、「一周まわってドトールなんですよ」なんて言っていたっけ。西山君がどこを一周まわったのかはわからない…

          【ss】十二月 #シロクマ文芸部

          20文字小説 #小牧幸助文学賞

          最後に駆け込み参加 20文字というのが最後まで掴めないままでしたが、どうしても参加したくって… 《1》 その旅館に行ったのは、私とじゃないわよ。 《2》 「犯人はお前だ!」ってAIが言ってんだ。 《3》 さて12月、なにかを始めるには遅すぎる。 《4》 左右別の靴を履いてる事に、今気が付いた。 《5》 会えば雪合戦をしてた頃、君が好きだった。 ※参加させていただきました。 いつもありがとうございます。

          20文字小説 #小牧幸助文学賞

          【ss】詩と暮らす #シロクマ文芸部

          詩と暮らす人生は美しく楽しいものであった。 最後の時を迎えた今、改めてそう思う。 日々の食事に困るほど貧しい家に生まれ、流行病で両親を相次いで亡くしても、私の心にはいつも詩があった。 見たことない異国の景色 豊かな自然の恵み 神への感謝 愛する者へ紡ぐ言葉 そんな美しい詩の世界を想う時、私の心は幸せで満たされるのだ。 友に裏切られ、故郷の町を追われても、 物取りに殴られ、身ぐるみを剥がされても。 暗い時代が来て、心ならずも敵に銃口を向けた時、動かなくなった少年兵を前

          【ss】詩と暮らす #シロクマ文芸部

          【ss】逃げる夢 #シロクマ文芸部

          ※改稿しました 「逃げる夢を追いかけてるんですが、こっちにきませんでしたか?」 木枯らしが吹くこの寒空の下、半ズボンに虫取り網を持った長身の成人男性は、一般的に怪しい人物と言って差し支えないだろう。 「さあ、わかりません。"逃げる夢"ってなんですか?」 あー、こっちじゃなかったか、などと呟きながら、男は断りもなく私の隣にどっかと座る。絵本に出てくる夏の子どものような牧歌的風貌に反し、言葉使いはぞんざいでどこか崩れた空気を感じた。 「いろいろあるんですが、ま、悪夢です

          【ss】逃げる夢 #シロクマ文芸部

          【ss】誕生日 #シロクマ文芸部

          「誕生日おめでとうございます!」 出社早々、そう言うと後輩の西山君は私の鼻にバターをたっぷり塗り付けた。 「カナダでは鼻にバターを塗ってお祝いするんですよ、これで1年間悪い事は起こりません!」 「あ、ありがとう……」 「実は高校の間だけ、カナダにいたんです」 西山君はいい大学を出ている割に言葉を知らないと思っていた。先日も若干名をワカボシナと読み、Web会議のチャット上に???が並んだのだ。ただ、帰国子女であることが西山君の語彙力に関係あるのかどうかは分からない。

          【ss】誕生日 #シロクマ文芸部

          ごはん杖 (毎週ショートショートnote)

          「そば杖を食うってやつですよ」  後輩の西山君はエンターキーを力いっぱい叩きながら腹立たしそうに言った。別チームの尻拭いのために休日出勤になり、西山君は機嫌が悪い。 「傍杖なんて言葉よく知ってたね」 西山君はいい大学を出ている割に言葉を知らない。 「バカにしないでください、それくらいは知ってます。大体あいつら、いつも俺たちを『残業ばっかりの給料泥棒』なんて言うくせに…」 「まあ、貸しを作ったと思えばね」 「先輩、甘すぎます。だからあいつらに舐められるんです」  

          ごはん杖 (毎週ショートショートnote)

          【ss】紅葉鳥 #シロクマ文芸部

          「紅葉鳥...ですか」 その人は、いかにも困りましたというように大袈裟に眉を寄せた。 「はい、この山でこの角笛を吹けば必ず紅葉鳥が現れると聞いたもので」 私が胸ポケットのファスナーの開け、小さな角笛を取り出して見せると、その人は目を細めた。 「ちょっと拝見しても?」 大切な預かり物だから少し迷ったものの、ようやく話を聞いてくれる人に会えてほっとしていた私は、結局その人に角笛を渡した。 改めて見ると不思議な人だ。年齢は私と同じくらいか少し上、20代中頃だろうけど、や

          【ss】紅葉鳥 #シロクマ文芸部

          なるべく動物園(毎週ショートショートnote)

          「名前、言ってみて、ねぇ」 【#n-AI汚染型】の檻に向かって懸命に話しかけている老婆を研究棟の窓から見ていると、同僚がやってきた。 「母親かな、あそこまで汚染が酷いともう無理でしょ」 檻の中の人間は、ただぼーっと座っているだけだ。 判断基準を全てAIに任せた生活を続けた結果、AIがなければ最低限の生命維持活動さえ出来ない人間が激増した。つまり、喉が乾いたら水を飲む、みたいなことが出来なくなったのだ。 慌てた政府は過度のAI使用を禁止した。汚染の軽い者はリハビリで元

          なるべく動物園(毎週ショートショートnote)

          夏の星々(140字小説コンテスト第4期) 佳作に選ばれました!わーい! 半信半疑で本当かなって呟いたら、本当ですよって公式さんから返信が!優しい… https://note.com/hoshi_boshi/n/n2f9a7f042c05

          夏の星々(140字小説コンテスト第4期) 佳作に選ばれました!わーい! 半信半疑で本当かなって呟いたら、本当ですよって公式さんから返信が!優しい… https://note.com/hoshi_boshi/n/n2f9a7f042c05