見出し画像

20200129 大寒の候

 嘆かわしいことに、僕は地軸気取りの人畜有害・ペダンティック・ペデストリアンである。
 気の合わない誰それらについて、
「彼奴らは木偶の坊削り出しの木端人間だ! くそ煮込み愚鈍だ! キェェイ! 往来のロマンチカ共に粛清を喰らわしてやる!」
 と、謗ったり、負け惜しんだりに興じることでしか愉悦(に自嘲気味な悲愴を伴っている)に浸り得ない。お労しや。
 僕という矮小の蘊奥にて仁王立つ陶酔団亀成年は、余所者を貶めることを唯一の手段にして、凡夫と一線を画す存在であろうと思い込みたいのだ。戸田奈津子の言う、「地の利を得たぞ!」とはどうも違う。いつだって僕は皆を見上げている。空は突き抜けて青かった。武蔵坊弁慶に倣い、仁王立ったままの散華をしてやりたい。
「プリーズ・スマック・ミーって気分さ。そうだろう、シュガー?」
 と、僕は死際に宛先もなく囁くのさ。瓶詰めの言葉を海に流すよりも、幾分もエコロジーじゃあないか。
 僕の骸を見つけた時には、市原悦子風味に、「あら、やだ……」と、呟いておくれよ。その後には、諸兄諸姉の好きなように諡してくれれば有り難い。
 矮小世界の極東で、僕は貴方を待っている。

 もう間もなく今月というものが終わる訳だけれど、僕は何を為したのかと? まあ、何も為していない訳だけれど。幼少期にスーパーファミコンの将棋ゲームを、定石もわからず遊戯してみて初心者コースで惨敗した時と同じ気分だ。令和二年を生き伸びるための孫氏兵法書をくれ! 二の足から三の足まで踏んで地団駄の様相で、僕はずうっと停滞をしているぞ! このままではチータの歌に追いつけやしない! 人生はワン・ツー・パンチってどういうことなのさ。僕は今やワン・ツー・スリーで事切れそうだ。

 麗しの給料日も憂鬱の種である。夢にまで見る放蕩無頼を目指そうとしたけれど、前月の僕がクレジット・カードを乱雑に利用しやがった所為で空前絶後の引き落としがかかっている。増えるどころか減ってしまった口座残高を前にして、僕はなす術なく平伏している。
 ベーシック・インカムの必要性を国会議事堂なんかで話し合う場合じゃあないぞ! 僕の元へ尋ねに来たまえよ! チャームポイントのおでこを血が滲むまでモルタルに擦りつけるから、樋口一葉をください。ハイライト・メンソールをカートンで買います。ステゴロのような生活を強制されて、真人間への矯正を余儀なくされる。

 大寒の候、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 これからは僕のことを、非武装型小悪党、国家級の穀潰し、糠釘破廉恥サイコモンキー、文化消耗者、馬鹿、エトセトラ……とイロニー・アンド・アガペー交々のトロープを駆使して呼んでいただきたい。
 こんなにも滑稽な克己啓蒙をいつまで続ければいいのか。
 いや、終わらせるのは僕の自由意思なんだけれど。

 世界はいつだって回り転がっているのだ。
 愛と諧謔とほろ苦さを1:1:8の割合で撹拌機にかけながら。
 嘆かわしいことに、どうやら僕はその地軸にはいないらしい!
 頭ではわかっちゃあいたけれど、心がごねてわからん振りしていたことについて改めて思い知らされる。
「ぐう!」
 僕は呻き声を上げる。

映画観ます。