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「『対話』の未来を創り出す『対話』研究者との対話」Project Design Office 代表 中村一浩さん

●ご挨拶と出演者紹介

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 三木:第166回マイクロモノづくりストリーミング本日も始まりました。本日はProject Design Officeの中村さんにお越しいただきまして対話を対話をするという新たな入れ子構造の企画を…

宇都宮:対話を対話するための対話。

三木:色々お話を伺っていきたいのでよろしくお願いします。

中村:よろしくお願いします。


●enmonoとの出会いについて

三木:中村さんと初めてお会いしたのはいつぐらいでしたっけ?

宇都宮:第1回shiawase2.0の時だと思いますけど。

三木:去年のあの時?

中村:はい、たぶん。

三木:それで今年の第2回shiawase2.0にも参加して我々の最近のテーマは対話なので対話のお話をしていただいてすごい聞き入ってしまいました。

中村:すごいうれしかったですよ。

三木:それでその後お時間いただいて対話の対話をしていただいて(笑)。その得られたいくつかのヒントをこの本(『トゥルー・イノベーション』)の中に入れ込みさせていただきました。

中村:バッチリでしたね。完璧でした。

三木:ありがとうございます。


●中村さんの自己紹介

三木:簡単に自己紹介をしていただけますか?

中村:元々は企業(ミスミとかリクルート)で事業開発の仕事をしてたんですが、“森へ”という会社の森のリトリートプログラムに行ったのがきっかけで…

宇都宮:企業に勤めてる時に参加したんですか?

中村:そうです。まだリクルートでバリバリやってる時です。

宇都宮:それは何かきっかけはあったんですか?

中村:嫁さんが、“森へ”の代表を当時してた山田博がリードをしている、コーチングの基礎コースみたいなのができて、何となく森って良いらしくて帰って来て「あのさ、パパ森行ったら?」「いや、行かない、行かない。何で森行くの?」っていう話をしてから…

宇都宮:何か感づいたんですか?奥さんは。

中村:たぶんそうだと思うんですよ。もう完全に何かピンと来て言ってみて僕は受け取らず。

宇都宮:それっていつ頃ですか?

中村:2011年ですね。その1年後に僕は事業の立ち上げで大失敗して、すごいへこんでる時に、急に「森って何だっけ?」って思い出して、「ちょっと行ってみよう」って森のリトリートに2012年の秋ですね。びっくりしたのは“森へ”側で、まだオープンにしてないリトリートの話を、全く接点がCTIにない人が急に申し込んできたと。「誰だ?あいつは?」みたいな疎外感いっぱいの中で初参加みたいな。

三木:CTIの関係者が多かったんですか?

中村:最初はコーチングを受けた人とか、その関係者とかが対象だったので、一人でしかも「オウルって呼んでください」「オウル?」みたいな。

三木:何ですか?オウルって。

中村:オウル(Owl)ってフクロウのことで、CTIの人達ってよくあだ名とかつけるんです。普通のビジネスパーソンだったので全然馴染めなくて、キョトンとしながら入ったのが初めての森体験で。そこで僕は自分のビジョンを見つけて。

三木:どういうことを森でやるんですか?

中村:森で何もしないことをするんですけど、3日間あえて言うならすることは対話。自分と人と森と対話するということをしていて、その中で1人で過ごす時間があったり、みんなで対話したり、焚火囲んだりっていうことをする時間ですね。

三木:それでどう変容したんですか?

中村:良い仕事や大きい仕事をするために、上がったほうが色々できるじゃないですか。仕事が上がると給料も増えるし、仕事できるしちやほやされるしうれしいし、また頑張ろうっていうスパイラルがあるじゃないですか。もうレールに乗ってしまっていて、リクルートで乗ってる時に「でも本当にしたかったことはこれだっけな?」みたいな、ちょっとズレていってたんです。本当は自分は、ベンチャーに1社目入ってるぐらいなので、独立してやりたいっていう想いがあったのに、いつの間にかおもしろい大きな仕事がしたいって変わっていてそれに気づいて、「俺そもそも自分で何かしたかったんだよな。自分なりの価値を世の中に提供したかったんだよな」と思ってそれが森で気付かされて、「本当にしたかったのはこっちだ」っていって、立ち上げて失敗してへこんでどん底にいる時に、突然社長に「辞めます」って言ったら怒られて、「お前そんなどん底のところで責任者辞めるな」って言われて、「それはそうだ」と思って2年間頑張ってから独立っていう経緯ですね。

三木:その後でどういう事業を立ち上げたんですか?

中村:僕自身は修士課程で事業構想大学院大学に行っていて、要は事業を作る手前のプロジェクトデザインを本業にしたいなと思ったので、Project Design Officeっていう会社をまず作りました。それが実はまさにトゥルー・イノベーションですよ。

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三木:これ!?

中村:これなんです。Project Design Officeでしたかったのは、外的なイノベーションを起こすには、内的なイノベーションが必要だっていうのが起点なんです。僕はその起点を森で見つけたので、森を基軸に据えようと思ったんです。最初は稼がなきゃいけないので、コンサルっぽいことするじゃないですか。どんどん忙しくなるわけですよ。どんどん忙しくなって「これじゃなかったんだけどな」と思って、また森に立ち返り「森のことをするんです」ってFacebookに出したらサーッと友達が引いていって(笑)。

一同:(笑)

宇都宮:友達が引くんですか(笑)?

中村:そうですね。ミスミとかリクルートとかコンサル系の友達とか、「あいつヤバくなっちゃった」「病気じゃないの?」みたいな。

宇都宮:その引いてく様は分かるんですか?

中村:もう明らかでしたからね。

三木:引いてく様を味わうみたいな余裕は?

中村:なかったです。7割ぐらいいなくなっちゃって。「あ、こういうことなんだな」と思いつつも、逆に違う人が入って来たんです。禅とかマインドフルネスをやってる人達が「分かるよ」って来てくれて、ちゃんと自分が表明すればそこに合う人達に出会える。

三木:確かにね。実は我々はzenschoolやってますけど、最初は製造業が多くてこういう系を打ち出し始めたら、サーッて製造業が引いて、「分かるよ」っていう人が来て、前野先生とかとも知り合ったのもその辺りだし。

宇都宮:三木さんは最初、今のようなことをちょっと隠しがちだったんです。でも最近は、割と表に出して宙に浮き始めてるんです。僕は元々自動車メーカーのエンジニアでモノづくり系っていうポジションにいた。だから2人だとまだバランスが取れてる。

三木:一応相殺されるっていうか…

中村:(笑)相殺。相乗とも言うしね。

三木:相殺される感じで。製造業の人とかもまだつながってますからね。

中村:そこでサーッと引いたけど、森の仲間はもちろんいたので、今はProject Design Office以外に、ダイアログ・ウィズっていう対話の会社と、幸せホテルっていう新しい事業の会社があるんですけど、この2つ目の会社を一緒に共同代表で作ってる菊野と出会って、その2人で森と対話を中心に据えたプログラムを作ろうっていうのが、小布施インキュベーションキャンプっていうプログラムで…

三木:前野先生が言ってたのですね。

中村:そこにまさに前野さんに入ってもらって、僕がエレベーターピッチングをし手伝ってもらうって決まってから、ずっと一緒にやってるっていう。

三木:どこでエレベーターピッチをしたんですか?

中村:ちょうどリクルートの仕事を請け負ってて、。その事務局をしててそこに前野さんが講演っぽく来て、事務局の人と会って、その構想の中ではまさに内的なイノベーションが起こった後にデザインしていくっていうのは、違うものとして必要だと思ってたので、デザイン思考を入れたいと思って前野さんにお願いしたんです。そしたら「いいよ。でもその中村君がやってることって世界平和じゃないの?」って言われて「世界平和!?飛んだぞ?」みたいな。

一同:(笑)

中村:でもそこから確かに行き着く先はそうだなとか、みんなの幸せだなみたいなことを考え始めて、今ではイノベーションの先にそれがあるなっていうのは納得できるというか。

三木:なるほどね。そこまでいくんですね。僕はzenschoolはどっちかと言うとプロダクトとかサービスを生み出すっていうほうでやってて、もう1個のZen2.0が世界平和という感じでお互いに相乗効果があるんです。

Zen2.0の運営で得られた知見を、こっちのほうに入れたりこっちをまたZen2.0にという風にやっています。

中村:確かに。まさに僕もそういう意味ではOIC(小布施インキュベーションキャンプ)があって、shiawase2.0があってっていうのが近いかもしれないですね。


●shiawase2.0について

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三木:shiawase2.0の話を聞きたいんですけど、一緒にZen2.0をやってる宍戸さんとスウェットロッジ(ネイティブアメリカン・ラコタ族に伝わる聖なる儀式の一つ)に行って、そこでshiawase2.0の着想を得た感じですか?

中村:そうなんです。まさに生まれ変わる儀式ですよね?僕の場合は全然違うスピリットを見つけるっていう体験をしたんですけど、それと同時に幸せっていうことを広げていく場を作ろうってヒントが得られて、そこから前野さんを含めてみんなでホラクラシーじゃないけど、誰かが何かをやるんじゃなくて一緒に作っていく、もので幸せ度を上げていこうっていうのができて。自分がその対話ってところに立つことになり、そこで逆に言うと度胸もつき、当時渦中にいた安倍昭恵さんと、いきなり準備なしで対話することを経て、自分が自分でいるってこうなんだなとか、人とつながるってこんな感じなんだなみたいなことを、まさに何百人の前で体験して。その時に僕と前野さん、昭恵さんがいたんですけど、前に聴衆はたぶん3、400人ぐらいいて、本当に場が一体化したんですよ。僕も初めての体験で…

三木:去年ですか?

中村:去年のshiawase2.0。20人ぐらいだったら分かるんだけど、この人数で起こるんだ、みたいなことを体験して、自分の中でも開く部分があって、「人数じゃないんだ」みたいなことを感じられるきっかけで、それがまたOICとか違う対話のサービスに広がって、それを今年のshiawase2.0に還元してみたいな。

三木:おもしろいですね。そのつながった感覚って、言葉で表現できないと思うんですけど、どういう感じなんですか?

中村:感覚的にはみんなで温泉に入った感じ。

三木:実はこのzenschoolも4名の受講生と我々合計6名でやるけど最後はそういうとろけたチーズみたいな感じになるんですね。1つの生命体的な。

中村:まさに。何か感じるんですよ。

三木:200人がそうなったらすごいですね。

宇都宮:僕らzenschoolの集中講義の場ではそういう風になるんですよ。現世に戻ると、フェードアウトしていくことがあってもったいないので、今はフォローアップっていう月に1回オンラインのZoomで対話を続けてる感じなんです。

中村:いいですね。

宇都宮:それがたぶん違ってきてるっていう。それで1年間続けると芽が出る人は芽が出るって感じなので。本当に同調圧力がすごいですよね。

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●対話の手法について

三木:大企業の中には、すごいロボットみたいな、方が多いんです。

宇都宮:表情がおかしいんですよね。

中村:本当そうですよ。

三木:箱の中に自分をピピッと入れちゃって、その中はすごいスムーズだからその通りやっていればいいっていう。

中村:完全に工業製品ですよね。決められたことを決められたようにやって感情はいりませんよっていう。

三木:そういう人達をどうやって溶かしていくのかが次の課題なんです。

宇都宮:(zenschoolは、今までは)中小企業のオーナーを相手にしてたので、割と早く溶けて実績も出るんですけど、大企業の人はなかなか難しい。

中村:ガードが固いですね。相当な鎧着てますからね。

三木:どういうアプローチがありますか?そういう方達を溶かしていくのは。

中村:ちょうど昨日まで僕論文書いてて、そこにも書いたんですけど、対話のまず扱う対象って、まるっと何かを話してるんじゃなくて、僕はよく「知・情・意」っていう言い方で説明するんですけど、知識と感情、情動と意志、意欲とあると思っていて、よく対話って定義を調べるとソクラテスの問答って出てくるんです。あれはまさに知の対話で、知識を生み出すために自分の思ってることを言うみたいな。その次のレイヤーが感情。自分の気持ちを吐露するとか、想いを出すとか、喜怒哀楽を共有することによって、ある種の一体感を感じやすくなる。でもさらに深くなってくると、自分の意志とか意志のベースにある価値観みたいなところに触れてくると、ある種の深いつながりができて、共鳴・共振しやすくなる。

宇都宮:その辺なんて言葉が出てこない領域じゃないですか。言葉を探すみたいな。

中村:これを深めていきたいんですけど、最初から深めようとすると、出したくない氷山の下の部分ですよね。逆にでも皆さん知識という部分は得意なんですよ。

三木:コンテンツを延々と喋るのね。聞いてないんだけど。

中村:逆に言うと、(氷山の)下の部分を出していいっていう安心感を醸成すればいいわけです。それは何をすると安心するかっていうと、多くの人は頭でまず安心したいんですよ。ここで話すことにメリットがあるとか、目的に適ってるとか、要はちゃんと筋道が通ってるって話が分かると出るんです。

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宇都宮:ロジックとかですか?

中村:ロジックとか。僕は例えばアクセンチュアさんと対話してるんですけど、そういう場合は対話って何だとか、どんなロジックなのかとか、どんな効能があるかって言うと安心するんですよ。「だから感情出したほうがいいんだ」とか、「だから価値観出すといいんだ」みたいな。

宇都宮:ロジックって要は一応筋道通ったようなことを伝えるとするじゃないですか。僕達のロジックを伝えると、逆に向こうは感情的になる傾向があるじゃないですか。ロジックとロジックがぶつかり合って、こっちは全然感情的になっていないのに、向こうはどんどん感情的になっていくみたいな、慣れてない人がいるじゃないですか。そこは向こうのロジックに合わせていく感じなんですか?

中村:そうですね。向こうのロジックで話すんですね。

三木:そこは上手ですね。

中村:コンサルティングファームにおけるコンサルティングにおいて、対話って何だって話をすると「それしてるよ」「でしょ?」って。「だからここでもしよう」って言うと「その通りだね」って。基本的に頭の良い人は頭で理解すると早いんですよ。だからそこの相手のロジックをちゃんと理解することで、僕も入りやすくなるなっていうのは体験的に覚えました。

宇都宮:知識を持ってるってことなんですね?向こうの対象となる人は。

中村:ちょっと言い方を変えると、その人が仕事において、もしくは日常でも必ず対話を使ってるんですよ。そのことを思い出させてあげれば、「あ、それが対話?」「そうですよ」みたいな。

宇都宮:うまいですね。そこが入り口でってことですか?

中村:例えばコンサルティングファームに行くと、相手のニーズを確認したり握り合うっていう場面があって、相手の気持ちを知ったり関係性を築いてるんです。「その時って確認しますよね?相手の気持ちとかどういうロジックがあるかって確認しません?それをするんですよ。それが自分のマインドセットだったり、価値観だったりが分かったほうが、話進めやすくないですか?」と言うと「あ、そうですね」。「それで出てくると違いが分かって、違いが分かるとお互い何がやりたいかって話しやすくなりません?」と言うと「確かに」。「だから感情とか価値観も出してくださいよ」って言うと、「そうだね。俺こう思ってるんだ」みたいな、逆に出て来過ぎちゃって「おおっ!」みたいな。

三木:なるほど。そこがうまいですね。僕らそこが苦手なので。

宇都宮:「取りあえず自分を出してください」ってマインドマップに自分の人生を書き出して、取りあえず自己紹介をしていって、チームビルディング的なことをした上で、そこで今度イス瞑想に入るんですよ。そうすると瞑想で出る人もいれば、出にくい人もいるっていうのがあって。

中村:そうですね。瞑想は人によってはちょっと拒絶感がありますもんね。

宇都宮:だからそこのアプローチがいいのかどうか、結果が出てるからいいんでしょうけど、もっと確率を上げるにはどんなやり方があるのかなって思いつつ、今勉強中です。


●新刊の本『なぜ、「すぐに決めない」リーダーが結果を出し続けるのか?』

宇都宮:その貴重な失敗体験を元に本を書かれたんですか?

中村:そうですね。

宇都宮:どういうニュアンスなんですか?リーダーって、決断してどこかに連れて行くっていうイメージがどうしてもつきまとうじゃないですか。「すぐに決めない」だと、うだうだしてる印象がありますよね?

中村:今回僕は対話のスキルの中で、「保留する=サスペンディング」っていうすぐに判断しないスキルがあるんですけど、そのことを前面に押し出したリーダーシップっていうのを書きたいなと思っていて。こちらですね。

三木:こちらです。星が5つ付いてます。

宇都宮:でも保留のタイミングもあるじゃないですか?どのぐらい延ばしていいのかとか、空気があるじゃないですか。それはその場その場で直感的に感じ取るんですか?

中村:ここではスピードは大事なんだけど、1つは人に対してのこと、組織に対してのことっていうのは急がないほうがいい。例えば「三木さんってこういう人だよね」ってすぐに判断するんじゃなくて、「三木さんこういうことするんだ」って保留しながら理解していくことが大事で、それは組織にも当てはまる。人のことがまず1個と、もう1個はいわゆる意思決定っていう普通の場面においても、変化が激しいからこそすぐに決め過ぎると大局観を見失う。要は大きな流れの中で本当にどこに行きたいかっていうことは、まさに自分の直感に聞いたりチームで直感を信じて立ち上がるものを待つことのほうが有効だよっていう。

三木:確かに。

宇都宮:コアにあるものがあればいいけど、気づいてない人もいるじゃないですか。上から降ってきたものを粛々とちゃんとやってる人も多いじゃないですか。そうすると自分の中にまだ確立されてない人も…

中村:多いと思います。1、2章では人に対して組織に対してそうしたほうがいいよっていう話と3章では自分自身がまずそこの立ち上がってくるもの、湧き上がってくるものをちゃんと感じて信じて決めていこうっていう。

三木:トゥルーじゃないですか。

中村:まさに一緒なんです。

三木:ぜひこちらも合わせて…

中村:合わせてお買い求めいただけると。

宇都宮:もう1つ『幸福学×経営学』も合わせて。

中村:皆さんそこセットなんですね。

三木:3冊でセット。

宇都宮:今度セットで何かトークイベントしましょう。

中村:確かに3人でやったほうがいいですね。


●決める時に自分を手放して境界線をなくすこと

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中村:三木さんの苦しみって何の苦しみですか?

三木:思い通りにいかないというか…

中村:僕もそうだと思っていて、自分でコントロールしたいんですよね。思い通りって。逆にそれを手放して必要なことを待ったほうが、僕はいいと思うんだけど、そこにすごく大きな恐れがあると思うし、ビジネスとして逆に言うと非常識、自分の責任を手放すっていう。僕は禅とか東洋の哲学って、自(みずか)らと自(おの)ずからの“あわい”ってよく言うんですけど…

三木:自力と他力本願の混ぜ混ぜのところで区別できないんですね。入れ子構造になっているからって(藤田)一照さんが言ってました。

中村:本当そうなんだよな。その間に漂うことが僕は大事だと思っていて、自らを手放すわけでもないし、自ずからを信じないわけでもなく、共にいることが大事だと思っていて、その自ずからの力をもっとみんなが扱えるといいなと思っていて、それを僕らはティールって組織のことをよく言ってるんじゃないかなと思うんです。

宇都宮:でも体の感覚がないと頭で考えても成り立たないじゃないですか。

中村:そうですね。だから今の言葉は能の言葉なんですよ。能を舞う時の極意じゃないけど言葉で…

三木:僕はそのトレーニングが瞑想なんです。瞑想の中で体感をしながら、最後は必ず自分を手放す訓練を毎朝毎朝やっていると、そういう状況になった時に、もう自分を溶かしてそこに漂わせちゃえばいいんじゃない、みたいなモードになると割とその流れが。

宇都宮:中村さんはどういう感じなんですか?

中村:やっぱり森なんですよ。僕は森を思い出すんですよ。

宇都宮:森に行くわけじゃなくてもいいんですか?

三木:森のイメージを頭の中で?

中村:イメージというか僕が森になるんですよね。

宇都宮:(笑)もうちょっと具体的におっしゃってほしいんですけど、そこで「僕が森になるんです」って言うと、たぶん三木さんと同じ程度の宙の浮き方なので、もう少し地上にいる方々に伝えていただければ助かります。

中村:森って言うと山の森じゃないですか。でも森の境界線ってないですよね。ここが森かもしれないし、境界はないし全てはつながってるし、その中で生かされてるし生きてるっていう関係でしかないということを、僕は思い出すんです。それこそ森のリトリートに参加した人が、「帰って来ちゃった」って言うんですけど、僕はこっちも自然だと思うんですよ。今普通に人間が言っている森という概念か、町という概念かの違いでしかなくて、自然じゃないですか。っていう一体感の中にいると、自分が自分だけではない、まさに自分の境界がない感じになってきて、その中の一部でしかないから、今もし3人で話してれば、3人の一部でしかないから3人で決めればいい、みたいな感じになってくるんですね。


●SDMでの対話の研究と対話学について

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宇都宮:森に行ってから徐々にこうなってきたとか、対話をしていく中でそういうのがインプットされてきたっていうことですか?

中村:僕にとって対話は、森で感じたことを、いわゆる都市とか町とか人工的な中でも起こすことが対話であって、原点は森なんです。

宇都宮:自然現象みたいな感じなんですか?

中村:でもそういう意味ではそうかもしれないです。つながり合ってることを確認するとか、全体の一部であることが分かるとか、湧き上がってくるものから作るとか、そういうものの1つの方法論が対話と呼ばれてるものぐらいですね。

三木:分かります。Zen2.0はまさにそんな感じなのでかなり鍛えられますね。ビジネスの世界とは全く違う方法論で動いてる世界だから。

中村:shiawase2.0もそうでした。いわゆる普通のビジネスでいう混乱の極み(笑)。「これどうやって決めるんだ」みたいな。

三木:そうですね。ビジネスとNPO的な活動両方やるとすごい良い。両方のノウハウを行ったり来たりできるといいと思いますね。

中村:感じることを取り戻すことを僕は森でやっていて、それをまさに体現したいからこそ対話っていう場を通じて感じてもらうことをやっています。

宇都宮:感じる能力が高まるみたいなことなんですか?

中村:まさにそうだと思います。

宇都宮:イノベーションにつながってくる文脈が得られる感じなんですか?

中村:それはもう書いてあるじゃないですか。

三木:感じるためのトレーニングってどういうこと?森ですか?ヨガとか瞑想とか?

中村:実はヨガとか瞑想とかそんなにしてなかったんですけど、森に何度も行ってるとヨガとか瞑想に近い状態にすぐなっちゃうんです。前野さん含めて色んな人が「全く一緒だね」って今話をしてて。

三木:そうなんだ。今度森に行ってみよう。どんな森でもいいんですか?

中村:それもさっき前野さんと話してた。自分流で行ってもダメで、最初は僕ら入ってるような者にナビゲートしてもらって入っていく。それを覚えると自分でも入っていける。開き方のコツみたいなのがあるんですよね。

宇都宮:開くっていう表現なんですか?

中村:僕の感覚でそんな感じですね。開くとか境界を滲ませる感覚。

三木:境界を滲ませるね。分かります。

宇都宮:この本(『トゥルー・イノベーション』)にも箱から出るっていう表現を使ってるんですけど。

中村:ありましたよね。たぶん一緒じゃないかな。

三木:箱から出ると少し境界を滲ませるのとたぶん違って、肉体的な感覚を滲ませる感じじゃないですか。

中村:僕それこそ研究し始めて理屈で言えるんだなと思ってるのは、例えば手って言うと手じゃないですか。でも道具を持ったらここまで手かもしれないですよね。そうすると境界って実は曖昧でそこの領域を結構自分が早く区切っててそれを超えていくことが境界を滲ませることなんだろうなと思っていて、僕は三木さんであり三木さんは僕であるみたいな話もそれと一緒じゃないですか。話してるから僕がいるんであってみたいなことを森で学んだ。

宇都宮:こういうことを研究論文にするっていう…

中村:超大変ですよ。

三木:(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科の)博士課程はいつから入ったんですか?

中村:博士課程は去年からですね。今2年生です。

三木:それはどういう意図でSDMに?

中村:シンプルで前野さんが「入れば?」って言うから(笑)。

一同:(笑)

中村:何も考えず「あ、じゃあ入ります」って。本当に別に理由はなくて流れで「入れば?」って。よく森でサインとかいう直感と一緒で「入れば?」って言われたので「入ろう」みたいな。いくらでも後付けできますけど、一番有力なのは知識でも対話について理解してみたいっていう。

三木:僕と同じですね。

中村:今論文をこれから書かれるっていうお話がありますけど。

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三木:書きます(笑)。あともう1個おもしろいのが、ミラノの工科大学の先生(Roberto Verganti)が、意味のイノベーションって言ってて、それも内的な自分の中を見てそこから湧き出るものでデザインするっていうのがあって、そこの研究者の方とこの間知り合って、ディスカッションしてみたいなと。

中村:いいですね。そもそも対話自体が意味の流れを変えるっていうのが原型なんですよ。デヴィッド・ボームが言ってるのは、そこに流れる意味を変容させていく、むしろ上書きしていくっていうことが対話の効果であって、解釈とかではなくて意味自体が変わっていく。

三木:そういうことなんだね。意味のイノベーションって。

中村:そうそう。全く同じことを言ってるなっていうのはある。

宇都宮:そのSDMでデザインシンキングとかをしているところと、今やっていることと接合している感じなんですか?

中村:接合しますね。要はシステムデザインマネジメントなので、まさに対話についてもシステムで見る、デザインと見る、マネジメントするっていうことは感じてるし、僕が1年目の博士課程で分かったのは、対話について分からないことだらけなんだなって分かったんです。本当に対話って切り口の研究ってされてないから、教育にも医療にも経営にもあるし、言語にもあるし社会問題にも文化にもいっぱいあって、分からないって思ったんです。それを最後1年後に発表したんだけど。

三木:重要。分からないことが分かる。

中村:みんな苦笑してましたけどね。1年間の発表で。だからやっと少し包括的にやることの難しさを理解して、「経営のこの場面においての対話をいってみよう」とか今ちょっとずつやってて、小さい柱を立てる中で少し土台ができたら次の大きなテーマ、対話学っていうのを作りたいんです。

三木:それぐらいの大きなテーマですね。

中村:今対話学と対話工学を作ろうと思ってて、そのためには色々な方法、手法、考え方を研究したいなってところにいます。

三木:幸福学と対話学か。

中村:いいですよね。一緒にやりましょうよ。

三木:はい、ぜひ。

中村:論文書くんだし(笑)。軽くプレッシャー(笑)。


●しあわせホテル、ウェルビーイングデザインセンターと鎌倉学校について

三木:ちょっとしあわせホテルの話を聞きたいんですけどどんな事業なんですか?

中村:しあわせホテルは元々は僕が始める前に4人ぐらいが瀬戸内市の牛窓っていう場所の診療所跡地を使って、「その建物を利活用してほしい」っていう瀬戸内からのコンペがあって、そこの準備をしてたんです。僕がジョインしてからは、しあわせをコンセプトにしようとか、対話っていうことを広めていこうっていう話になっていって、今はウェルビーイングのラボであり、しあわせを体験するホテルを作ろうとなってきていて。一番は前野さんが言ってる幸福学×経営って話をしてますけど、幸福っていうことを考えたり、体験したり学ぶ場を作りたいな。

三木:いいですね。

中村:それを今ウェルビーイングデザインセンターって前野さん言ってますけど、それを研究施設でもあるんだけどより広く色んな人が学んで体験する場を全国に作りたいなと思っていて、そのスタートがたまたま話があったので牛窓で、でも鎌倉があったら鎌倉でってどんどん増やしていけばいいよねって今は思っています。

三木:その中で何かそういうワークショップとかをやるっていう感じですか?

中村:まさに4因子の話だったり禅の話だったり、幸福につながるであろうことを学んだり体験したり気づけたりっていうことのプログラムと、それにあった場というのかな。僕らもリトリートする時とか、対話する時って場を選ぶんですけど、しっくりくる場所が少ない。そういう環境を備えて、プログラムがあって、人がいてコミュニティがあるような場所を作りたいなと思っていて、それを今まずは牛窓っていう場所から始めてみようっていう。

三木:なるほどね。ちょうどZen2.0の先に学びの場を作るっていう。そこに色んな登壇者が来るじゃないですか。鎌倉に毎年1回。その中から気に入っていただいた方に、鎌倉に移住してもらって教えてもらうっていう企画を2年前に考えて、去年Zen2.0をやって、スティーブン・マーフィン先生が実際来ることになって。半年ずつスタンフォードと鎌倉を。

中村:素晴らしいじゃないですか。

三木:その学校を北鎌倉に来年の4月から。

中村:北鎌倉のどの辺ですか?

三木:北鎌倉の駅を降りてすぐに古い図書館みたいなのがあって、そこを中心に他の寺とかも連携しながらやろうという企画があって、妄想だったのが本当にそうなったから妄想は重要だっていうか。それもインスピレーションで、瞑想の時に0.1秒で降りてきた絵をバーッと描いて、彼がスタンフォードに帰る直前、羽田で引き留めてエレベーターピッチをしたんです。「先生、ぜひこれをやりましょう」って言ったら「OK」って。それで実際もう彼は4月から移住の準備をするということで。

中村:すごいですね。

三木:スタンフォードの学生をこっちに送って、お寺とかでコミュニケーション、彼が言うスピリチュアル・ペイブとか、順で鎌倉に住むみたいな西田幾多郎の精神です。それと今のしあわせホテルをまたちょっとコラボすると、色々…彼もしあわせホテルで教えたりとか。

中村:ぜひしてほしいな。まだまだ閉じた世界だし、一部の人しか反応しない世界だから、より大きな流れを作っていきたくて。瀬戸内の場合は今連携しようとしているのは直島含めた福武財団の方達と一緒に連合してやろうとか、あとは鳥取の智頭町とか、西粟倉村とかあの辺の縦の連合、縦と横と四国のほうも含めて色んな地域周りながら、その地域の暮らしを体験するとか色々なしあわせを見つけるとか、そういうこともできるといいなと思って。ある種のウェルビーイングジャーニーというか、その中で自分が見つけて湧き上がるものから生きていく。そういう時に例えばzenschoolみたいなものがあって、具体化するとかそういうふうな流れができてくるといいなと思ってて。

三木:ウェルビーイングネーションみたいなものですか?僕らそれマインドフルネーションジャパンって言ってるんですけど。

中村:すごいな。先行き過ぎじゃないですか。

三木:結構近い。

中村:後追っていっていいですか(笑)。

三木:ほぼ同じことをやってるから何か一緒にやればいい。

中村:一緒にやりましょうよ。

三木:マインドフルシティ鎌倉は、たぶんウェルビーイングシティ鎌倉と同じ意味だと思うので、それを鎌倉だけじゃなくて、京都とか奈良とかあと福井とか、仏教寺院が盛んにあるところを今ベースに考えてるんですけど。

中村:いいですね。僕も奈良でたまたま昨日打ち合わせしてて、仲間が「奈良がいいんじゃないか」って言って。

三木:奈良はやばいですよ。奈良の東大寺の中の二月堂っていう御堂があって、そこの中の仏像が超パワフルなんですよ。その頃の奈良時代の仏像って、それで国を興そうという仏教の超勢いがある時に作られた仏像なので、静かでなくてすごい迫ってくるんです。

中村:会いたい。

三木:超やばいですよ、本当に。

中村:こうやって出会っていくんだな。


●今後の方向性について

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宇都宮:ビジネスの世界にいる人からは、すごい宙に浮いた抽象的な話をしてる風に思われてるんですけど、実際僕らこの本でも書いてるように、ビジネスがそっちになっていかざるを得ないよねって話をしていて。既存のビジネスだけでは持続もしないし、どんどん大企業がリストラを始めてる以上、ビジネス自体がシフトしていく。そういう、心をアップデートするような方向というか、マインドフルビジネスって僕ら言ってるんですけど、そっちを生み出すためのイノベーションこそっていうことだしzenschoolだしっていうことにしているので。

中村:間違いないと思います。


●中村さんの考える「日本の○○の未来」に対する想いについて

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三木:皆さんに最後に質問してることがあって、中村さんにとっての『対話』の未来っていうのはどんな感じですか?

中村:僕は前野さんに近いかもしれないですけど、前野さんのしあわせっていうものが誰もが理解できて測れて伸ばせて広げていけるっていうある種のしあわせ工学って言ったんですけど、僕も対話を対話工学にしたいなと思っていて。そもそもたぶん人が古くから持っている方法、営みなので絶対できるはずなんですよね。だからそれをより明確に測れたり対処できたり広めていける方法を作りたいなって思ってるし、それは少なくとも僕が生きている間にやることだし、やった上でそれを使ってよりしあわせな社会を作るっていうほうに僕も早く行きたいですね。

三木:素晴らしいです。だから幸福学、対話学、そしてトゥルー・イノベーション学があれば世界が変わるという。

中村:確かにその通りですよね。

三木:結構日本はパワフルになると思うんですよ。その3つの学問が。

中村:かつ僕は日本だからこそ言えることは凝縮してると思うし、僕らのやっていることはそこだと思うのでそれを取り戻したいですよね。

三木:そうそう。皆必ずd.schoolとか行っちゃうけど。

中村:こっち、こっちみたいな。

三木:t.schoolで。

中村:トゥルー・イノベーションスクール。皆さんt.schoolで。

三木:だから対峙するんじゃなくてそこの対話をしたいんですよ。d.schoolの中にトゥルー・イノベーションが入って対話をして新しいものに変化させるとか。

中村:まさに生み出したいですね。

三木:そういう意味でも鎌倉に作ろうとしている学校は、スタンフォードとの連携がありそうなので、そこでまたマインドフルネスの文脈じゃなくて、デザイン思考とかその辺との絡みをどんどん生み出していきたいなと思っています。

中村:いいですね。一緒にしましょう。

三木:今日はどうもありがとうございました。

中村:来てよかった。ありがとうございます。


対談動画


中村一浩さん

:⇒https://www.facebook.com/kazuhiro.nakamura.33


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