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娘のはたちのお祝いに

娘がようやく二十歳になった 成人年齢十八
と言われてもやはり節目ははたちが切り良い
成人式にはいかないと決めているようだが記念
写真は撮るとのことで ひと月ほど前から着物
店と打ち合わせしていた 私の姉の着た振袖
と妻が成人の時に着た着物と 私の母は姉の
を着させたがっていたが順当に考えれば妻の
つまり娘の母の着物を着るのが筋かと 着られ
るかどうか店に持ち込んでみれば そこのグラン
ドマザー的な年配女性に ほれぼれする着物
と褒められたそうだ 商売上のおあいそかもし
れないけれど我々一家はそういうのを素直に
受け取る質なので素直に気分を良くしていた
緑がかった裾の中に控えめに花が咲いている
しっかりと生地が肉厚で 仮に着て見たところ
の写真は何となく鮎を連想させた 褒めすぎ
かもしれなくても娘を最大に褒めるのは親だか
ら褒めるのが親だから

親としての義務はあと二年 二十歳であっても
学生なので来年は就職活動をして再来年は
卒論を書く 娘は誰に似たか寡黙で息も継が
ずに何かをしゃべり続けるといった興奮も激高
も見せたことがない もちろん父とも腹をさらけ
出して話し込むなどと言う事はない しばらくし
て 子でも持つようになれば多少は話込むこと
もあるかもしれない あの時 何も言わなかっ
たけど内心すごく嫌だった などとこちらがとう
に忘れているようなことを持ち出されるのかも
しれない 私は亡父に 死ぬ前に恨みつらみを
ぶちまけたかった しかしそれはしなかった そ
のかわり位牌に墓に 手を合わせることはない
何度も墓参りに行くが徹底して無い

きちんと着付けされた娘の写真が留守番のPC
に送られていた ちょっと不服そうにこちらを見
ている 祖母 つまり私の母と撮られた写真で
はやや柔らかい表情をしている 母は背中が
曲がっていて顔が突き出ているように見える
よぼよぼしてはいるもののまだ死にそうな気配
ではない いう事もしっかりしている しっかり
はしていても浮世離れしたことばかり言っている
半ば祖母のために写真を撮った 自分から何か
華やかを言いだすような娘にはならなかった
自己主張に淡い 親としてはそのあわさが心配
の種でありつつ微かに誇らしいところでもある

未だに親の自覚も育たないまま年ばかりは老境
に近づいた よく母親から 何とかなるもんだよ
と言われたが実際に何とかなってきた 娘が
受験を前にした中学二年の春 私は勤めをや
めてしまった なんてことしてくれるの ときっと
思ったに違いない それとも どうにかしてくれ
るだろう と別に動じなかったかもしれない そ
のあたりの事を折につけ聞こうとして 満足な
返事は帰ってこない 娘なりの優しさなのか
それとも言うのが恥ずかしいのか正直な所
娘は繊細なのか無頓着なのか どのような思考
パターンを持って何にこだわりが強いのか 近く
にいてよくわかっていない わからないので
出来るだけおつしけることの無いようにしてきた
つもりだ しかしそれでも親子には絶対に含む
ところがあるはずだ 夫婦同様

11月はハイシーズンらしく撮影が五分単位で
詰まっているという ヘアメイク 着付け 撮影
と若い娘が流れ作業で華やかに生まれ変わる
妻は正確には言わなかったが もし着物もレン
タルして撮った写真をデータ焼きしてもらったら
五十万くらいかかるのではないかと言っていた
ならば 我が家の場合は幾らだったか 怖くて
聞こうと出来なかった 三人姉妹とか言ったら
破産だね と苦笑いし合った どうして苦虫噛み
潰したような顔なのか娘に聞くと 会話の流れ
が着物を着たまま帰るという方向に傾いて 一刻
もはやく着物から解放されたいのにと腹が立って
いたそうだ このような意識しない流れでの
抑圧を親は与えているのだろうと思う 何人か
見た振袖の中にあきらかに素人目にも安物に
見えるのを着た人がいたそうだ 本人並びに
周囲の状況を察しながら低カロリー食を長々と
咀嚼した

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