MBS183菱木さん

「ロボット化により、半農半“X”の業態が急増する」Inaho株式会社 Co-Founder/CEO 菱木豊さん

●ご挨拶と出演者紹介

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 三木:第183回マインドフルビジネスストーリーということで、今回からタイトルを少し変えました。よりマインドフルなビジネスを紹介していくということでMBS(Mindful Business Story)になりました。本日はInaho株式会社のほうにお邪魔して、菱木さんのほうに色々マインドフルな農業用ロボット開発のお話を…

菱木:ヤバいやつを…(笑)。

三木:ヤバいですね。


●三木さんとの出会いについて

三木:菱木さんと最初にお会いした頃は、我々は結構モノづくりのイメージだと思われてたと思うのですが、それからシフトして、モノからITとか金融そして心に移ってきたと。

菱木:なるほど。幅広く…

三木:菱木さんと最初にお会いしたきっかけはカマコンというところで、面白いお兄さんがいるなと(笑)。

菱木:変な奴がいると(笑)。

宇都宮:どう面白かったんですか?

三木:結構中心的に無理難題を振られてキーボードのキーが折れながら…

菱木:確かにやってましたね。懐かしい。それ何年前ですか?

三木:4年ぐらい前。IIKUNI(鎌倉をよくするアイデア支援!鎌倉市限定クラウドファンディング)を当初一緒にやってた。

菱木:4、5年前ですよね。


●菱木さんの経歴と農業用ロボットの開発について

三木:その時の本業は何だったんですか?

菱木:その時はomoroっていう会社をやってた時なので、とにかく面白いことを色々やっていこうということだけ考えてたので、Webサービスやフェスをやってみたりとか、多ジャンルで色々やってた感じでした。

三木:それがなぜ今の農業用ロボットに至るのかと。

菱木:その4、5年前ぐらいから三木さんもご存じのTheWave塾をやってる湯川さんのところでずっと事務局みたいな形でやり続けていて、当時、まだ流行っていなかったAIの講座が始まったんです。

その時に例えば有名どころで言うと東大の松尾(豊)先生とか色んな方達の話を聞く機会があって、AIが次の時代の潮流を作るなと思ったんです。

AIで何かできないか1年ぐらい考え続けていた時に、たまたま知ったのがアメリカにブルーリバー・テクノロジーズって会社があって、当時レタスを自動的に間引くっていうことをやってたんです。

カメラの画像処理でディープラーニングで等間隔で種付けしていくんですけど、等間隔じゃなくちょっとずれちゃったりとかするわけです。そうするとあまりにも近接して生えちゃうと両方とも成長を阻害しちゃうので、等間隔になってるかっていうのを上からカメラで見て、レタス同士の間隔が不十分なところは、自動的に薬剤をビュッと散布して、間引いてくれて、成長を促していくっていうのをやっててすごいなと思ったわけです。

宇都宮:それは自動的にしてるんですか?

菱木:自動的にしてるんです。それが5年ぐらい前の話なんです。これはすごいと思って、鎌倉で鎌倉野菜を作ってる農家の友人がいたんです。そいつとたまたま飲む機会がそれを知った次の日にあって、今の話をしたら「いや、菱木さん、レタス間引いてる場合じゃないです。うちの雑草なんとかしてくれ」って言うんです。どういうことか僕も分かんなくて、畑なんて僕行ったことほとんどなかったので、行って雑草取ったらむちゃくちゃ大変なんです。この雑草を取るために何をすればいいんだろうって思った時に、野菜か雑草かをディープラーニングで見分けて画像認識して雑草だって見分けることはできそうだっていうことは感覚的に分かったんです。ずっと1年以上AIの勉強したので。あとはこれを取る機構さえあればできるんじゃないかと思ったのがきっかけです。

三木:でもロボットでしょ?その頃やってたお仕事は…

菱木:全く関係ないですね。

三木:そこでモノづくりにいけるっていう何か自信というか…知らなかったっていうことですか?

菱木:今振り返ると知らなくて本当に良かったなって思うんです。

宇都宮:怖いもの知らずですね。

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菱木:まさにロボットって作ろうとするともちろんハードだけじゃなくてソフトの認識だったり、つなぐのだったり電装だったりとか、とんでもなく大変な世界で、そもそも電装があるのもよく分かってなかったので、基板がどうたらすら分かってないタイプだったので良かったなっていうのもあるんですけど、10年後ないしは15年後にロボットが雑草を取ったりとかもしくは野菜を収穫したりっていうのは絶対当たり前の時代になるなっていうことだけは予見できたんです。

宇都宮:それは何かビジョンを見たんですか?

菱木:それはAIとかのロボットないしはそういったものの自動化していくのが基本的に潮流を見ていくと必ずそうなるだろうなっていうのはテクノロジーの進化を考えた時に思ったので、今の世の中にそのサービスがないとなった時には…

三木:作るしかないと。

菱木:作れるか作れないかっていう問題があるんですけど、まずチャレンジしてみる価値はあると!できないんだったら、できない理由はどこにあるのかを探ることが重要だと思ったので、まずはやってみました!知見を持っている人達に会いに行き、どうやったらできるのか?難所はどこだったか?今は何が課題なのか?をひたすら教えてもらいました!現状が把握できれば、あとは何を解決すれば良いか大枠が理解できるので、自分が出来ない部分は、出来る人と一緒にやって進めていきました。

三木:まずは色々ヒアリング、人脈づくりで、その次のステップはどんな感じですか?

菱木:分かったことは、外の太陽光が降り注ぐ中できちんと認識するってすごい難しいんです。カメラとかって太陽光が直行でやってくると白ボケしちゃうじゃないですか。センサーも一緒で、僕らは今TOFっていうTime-of-Flightっていう赤外線のレーザーをバーッと打って、当たって返ってきた値を見て分析することをやってるんですけど、なかなかノイズが入ってきて認識しづらいっていうのが原因であることが分かったので、それをできるセンサーがないかっていうのを探してた時に、たまたまそれをやってる会社があってそれを最初使いました。

三木:それは日本だけの高性能なセンサーなんですか?アメリカとか海外では出してないっていうか…

菱木:僕やってたのは3年ぐらい前なんですけど、当時はほとんどなかったですね。海外はそこまで調べ切れてなかったですけど、日本で普通の民生でそれでもカメラ1個25万とかするんですけど、ほとんど他になかったです。ただ標準なアプリケーションでちゃんと認識して獲れるはずなくて、僕ら野菜っていう特殊なもののデータを取ろうとしてるので、そこの会社さんに我々の獲りたいアスパラガスのデータを取るためのアプリケーションを作ってくださいっていう形で当時お金なかったんですけど、4-500万ぐらいで発注をかけて作ってもらったんです。

三木:すごい。いきなり 4-500万。

宇都宮:それは自己資金で?

菱木:いやいや、ほとんどお金集めてましたね。

三木:エンジェル的な?

菱木:エンジェル的な感じで。

三木:それでそれっぽいものができてきた感じですか?センサーがあってアプリケーションがあって。

菱木:アプリケーションできたんですけど、結論ダメだったんですよ(笑)。

三木:結構ショック?

菱木:めちゃくちゃショックですよ。お金も集めちゃってそのお金も使ってるし。何でできなかったかって言うと、ちゃんと実績があって評価されてるセンサーなんですが、そのセンサーが検知してるのは人の体のサイズが対象であって、僕らが認証する対象は野菜であって、全然サイズが違うんです。そうするとレーザーを打った時に返ってくる値の数が全然少ないんです。データが欠損しちゃったりとかっていうので、例えば獲りに行こうとしてちょっとズレちゃうっていう問題が発生して、「どうしようもない」って言われて、「はっ!?」みたいな感じで。

宇都宮:レーザー認識なんですか?

菱木:そうです。赤外線レーザーみたいな感じですね。

三木:「どうしようもない」って言われて「はっ!?」って言って、次はそれで?

菱木:その時にこのソフトウエアの認識ができる人材が必要だと思ってたので、Wantedlyで募集をかけてたんです。

宇都宮:エンジニアを?

菱木:エンジニアを。たまたま連絡してきてくれた子が、なかなかの経歴で!大学院に行ったり行かなかったりしつつ、でも自分のやりたい研究をやっているタイプで、まだ社会人経験がないのでこちらもうまく評価ができず戸惑っていましたが、「僕できると思います」みたいなことを言うので…

宇都宮:面接したんですか?

菱木:面接はしました。こっちも実績とか全然ないし未知数で、でも今困ってるアプリケーションがあるので、まだダメだって結論が出る前だったので、そこでもやってもらいながらこっちでももう1個やろうっていうので彼に最初バイトみたいな感じで発注して、こっちできないってなった後にこいつのでやったら獲れたんですよ。

三木:すごい(笑)。

宇都宮:天才じゃないですか(笑)。

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菱木:「何だったんだろう、あの500万は」って本当思ったんですけど、彼がつくったやつだとできるみたいになって不思議でした。

三木:それが今のベースになってるんですか?

菱木:そうですね。一番最初のベースですね。

三木:その後今度ロボット本体のほうに?

菱木:リサーチたくさんして分かったことは、車体の自立走行の部分はそんなに難しい技術じゃないっていうこともよく分かったんです。すでにある技術で、次に難しいところでいくと掴む部分、このロボットアームの部分で…

三木:大田区でやったんだっけ?

菱木:ここは一番最初は東工大の先生で色々なロボットアームをやってる先生がいらっしゃって、その先生とタッグを組んでそこの研究室とやるっていう形で最終的には共同研究みたいな形で「こんな感じの設計でやろう」っていうのを固めていって、発注は大田区の工場に発注した形で、次はまず動かなくてもいいからちゃんと認識してアームが獲りに行くっていうところまでをまずは実装しようっていうことを最初やりました。

三木:その後で1回見せていただいたのはもう少し時間が経ってデザインのお話の時に。

菱木:そうですね。たぶんその時はまだ車体もない時じゃないですか。腕ができたぐらいの時だと思います。

三木:そこまでの開発期間ってスタートしてからどれぐらいですか?

菱木:一番最初のプロダクト、認識して腕だけっていうのができたのが2017年6月で、スタートしたのは2015年の7月なのでそこまで2年かかったんです。

三木:2年か。それぐらいかかるよね。

菱木:でもお金あったら全然違いましたね。お金もなくて最初のリサーチが時間かかった感じです。そこからだいぶこの2年でまた変わりました。

三木:研究室と組むといっても、一応研究室にもお支払いしないといけないでしょ?共同研究費みたいな。

菱木:そうです。そこら辺もちょこちょこお金を集めつつっていう感じです。

三木:その辺は全部エンジェル資金というか…

菱木:そうです。個人で借り入れみたいなのもしてますけどね。今でも。

三木:それは何人体制ぐらいでやってたんですか?2年ぐらいまでは。

菱木:2年目ぐらいまではずっと2人ですね。

宇都宮:その職歴のない方?

菱木:違います。共同代表で2人で創業してるので、今のエンジニアのやつが出てきたのが2018年の頭ぐらいなんです。そいつが初めての新入社員になるんですけど、それでも雇ったのが2018年の7月とかなので、3年間は2人(笑)。

宇都宮:僕ら10年2人(笑)。

菱木:この事業やる前からだからもう5年ぐらいになるんですけど、それが2018年の7月に1人目雇ったのが1年で今度20人ですから。

宇都宮:すごいですね。20倍。じゃあ来年400人?

菱木:ねぇ(笑)。

三木:ブレイクスルーは何だったんですか?やっぱりこれ(SmartHR賞)?

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菱木:いや、これもこれで大きいんですけど、ICC(Industry Co­-Creation)優勝したのも。

でもプロダクトですから、さっきの段階のやつって認識して腕だけで獲りに行くだけだったのが、今度ちゃんと動いて車体がついて勝手に自立走行しながら認識して獲るっていうところまでが、PoC(Proof of Concept)の段階でちゃんと回せるようになったっていうのが大きかったです。

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三木:それを持って色々プレゼンに行けるようになったんですね?

菱木:そうですね。そうするとこれは動きそうだな感が伝わるじゃないですか。そこまで1歩いけたかなっていうのが大きかったと思います。


●農業用ロボット開発の資金難と苦労話

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三木:ほぼ2年、売上がないわけでしょ?その2年間。

菱木:そうです。

三木:その間は何か別の事業とかエンジェル同士とかで回しながらみたいな?

菱木:そうですね。でも別の事業って言っても、僕元々不動産の投資のコンサルをやってたので、たまにその仕事をちょっとやるぐらいで、お金はほんときつかったですね。身の回りのもの全部なくなりました。漫画から何から家にあるもの全部なくなりました。

宇都宮:売り払って換金して?

菱木:はい。たまに講演をするのでネタにしてるんですけど、通帳残高去年の3月800円で去年の6月300円とかなんですよ。より下がってるみたいな(笑)。ほんとにやばかったですね。

三木:結婚してる?

菱木:してるし、家賃もあるし。

三木:結婚したのはいつでしたっけ?

菱木:結婚したのは一昨年の9月です。

三木:色々と奥さんからクレームとか?

菱木:いや、一切言ってなかったです。言っても不安とか心配になるだけなので、一切言ってなかったですね。

宇都宮:表情とかには出なかったんですか?

菱木:どうなんですかね?今調子悪いんだろうなみたいなのはあったと思います。やたら家にいるなみたいな(笑)。外に出るお金もないみたいな(笑)。

三木:結構去年ギリギリだったんですね。

菱木:ずっとその状態でしたよ。たまに働くとポンとお金が入ってくるので、そうするとちょっとどこか行ったりもできたんですけど、結構ギリギリの綱渡りをずっとしてました。今でもそうですけど。

宇都宮:精神状態はどうなんですか?菱木さんご自身の。調えるとかそういうことはしないんですか?

菱木:僕も結構瞑想とか、ずっとヴィパッサナーとかやってるんですけど、それを凌駕してくるんですよね。ほんとにお金がないってなると。

宇都宮:瞑想は凌駕する?

三木:もちろん凌駕します。

菱木:例えば歩いてて大学生の奴らがいたりすると、全財産が300円とかだと「こいつらより俺のほうが金ねえんだよな」みたいなそっちが先にいっちゃうんですよ。「はぁ…辛い…」みたいな、いくら瞑想して何も考えないようにお腹の動きだけに意識を集中してってその時はそうなんですけど、歩き出して「今日も飲み会誘われたけど忙しいって言って断ったけど本当はお金がないだけなんだ」みたいな、そうなると「はぁ…」ってなりますよね。だから早く世の中が、やりたいことを躊躇なくやれる、クリエイティブな社会を創りたいなと思ってます。

三木:そうだね。でもよく乗り切れましたね。

菱木:ほんと危なかったです。よく「いくらでも佐川急便とかで働けばいい」とかって言う人いるんですけど、たぶん頼ったらいくらでもあったと思うんですけど、そっちに流れちゃうなって…

宇都宮:戻って来れないなって…

菱木:戻って来れないとか、それするんだったらとにかく本を読んで勉強するとか、農家さんのとこ行くとか、事業にフルコミット常にしてないと目の前の15万とか生活費を稼ぐために時間使っちゃうと思って、ダメだと思ってそこは粘りました。

宇都宮:でも独身で若い人だとまた何となくフルコミットできそうな、ご家庭があってその決断をするっていうのはすごい。できないって思う人のほうが多い気がするじゃないですか。

菱木:でもよくある話ですけど、やらなかったら後悔するなっていうのが一番ですね。10年後とか15年後とかにそうなってる世界が当たり前だっていうのは確信めいて、ちょっとでもアクセルが緩んでそうじゃない方向に時間を使ったりして後から抜かされたりとか、自分がその立場にすらいられなかったとか、プレイヤーですらなくなった時の後悔する絵も十分見えてたので、そこは粘れた感じがあると思います。

宇都宮:すごい心は揺れ動きますからね。

菱木:揺れ動きます。「何で俺こんなに苦しんでるんだろう。やらなきゃいけないんだろう」みたいなのはあります。

三木:色々深いですね。

菱木:深いのかな(笑)。


●鎌倉に会社を設立した理由

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 三木:何とか持ち直したきっかけがプロトタイプができてプレゼンテーションできるようになったことなんですか?

菱木:そこからちゃんとお金が入るようになってきたっていうのが大きいです。

三木:それはどういう…?

菱木:それは大きな金額の出資を受けたりすることによって、初めて自分に給料を出せるようになったのは去年の8月の話なので、それは大きいですね。

三木:ここを借りたのもその時?

菱木:借りたのは去年の7月ですね。

三木:なぜあえて鎌倉という地を選んでロボット開発をしようと?

菱木:我々農業って自然相手の仕事をしてるので、周りに自然がある環境がいいなっていうのもそうですし、あとそこに出てすぐに仮設の畑があったりするので、そういったところで実証実験が簡単にできるっていうことがあるので、畑付きの物件とか元々探してたんですけど、そういったのはなかなか都心ではないのでここにしたっていうのもあるんです。別に鎌倉じゃなくてもいいじゃないって話なんですけど、僕鎌倉出身なので、鎌倉大好きで鎌倉一番良いですからね。結構うち家族持ちの人が転職してきたりもするので、奥さんと一緒に引っ越してきてみたいになると、住環境的にも住みやすいほうがいいなというところで、今鎌倉に腰を置いてます。

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三木:すごい経歴を持ってるエンジニアが次々と集まって来てるんでしょ?

菱木:そうですね。

三木:元自動車メーカーのプログラミングをしてた方とかエンジニアとか。

宇都宮:どうやって募集したんですか?口コミとか?

菱木:Wantedlyとかなんです。今度20人なんですけど、そのうち2人Canon、2人Hondaです。スタートアップなのに。

宇都宮:年齢層は30代、40代ぐらい?

菱木:いや、20代からいて一番上は抜けてて64までっていう幅広く。

宇都宮:こちらに働きに来てる?

菱木:基本はみんなそうですね。でも佐賀県にも支店があるので…

三木:なぜに佐賀県?

菱木:我々アスパラガスときゅうりをターゲットに収穫ロボットを作ってるんですけど、佐賀県がアスパラもきゅうりも同一面積当たりの生産量が日本でもトップクラスに多いんです。ロボット的に言うと獲るのがハードな環境なんです。逆にそこでちゃんとできれば他どこに行っても獲れるっていう環境になるので、そこで今支店を置いて色々実証実験をやってます。


●農業用ロボットの紹介と今後の方向性

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三木:今見せられる動画をちょっと見せていただいて。

<紹介動画(00:35:14~00:36:53)>

菱木:人がこうやって手で獲ってるんですけど、何で人が手で獲らなきゃいけないかっていうと、出荷するときに25cm以上の長さで収穫したものという基準が決まっています。
なので、今は人が目で見て、採れるものを1つ1つ選んでいます。それをこういったセンサーを使って1本ずつ収穫適期かどうかを判断して、条件に合ったものだけを採るということをロボットでやってます。
ソフトとハードウエアは全部基本的に自社設計で、アセンブリもアームなんかは全部内製で今やっている感じです。自立走行でこんな感じで勝手に動いて勝手に獲るみたいな。

宇都宮:これは早回しじゃないですよね?

菱木:これはちょい早回しです。アスパラは育ち続けると1mもの大きさにもなるんですけど、収穫適期のものだけを獲ったり、赤外線のセンサーを使ってるので夜間でも問題なく認識して獲れるんです。これはハウスからハウスへの移動をしています。あとはきゅうりなんですけど、汎用的に色んな野菜を獲ることをやってるので、きゅうりに関してもディープラーニングで実がどれかっていうのを認識して、茎の部分をめがけて獲りに行って切るっていう。

宇都宮:切る動作も含まれてるんですね。

菱木:そうです。これは今どんどんモノのクオリティを上げていって農家さんに出して、この後トマトとかピーマンとかナスとか色んな野菜に展開していこうっていう計画です。

三木:すごいですね。相当に進んでいますね。

宇都宮:夜も働いてくれるってすごいですね。

菱木:そうですね。

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三木:一番最初に見た時(グラグラ)って感じで。

菱木:ほんと最初はそんな感じでした。

三木:すごい高速化されてますね。

菱木:まだまだですけどね。

三木:今コンペティターとかいくつかあるんですか?世界的に見て。

菱木:トマトとかを認識して獲ろうっていうのはあったりします。イチゴとか腕が20何個あるみたいな超大型のロボットがあったりするんです。

三木:イギリスの会社がイチゴでベリーという、でもスピードがいまいちだったり。

菱木:ああいったのがたくさん出てきて、まだ商業化ですごく広がってるかっていうとそこまでじゃないんです。どこも開発段階でこれから市場に出していくぞっていう、そこで言うとたぶん僕らも同じフェーズにいるので、どう早くそこを飛び抜けていけるかの勝負かなっていうところです。

三木:今後のロードマップというかどんな感じで開発していくんですか?

菱木:今年40台ぐらい生産して、来年400台っていう計画に今なってるんですけど、2022年ぐらいまでには8,400台っていうベンチマークを置いてるんです。その中でまずはなるべく早く海外に持って行きたいなっていうのがあるので、できるならば来年とか再来年の段階で海外にテストで持って行くことをしていきたいなと思っています。

三木:何となく販売価格みたいなのはあるんですか?リース?

菱木:一応売らないっていうことだけは決めていて、世の中の市場の取引価格ってオープンになってて、例えばkg単価1,000円の物を1kg獲ったら1,000円分の野菜を獲ったっていうことじゃないですか。これに対して例えばマージン15%頂戴するっていうビジネスモデルなんです。分かりやすく言うと1,000万円分の野菜を獲ったとすると150万円もらいますっていう料金体系に現状しています。

宇都宮:Robot as a Service(RaaS)っていう言葉はありますよね。

菱木:そうなんです。サービス型で提供していこうということです。

三木:メンテナンスもこちら側でやる?

菱木:そうです。メンテナンスはこちら側でやるので、何でそんなことをやってるかと言うと、カメラとかセンサーとか年々常により良くなっていくので、それを常にアップグレードし続けるということをねらいとしています。例えばいきなり100%獲るっていうのは難しいんです。ハード、ソフトをどんどんより良くして獲れる率が上がっていくと農家さんは手間が減るので、生産面積を増やしたら売上や利益を上げれるじゃないですか。そしたら僕らも利益上がるよねっていうところでお互いにとって良いよねっていうことを考えてます。

宇都宮:機械として購入すると資産になっちゃって今度償却しないといけないから、どんどんビジネスしても負担が増えていくから農家さん的には…

菱木:inaho側が償却資産どんどん増えていっちゃいますね。農家さん側としては導入費用は無料でいいので…

宇都宮:ランニングコストだけ負担する形?

菱木:そうです。収穫高に応じて利用料としてお支払いいただくメニューにしてます。

宇都宮:市場価格と連動させるイメージですか?

菱木:そうです。

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三木:サービススタートはいつぐらいが目途ですか?

菱木:もうそろそろ農家さんのところに入ります。

三木:すごいですね。

菱木:農家さんのところでテストみたいな形でずっとやってるんですけど、圃場全体を収穫できるようになるのが間もなく、という状況です。

宇都宮:今のところ作物を限定して出す?アスパラときゅうりっていう風に…

菱木:今はアスパラだけですね。アスパラの次の作物として、きゅうりにも対応できるように開発を進めているんです。

宇都宮:作物によって違いますもんね。当然マニピュレーターとかアルゴリズム変わりますもんね。

菱木:変わります。マニピュレーターの中でも本当に手元のエンドエフェクターの部分だけ変えようっていう感じで、ここの(アーム)部分は基本に同一で使えるように設計を考えています。あとは認識部分がそれぞれあるので、それぞれに対しての開発っていうのは必須になってくるところです。

宇都宮:無数にありますね。野菜にしても果物にしても。

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菱木:そうです。優先順位を付けて、ロボットがやりやすいものからやっていこうと思ってるので、ここら辺のきゅうり、ピーマン、ナス、トマトとか、あとはイチゴとかですね。長さで収穫するしないが決まるのが結構多いんです。もしくはここの直径、幅も見て表面積でだいたい見れば分かったりするので、ここら辺だと色が加えてくるんですけど、いくつか段階を経ながらやっていく感じです。

三木:すごい広がり感がありますね。

菱木:そうなんです。

宇都宮:製造はどこで製造を?どこか契約した工場で?

菱木:そういったところで、今のプロト40台に関してもとある工場さんに今お願いしていて、ちょうど今週やってるところなんです。その次の量産のところも製造に関しては外部でお願いするってなっているので、いくつか工場に当たってるところです。そんなに外で動きものやってるとこって多くはないので、工場も色々あれなんですけど。


●モノづくりにおいて一番大変だったこと

三木:モノづくりのお話を聞きたいんですけど、4年前は全く素人が今ここまで来てるっていうところで、モノづくりでどの辺が一番大変でしたか?

菱木:思った通りにいかないことが多すぎるですかね。何事もそうだと思うんですけど。

宇都宮:ソフトとは違いますもんね。物理的な物があると重量があるとか…

菱木:そうですね。環境が変化するんですよね。

宇都宮:外部環境、温度とか湿度とか。

菱木:野菜の生え方っていうのも時期によってそれぞれ変わるわけなんです。分かりやすく言うと、例えば春夏秋冬ってなった時に、春の期間になるとちゃんと獲れてるんだけど、夏になった瞬間今までの春のアルゴリズムじゃ獲れなくなるみたいなことが発生するんです。そうするとこれに対応させるためにっていう形で、本当にリーンに色々作り続けなきゃいけないっていうのが大変です。それでも様々な環境のもとで安定感が出たらきちっといけるので、よく他の会社が同様のビジネスを始めるみたいな話があるんですけど、逆に言うとこの大変な試行錯誤が参入障壁の1つになるんです。

宇都宮:データ量自体が…

菱木:データ量もそうですね。例えばソフトウエアでデータをガーッと集めて解析できるかっていうのと、物理環境が変わるっていうのってそう簡単にデータとして集めにくいことなので。

宇都宮:ハードウエア自体が参入障壁ですね。

菱木:そうだとは思います。

宇都宮:モノづくりを知ってる人からすると逆にできないですね。知ってるほどたぶん踏み込めない領域というか…

菱木:もう大変なことが目に見えすぎるじゃないですか。モノづくりの人からすると。それがなかったのが良かったですね。

宇都宮:逆に言うと踏み込んだから分かることもあるので、知ってる人ができないことをやるのはたぶんベンチャーというかスタートアップみたいな。それをサポートするような体制ができてくるといいですね。

菱木:そうですね。

三木:面白いなと思うのは、我々はモノづくりからそうじゃないほうにどんどんシフトして、逆を行ってるからね。


●癒しとしての農業と農業の課題について

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三木:我々マインドフルシティということで鎌倉を中心にこんな町にしていきたいということで、Zen2.0っていうイベントをやったりとか、それがきっかけで移住してくる人とか、マインドフルネスのコミュニティができたりとか、人の心の部分に焦点を当てて色んな活動をしてるんです。

農業というのも人の心を癒す面でも重要な産業だと思ってて、お仕事としてやるのは大変なところもあると思うんですが、僕らは農業を癒しに使って土と触れ合うことで心が豊かになっていくところに可能性を感じてるんです。菱木さんの農業に対する今の想いというか、ロボット開発をしながら日本の農業がこういう風になっていったらいいなみたいなのはありますか?

菱木:そういう文脈でいくと、人の心に与える影響はあるだろうなっていうのはやりながら実感してる部分もあって、それはロボット作ってるっていうのと全然真逆なんですけど、畑に行って体を動かして何かやったりすると気持ちいいんです。いい汗流してみたいなのは間違いなくありますし、かつ社内でも「これは小学生とかみんなやったほうがいいよね」みたいな話に結構なるんです。それはそういうことをやってくれてる人達がいることを知ることによって、それこそ感謝して食べ物食べれるようになることもあるので、そういった気持ちを作っていくっていう意味でも、やはり人間って食べ物でできてますから、そこの源流から知っていくっていうことは非常に重要なことだと思います。

三木:ロボットを作っている人がそういうことを思うのは面白いなと思って。

菱木:ロボットができたとしても人間が行っていること全部をロボットが行うことは不可能です。そこには必ず人が協働していく、例えば収穫という作業はロボットに、よりおいしい野菜を作ろうとか、より安心して食べられる野菜を作ろうとかって、これは人側のアプローチがないとできないことです。そういった意味ではいくらオートメーション化、機械化だって言っても人が介在するのは必ず残るので、そこにはどういった気持ちでやっていこうかみたいなものも十分加わってくるポイントかなと思います。

三木:テストの中で色んな農家さんと対話していくでしょ?それぞれの農家さんの色んな想いがあると思うんですが、その中で気づいた日本の農業の課題はあるんですか?

菱木:僕らはどんな課題にアプローチしているかって言うと、間違いなく人手不足なわけなんです。例えば売上を増やしたいと思っても、人を安定的に雇うことが難しいので面積を広げられないっていう課題があるので、単純作業をなるべくロボットとかで自動化して、彼らが人を雇うんじゃなくても安定的に雇用の代わりができて、面積広げて売上増やしていくことに寄与できればいいなと思ってるんです。マインドフル的な文脈で言うと、田舎の農家さんとかって良い人めっちゃ多いんですよ。それは普段の過ごし方とか心のあり方とかっていうのがあるんじゃないかなと思っていて、喧騒の中で働いてるわけでもなく、日常的に畑の中とかに行って、(農作業って)瞑想をやってるのと一緒ですよ。単純にずっと何か作業してっていう…

宇都宮:作業をして今ここに集中して…

菱木:常にある程度目は視界を広げて見ておくとかっていうことを自然の中でやり続けてる人達ですから。

宇都宮:お坊さんみたいな。

菱木:修行僧ね。絶対自分にはできないなと思います。でもそれをやってる人達って良い人多いですよね。

三木:お坊さんみたいな人達が多いんじゃないですか。

菱木:多いです。

宇都宮:農業やってみようっていう人はたぶん大変すぎてやれないけど、ツールを使うともしかしたら参入できる人が増えるかもしれない。

菱木:そうです。毎日収穫作業するとかって大変すぎるので、それをある程度自動化できたら入りやすくなるのは間違いないので、かつそれで儲かるようになったら…

宇都宮:そうすると農業する人が増えてくる。

菱木:そういう風になるといいなと思ってます。

三木:いいですね。色んなバリエーションの農家さんがいて。僕もここのロボット1台お借りしてマインドフル農園みたいな、片一方で瞑想道場があって、お野菜は耕すところがあって、一緒に土でちょっとやってみましょうっていうところがあってみたいな、ロボットがいればある程度軽減できるところもあるので、そういう新しいビジネスモデルのスタイルもできるんじゃないかと。

菱木:そうですね。

宇都宮:ロボット経由で色んなデータが取れるから、それはまたビジネスにも使えますもんね

菱木:そうなんですよ。そこから取れるデータはたくさんあるので。

宇都宮:農業ビジネスに色んな広がりがあるとキャッシュポイントも増えてくるっていう。

菱木:ほんとそうなんですよ。

三木:農業をベースにしたリトリートセンターができる。

菱木:自給自足でいいと思います。

宇都宮:ロボットを使った自給自足って昔の自給自足とイメージが違いますよね。

菱木:そうですね。でも全然ありですね。

宇都宮:スマホがある時代ですもんね。インターネットもあって。

菱木:別に頼るじゃなくて使うなので、それをうまいこと使えばいいって話ですね。

宇都宮:そうすると市場介さず流通できたりとかそういう方向性もあり得るんですか?

菱木:色々あると思います。


●菱木さんの考える「日本の○○の未来」に対する想いについて

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三木:菱木さんの考える「日本の○○の未来」っていう、○○は自分で入れてもらって、農業でもロボットでもスタートアップでも。

菱木:広めに言っちゃうとたぶん日本の社会って話になるんですけど、金なくてヤバかったって話したと思うんですけど、その時無駄な頭のCPUを使ってるなってすごい思ってたんです。それに対する嫌という感情すら無駄だなと思ってたので、なるべくそういうのはない社会があったらいいなと思ってます。それこそカマコンが好きな人達とかってほんとはそれだけやれればいいっていう人達意外といて、そういう人達が何でそれをやれずに普通に働くんだっけってお金の問題なんです。そういった意味でもベーシックインカムのように、衣食住に憂いが小さくなるような取り組みが必要だと思っていて、日本の農業って軸でいくと、あと10年で農家さんって半分になってるんです。10年で農家って供給サイドが50%減るのに対して、人口って5%ぐらいしか減らないんです。需要と供給にとんでもないギャップができてしまう。衣食住にかかるコストのトレンドでいくと衣はだいたい安くなってて、住まいは人口がどんどん減っていくので安くなっていくのに、食だけ上がっていく基調なんです。ロボットとか使って仮に生産性4倍っていうことをしたら、食の単価を例えば半分にするみたいな、でも農家の利益は2倍になるという、みんなヘルシーにそんなにお金がなくてもちゃんと良い野菜を食べれる社会であれば実現しやすくなるんじゃないかなと思っているので、そこに寄与できたらいいなと思っています。

三木:ぜひこの鎌倉でマインドフルな農家さんをどんどん増やしていただいて。

宇都宮:テクノロジーでそこをもっともっとサポートして。

菱木:はい。そこは段階アップするにはテクノロジーしかないと思ってるので。

宇都宮:テクノロジーが人間を不幸にしてるっていう人もいるけど逆ですよね。AIで仕事がなくなるって言ってる人もいるけど、逆にAIに仕事をさせて人はもっとクリエイティブなこととか…

菱木:まさに。働く必然性がなくなった時に働きたい人は働くでしょうし、そうじゃない人はもっと瞑想するのかもしれないし、マインドフルで自分が楽しめる何かをするのかもしれないし、選択肢を持てるっていうことが一番幸せなことなんじゃないかなって思います。

三木:今日は素晴らしいお話をありがとうございました。

菱木:ありがとうございました。


対談動画


菱木豊さん

:⇒https://www.facebook.com/yutaka.hishiki


Inaho株式会社サイト


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