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『孤高のメス』 堤真一が素晴らしい。真剣に映画に向き合うキャストとスタッフの熱意が感じられる。

評価 ☆☆☆



あらすじ
地方の小さな港町の看護師、中村浪子は病院で適切な処置を受けられずに死んでしまった。ひとり息子で新米医師の弘平は、母が高齢になっても激務の地方の病院勤めにこだわっていたのかを常々疑問に思っていた。母の遺品を整理する中で、彼女の古い日記を発見した。



最近、医療映画が多い。医療ドラマのブームのせいだろうか。医療モノは手術シーンが苦手というひとも意外と多い。僕は手術シーンは割と平気なので「あらま、心臓動いてるね」なんて感じで鑑賞している。



2010年公開された『孤高のメス』にも何度も手術シーンが出てくる。監督は成島出。出演は堤真一、夏川結衣などだ。この映画の手術場面には感心した。堤真一が本当に外科医に見えてくる(天才とまではいかないけれど)。



これは俳優の集中力と役に対する思い入れと努力の賜物なんだろう。夏川結衣も素晴らしい。いまひとつブレイクできなかった役者という印象が強いが、この映画ではしっかり存在感を出している。『夜がまた来る』の力演も評価したいけれど、この映画が彼女の代表作になることは間違いない。



中越典子も悪くない。ちょっとしか出ていないけれど、この映画での彼女は光っている。なぜか武井咲と中越典子は顔つきが似ていると思う。でも、キャリアが違う。中越典子はこのまま仕事を続けていけば良い役者になるだろう。吉沢悠もいい。うまい俳優たちに助けられて『孤高のメス』はクオリティの高い映画に仕上がっている。



映画は単に「人間を描けばいい」というわけではない。複雑な人間の機微を描くのに映画は不向きな部分もある。監督はリアリティの追求を手術シーンに向けたことで映画をこれまでとは異なる形で昇華させることに成功している。『孤高のメス』を好意的なスタンスで考えれば、だが。



欠点も多い。主人公に対抗するはずの強力な敵が登場しないから段々面白さが半減する。物語としての躍動感を持っているのは前半部分、後半部分は面白さが消えていく。キャラクターの作り方が薄い。厚みを持っているのは辛うじて夏川結衣の役どころくらい。他の登場人物たちは膨らみがなく、面白みに欠ける。



それでも僕がこの映画を支持するのは、潔さである。真剣に映画と対峙しようとする俳優、スタッフたちの気持ちが映っている。日本映画の底力と可能性を見せてくれた。心を込めなければ良いものは作れない。いい加減な姿勢で成果が出るほど、世の中は甘くない。



初出 「西参道シネマブログ」 2010-07-04



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