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『人魚伝説』 1984年に制作されたとは思えない先見性。殺戮シーンは圧巻。失笑を越えて涙する。

評価 ☆☆



あらすじ
漁師の佐伯啓介と妻で海女のみぎわは船で沖に出て、アワビ漁を行って生計を立てていた。ふたりが住む町では巨大レジャーランド施設の建設が計画されている。反対派の啓介はスナックで酔にまかせてクダを巻いていた。泥酔状態の啓介を友人でカメラマンの宮本祥平は自宅まで送り届けた。



1984年に制作されたとは思えない先見性を持つ映画。池田敏春監督の代表作『人魚伝説』をやっと観ることができた。原作はカルト漫画家として知られる宮谷一彦。脚本は西岡琢也、音楽は本多俊之、撮影は前田米造と中村征夫。白都真理、江藤潤、清水健太郎、宮口精二、宮下順子などが出演している。スタッフやキャストがすごい。ディレクターズ・カンパニーの1作目でもある。



過剰だ。論理的には破綻している。しかし、小賢しいだけのそのあたりの作品とは一線を画している。夫を殺され、自分に殺人容疑がかけられた海女が原子力発電所関連のパーティに乱入するラストがすごい。



殺戮シーンは壮絶で、途中からあきれ、笑いがこみ上げ、次第に人間の本性を感じて奇妙な感慨に達する。涙すら浮かべることになる。



「原発いうんはどこや。ウチんひと殺した原発いうんは、どこにおるんや!」という白都真理演じる海女、佐伯みぎわのセリフは重い。1984年に製作された、早すぎた傑作を現在だからこそ観て欲しい。



さらに、海女たちの潜る海や自然のなんと美しいことか、それに対して「原子力発電所」という文字や人工物の醜いことか。



ラスト近くの壮絶さと難解さは『ワイルドバンチ』+『2001年宇宙の旅』並みの破壊力だ。しかも、白都真理の裸体の美しさと逞しさ、体当たりの演技も記憶に刻まれる。



池田敏春監督は2010年、この映画のロケ地で自殺した。彼にとってもこの作品は奇跡のような出来映えだったのかもしれない。心からご冥福をお祈りしたい。同時に、こんな心を動かされる映画を作ってもらって感謝である。



初出 「西参道シネマブログ」 2015-08-31



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