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漁日とその夜

そうは言っても私小説が好きだった 荒川洋治
の著作を読み進めていて ひととき阿部昭が
好きで追っかけたことを思いだした 確か障害の
ある息子のことをよく書いていた気がする 海辺
の私小説作家 文章が読みやすかった 荒川の
著作から思いだした 天使の見たもの という短篇
は衝撃の読み味だった 車谷長吉の 三笠山と
いう短篇に匹敵する衝撃だったのを 衝撃と
言いつつ今の今まで忘れていた 天使の見たも
ものとは 死んでいる母親だった 

東京の漁から帰ってきて獲れすぎたタナゴを水槽
に泳がせて その様を後悔しながら書いている
とりすぎた 盛夏を過ぎて水温がやや下がったの
だろう 半熟卵の卵黄を握りつぶしたパンにひた
して 東京人は したして というか 網を入れた
らやや育ちのはやい稚魚が結構な数とれてしま
った 真夏 真冬はなかなかいないのでつい浮
かれて連れてきてしまった

今日は片蔭の写真も撮った 出かけないので
写真のストックが尽きてきた 路地の片蔭は
突き当りにシャッターと古い車を見て終わってい
た 夏には影が重宝されるが 冬には避けられる
ただ 同じところが片蔭になるのか 天文にうと
くてわからない 片蔭とは建物の日陰になる部
分を言う

百日紅の紅色の花がやや盛りを過ぎていたのか
途中何本か咲いていた 赤ではない 紅色は
何かと同じかと考えていたら五月のつつじ また
はさつきに似ていると気が付いた 草に咲く花と
木に咲く花と 水に咲く花と派手だったり地味だ
ったり 百日紅は何となく写真に撮らなかった
その代わり 水面からとうに空に伸びきっている
睡蓮の花と葉と実を撮った 睡蓮の実は蓮根か
と勘違いしていた 根っこだ

予想よりも早く多く魚が獲れてしまったため ゆ
っくり魚籠を風に乾かして 水飲み場の下の蛇口
で靴のかかとの泥を洗った 先日泥靴のまま
医者に行って すごく気を使ってしまった 帰りは
いつも通らない道に進んで 大きな道が途切れ
る手前の 細い道への角を曲がったら 西に
向かう道のようでまだ夕日には少し早い光が
道の向こうから差していた その道にも交差が
あって そこから黒いノースリーブを着た若い
女性が折れ曲がってきて 思わず遠ざかってい
くところを撮ってしまった 小さく逆光になってい
るので許されるかと思った

夕食のあと わらび餅を食べた またひとつ夏を
過ぎていく スーパーで 100円くらいで売って
いる恐らくわらび粉を全く使わないわらび餅は 黒蜜
ときな粉で食べるが かけなくても甘いのを知っ
ているので妻の差し出したそれらを断った 口の
中でもちもちして甘い 思ったより甘く感じる 湯に
溶かした砂糖水を冷ましたような味だった 阿部
昭の小説で スーパーで働いていた母が死んで
いるのを発見した少年(天使)は そのまま家を出てビル
から飛んだ 家の場所を書き記したメモを残して             荒川洋治の本によると その小説は実話をもとに             書かれたらしい


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