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半宵の犬 (2)

ふと気づくとあたりは眩しかった。朝だ。抱えた仕事に潰されたまま寝てしまったらしい。時は無慈悲なものでいくら声をかけても立ち止まってはくれない。仕方がないので背広に腕を通しネクタイを締める。

耳のずっと奥で昨日の犬の声がする。犬の声などこれまで全く気にしたことはなかったのだが、この犬の声はなぜだか何度も何度も反響して頭から離れない。何がそうさせているのかと考えてはみるが、いくら考えても答えは出ないし、寧ろ考えれば考えるほどやはり何の変哲もない犬の声だったように思えてますます謎めく。

朝から気味が悪い。もうこれ以上考えるのはやめにしよう。目を閉じ、その声から意識を遠ざける目的で首を振り、ビジネスバッグをひったくって逃げ出すように家を後にした。空っぽになった部屋に向かって小さな声で犬がワンと鳴いた。

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