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『早春物語』 ロケ地は鎌倉。小品ながら、評価の高い原田知世主演映画。

評価 ☆☆



あらすじ
鎌倉北高校三年生で写真部に所属している沖野瞳。放課後の化学室で友人の牧麻子と話をしていた。麻子には最近彼氏ができたらしく、キスまでしたのだと瞳に話して盛り上っていた。



『早春物語』と言われてもピンとこないかもしれない。1980年代の、かなり前の日本映画だ。



ただし、三輪明宏も言っていたけれど、古い、新しいが問題ではなく、良い、悪いかが問題なのだ。『早春物語』は再評価がされてもいい作品である。監督は澤井信一郎、出演は原田知世、林隆三など。



中年男と若い女性が登場する。17歳の高校生は、20歳の大学生と偽ってその中年男性に近寄っていく。その中年男性は、自分の母親が昔好きだった男性だとわかり、さらに惹かれていく。林隆三がかっこいいわけでもないし、原田知世が素晴らしく綺麗なわけでもない。



当時の原田知世は、わりと棒読み的なセリフの言い回しである。鷲尾いさ子もそうだった。こういう抑揚のないセリフの言い方をする女優さんは、演技が下手だと言われたりする。そうだろうか? むしろ抑揚がありすぎる演技って大根っぽくないですか? 演劇的であるけれど、映画的リアリティがない。



昔々、8ミリ映画を撮っていた頃、わりと棒読みっぽい女の子がいた。周囲から彼女は演技が下手だと言われていた。「気にすることないよ」と僕はよく言っていた。「彼らの方がわからないんだ。君はそのままでいいよ。君の演技の素晴らしさをわかってくれるひとはいるから」というと、彼女は「たとえば? 誰が?」と僕に聞いた。しばらく考えて、僕は自分を指差した。すると彼女は嬉しそうに笑っていた。本当にそう思ったのだ。



話を戻そう。この作品は映画的である。久しぶりに「映画」にめぐり合えたという感じがする。話の展開によどみがなく、ラストまで目が離せない。ファーストシーンの空撮からラストの空撮まで一気に話が流れる。特別なアクションもなく、特撮もない。しかし、手堅い演出で観客をグイグイ引っ張っていく。



澤井信一郎という監督が職人的な映画手法をしっかり見せてくれるからだろうか。あるいは那須真知子の脚本が良いからか。年上男性に対する、若い女性の憧れと母親の恋愛というふたつの題材をうまく組み合わせている。



音楽は久石譲。宮崎映画や北野映画の彼の曲も好きだが、この『早春物語』のテーマもいい。原田知世の演技はまだそんなに上手くない。彼女の俳優としての力量を発揮するのは『落下する夕方』以降かもしれない。



この映画も鎌倉が舞台。再見するまで忘れていた。鎌倉らしい海と街のカットが数多く残っていて、登場人物たちの心の動きと、海沿いの街のショットとがうまくリンクしている。



当時も観光地だったらしいが、いまほど人気がなかったらしい。ちょっとのんびりした感じが良い。1980年代の鎌倉の街が垣間見える映画でもある。当時の鎌倉は今見てもノスタルジックさが漂っている。



あの抑揚のない台詞の女の子は、今頃、何をしているんだろう? ふと、思い出すことがある。棒読みっぽい、あの台詞の言い回しはずっと心に残るのだ。




初出 「西参道シネマブログ」 2004-12-30



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