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椀の中身

ひとくち椀の中身をすすったとき味噌の塩が
甘さに包まれていると感じた いつもは具が
一種または二種の妻が ねぎ 人参 大根
じゃがまたは里芋 白菜 キャベツ 数種の
野菜を入れた味噌汁を作る たいてい 何日
かにわたって味わうが 初日は味を薄く感じる
事が多い 段々煮詰まって味が濃くなって 最
後は薄めたりする 通常ならば ここに豚の
バラ肉をどっさりと落として豚汁ということにな
るのだろうが あまり肉が好きではないので
出汁の引き算も覚悟の上入れない なんとなく
物足りなくなると わずかにひき肉をいれたり
あとから焼豚の削ぎ切りした薄片を鰹節のよ
うにパラりと乗せたりすることがある 味がか
わってしまうのだろうが 子供舌なので違い
のわからない男

ボヴァリー夫人という言葉をよくものの本で目に
するが ボバリーと書くとアメリカ人のようだ
デボラハリーはデヴォラハリーではない ボヴァ
リー夫人は婦人でもあるだろうが読んでない
ので想像だ デボラハリーも後期高齢者にな
っただろうか 話というのは本来 あちこちに
飛び跳ねて 着地しないかあっけない

旬のものを食べる などと言えば丁寧な暮らし
といった変な気取りが脳裏に浮かぶが てい
ねい どころか生活というより人生の時間を
本当に粗末にしている 人生から仕事を抜いて
みたらその穴が埋まらない やることがたくさん
あったはずだが 時間がたつうちにやることが
なくなっていき やるべきことはあとに回す
ようになった ごっそり引き算してみると 流れ
ていく生活しか残らない そのすさびに頭の
なかをひっくり返して言葉においていくばかり
変換したら 言葉に老いていく と二回出た

人の旬はいつだろうね 心の闇なんて旬の
ひとには灰汁なんてないね そんなことわから
ない 汁物は寒いおもてで味わうと旨いんだ
そんなことわからない ベランダに出て 室外
機に腰かけて 濛々の湯気を浴びて 心の闇
なんて薄っぺらいなと思う 闇より怖いのは
虚無だな そんなのわからない ほんとうは
わからない でも冷めても湯気がとまらなか
ったから部屋の中に引き返す

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