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北斎ブルー

ちょびっと前、『日曜美術館』で北斎を取り上げていた。ぼんやりと眺めていたところ、「神奈川沖浪裏」には何色が使われているか、というような話になった。八色だそうだ。ふむ。この二種類の青と水色が……なんてな説明を耳にしていたところ、そういや、二年前だか三年前だかに北斎ブルー的なインクを買った覚えがあるな、と思い出した。

私はまあそこそこに萬年筆を愛好する人間であります。
中学の入学祝いにもらって以来、使い続けていますよ。余裕があるときにはいろいろと買い求めたりもして、おそらく百本ほど…いや、二百? もうちょっと? もはやダンボール何箱かに放り込んであるので正確なところはよくわからないけれども、全く使いものにならないポンコツまで含めればかなりの数を所有しております。手は二本しかないのにね。というか、私は右手でしか字が書けないわけで、ペンは一本で事足りるはずなのにね。
そもそも必要性という観点から言えば、書き物をするのに萬年筆である必要性は全くないわけで、というか、必要性なんて話をはじめると私の存在自体が危ぶまれてくるわけで、必要性なんてイート・シットだぜ。なんて、新年早々汚い言葉を使って申し訳ありません。
何にせよ、収集心の落とし穴と申しますか、必要性とは無縁の世界。そういうハマった人間の御多分に洩れず、インクもあれこれ求めてしまうわけですよ。その昔、ウォーターマン全色、モンブラン全色なんてペンのメイカーにぶら下がっているうちはまだかわいいもんだったな。そこから、エルバン全色、プライヴェイト・リザーヴ全色と進み……なんて言われても、カタギの人にしてみれば何の話なんじゃいなってなもんでしょうけれども、そういうインク・メイカーがあるの。で、その頃は日本には入ってきていないものも多く、海外から直で買うしかねえか、なんてんで、インターネットを駆使して輸入って展開ですよ。無駄遣いと言えば無駄遣いだったかもしれんけれども、楽しかったなあ。どうせだったら、ついでに萬年筆本体もいっちゃう?、みたいなことになるんじゃないの? そう思ったあなた、正解です。んでもって、なんか、マニアックなカスタムしてくれるところがあるらしいよね。なんてことになり、ペン先の加工を別途オーダーしたりして。いやあ、軽く泥沼でしたね。軽くないか。まあ、でも、今じゃなくて良かったですよ。近頃はインク界隈が大変なことになっているようだからです。何百何千というような種類になっているみたいだよ。インク沼とかいう表現もあるそうで、ハマったら浮かび上がるのが大変そうだ。おっかねえ。

迷走しましたが、そもそもは北斎の話だったんだった。
ダンポールをひっくり返してみつけました。TACCIAというブランドの「北斎濃藍」ってやつ。TACCIA(タッチア)ってのイタリアっぽい名前だけれど元はアメリカのブランドみたい。それをナカバヤシが買い受けたようで、もはや日本のブランドと言うべきなんでしょうかね。英語のサイトを見てみたらITOYAのコピーライトがついていた。そう言えば、伊東屋にもここ数年は近づいていないな。
さて、肝心の「北斎濃藍」ですが、印象としては普通にブルー・ブラックです。ブルー・ブラックって言ったていろいろじゃんってなもんですが、素直にブルー・ブラックな感じ。果たしてこれが北斎をイメージさせるような色なのかというと、ようわからんですけれども、好きな人は好きなんじゃないかな、なんて無責任なことを言ってみます。
TACCIAの浮世絵インク・シリーズは北斎・写楽・広重・歌麿各四色ずつの計十六色が出ているそうざんす。ね、インクの世界、こわいことになっているのがわかるでしょ。昔だったら、全部揃えていただろうな。あぶない、あぶない。

ちなみに、私がいま気に入ってよく使っているのはセーラーの「匂菫」ってやつ。明るくていい色だよ。


余談。
「神奈川沖浪裏」をApple Watchのバックグラウンドに設定してみたよ。なかなかいい感じ。


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