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本が手元にあつまって

午前十一時という微妙な 午前の一仕事には
丁度いいような しかし何だか午後にかかって
しまうような中途半端な時間に歯医者があり
妻は持病の診察に朝から出ていて 家に帰る
といるかいないかどちらとも言えない時間で
ならばせっかくスポーツ自転車で出たことだし
すこし足を延ばそうか とひとつは娘の出た高校
のほうへ小川の辺を流してみるか もうひとつは
すこしあるが私鉄の駅で三つほど離れた商店
街に息子の好きな焼き鳥を買いに行くか 少し
迷ってなだらかと思ったが実際にはかなりきつ
い坂を一番軽いギアに戻してやや息を上げなが
ら登っている

なんと焼き鳥屋は休みで もう一つの目当ては
ここの所何度か訪れている古本屋 丁度店じたく
をし始めたところのようで店主が通りに出てひとつ
腕を開いて伸びをしている そこに行き当たって
目が合って やってますか ハイどうぞ という
のを店頭棚がまだ出ていないから急かすのも悪
いと 少し別を回ってからきます と場を離れ
商店街の安いスーパー 店頭に品物を広げた
昔ながらの八百屋などを覗いて 野菜 安い
キャベツ大玉100円 トマト四個150円 何より
妻の大好物 干芋がなんと250円 妻は冬瓜と
干芋が大の好物で それ以外に特に好物といえ
るような食べ物もなく 冬瓜については千葉の
海沿いの町で母方の祖母が良く作ってくれた
冬瓜汁から来ているようだが 干芋については
ここの所好きと言い出した 以前から好きだっ
たのか最近味覚が変わったのか知らない もう
長年暮らしているから惚れた腫れたとすべてが
知りたいという事でもなく 大抵を受け流している
けれど ふとした拍子に思い出して何か喜ぶ
事でもしてみるかなどと思う スポーツ車は荷台
がないからキャベツやブロッコリーは安くても
諦めた

古本屋の店頭はすでにいつもの外棚も整い
ここは外棚に好きな本が安く並ぶと端から目で
潰していくと 今日は黒井千次が何冊かある
それから以前から一度読もうと思っていてあまり
古本屋で見ない坂上弘 夏石番矢の句集 そ
れから頭休めに最近気に入っている石田千の
本があった 店内を覗いてみると平棚
に堀江敏幸と その下段はこれ珍しい庄野潤三
のさまざまな単行本 見たことのない本が沢山
揃っている 値札を見てみると一冊千円程度
だけれどそれほど狂おしく読みたいほどでなく
今は浮草生活の身だから思わず散財 という
訳にもいかず 結局外棚から抜いた四冊の
一冊おまけしてくれたしめて650円を支払って
店主の三十代だろうか肌のすっときれいな細身の
女性へ こちらはマスクで少し厚かましくなって
庄野潤三がそろってますね などと声をかけると
まとまって入ってきたんですよ でもあれでも
結構買われて でも 古本屋あるあるなんです
けどその作家が入ってくるとその作家の本が
何故か集まってくるんですよね と ああ 最近
庄野潤三とか人気なのかな というと店主は
どういう作家なのかあまり関心が無いようで
しかし過剰な思い入れのなか店を展開するという
のもあまり好ましいとは思えず むしろ商品として
気が切れている方が商売にいいのだろうと思い
ながら気が弾んで店を出がしら 私の嫌いな
ウインドブレーカーなどを羽織った痩せ型の
初老男性がすれ違いに店に入ってきた なが
ながと蘊蓄を語りだしそうな

堀江 庄野 柴崎友香 さほど読んでいるという
訳ではないが保坂和志あたりからの流れか
今静かなさざ波のような小説が読まれているの
だろうか 庄野潤三などは走りだろうか 静物
プールサイド小景 読んだはずだが忘れてしま
った おぼろげな記憶と印象だけで言っている
ので庄野はそんな作家ではないと言われるの
かもしれない イメージを裏切られるのも読書の
楽しみの一つだからそれも含めて少し読み進め
たい作家の一人だ 坂上弘 佐伯一麦 井伊
直行 そのあたりを少し読みたい 本当に雑駁
に 現実に根差しているようなイメージを持って
いる作家たち あくまで私の浅薄な知識での
イメージだからどのようにでも印象が変わるのも
面白いだろうと思う このところ本が手元にあつ
まってきている そういった流れの時をこれまで
何度か過ごしてきた

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