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『犬神家の一族』(1976年版) 大野雄二作曲の「愛のバラード」で綴られる連続殺人。市川崑の演出が冴える。

評価 ☆☆



あらすじ
昭和22年9月、那須市。地元の名士「犬神製薬」の創始者である犬神佐兵衛の死から7ヶ月が経過した頃、私立探偵の金田一耕助がやってくる。ところが金田一が到着してまもなく湖で溺れかけていた女性、野々宮珠世を救出する。また依頼人であった若林が何者かに毒殺されてしまう。



市川崑の映画を語れるほど、彼の映画を観ているわけではないけれど『犬神家の一族』がリメイクされると聞いて違和感を感じている。市川崑監督はすでに80本以上を作り上げているいわば映画職人である。簡単に80本というけれど、黒澤やヒッチコックを完全に抜いている(日本で作品数が最も多い監督って誰なんでしょう?)。ジョン・フォードまではいかないけど。



『犬神家の一族』の1976年ヴァージョンはテレビやDVDなどで何度もリプレイされているので、いまさら僕が説明するまでもない。出演は高峰三枝子、石坂浩二、島田陽子などだ。角川映画第一弾として製作された。横溝正史原作の推理小説の映画化で、探偵、金田一耕助が活躍する。大ヒット作品としても知られている。



だが、彼の他の作品、例えば『炎上』『黒い十人の女』『女王蜂』『細雪』などと見比べると、バランスが良くて、観やすくて面白い。完成度はさほど高くないけれど、市川崑監督作品の入門編って感じだ。



もともと市川崑演出は過激である。独特のカット割り、インサート技法、独自の映像文法があり、初期の頃(和田夏十が脚本として参加していた頃)は内容そのものの過激さもあって、変な映画ばかりだ。中には『おとうと』みたいな素晴らしい映画もあるけれどね。映画の技法と主題とが噛みあうと非常に面白いが、噛みあわないとひどいことになる。



初期の作品は技法的なスタイルも確立していなくて、オーソドックスな撮影方法をしている。最近作は観ていないから、どうなっているかはよくわかりませんが。



でも、なぜいま『犬神家の一族』? 年齢を考えても、そろそろ最後の一本を作り上げる時期にきている。最後が『犬神家の一族』ということは、よっぽど、前作でやりたくてもやれなかったことがあったのかもしれない。



1976年バージョンでは、全体的に世界観がよく構築されている。セットも豪華で、キャストも凄い。日本映画界の重鎮たちが丁々発止の演技を繰り広げている。それだけでも観る価値は十分。



また大野雄二の音楽もいい。「愛のバラード」に綴られて展開される連続殺人は怖い。彼の代表作であるルパン三世シリーズなどとは違った印象を受ける。



ちなみに、映画のポスターで有名な逆立ちの死体には意味がある。登場人物たちの名前を反対から読むとわかる。原作をしっかり読むと面白いですけどね。



よくプールとかで真似したな。良い子は真似しちゃダメだよ。



初出 「西参道シネマブログ」 2006-05-08



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