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映画感想『オッペンハイマー』

原題「OPPENHEIMER」

◆あらすじ◆
第二次世界大戦下、アメリカはナチス・ドイツに先駆けて原子爆弾を開発することを目標に極秘プロジェクト“マンハッタン計画”を始動させ、そのリーダーにイギリスやドイツの名門大学に留学経験のある天才物理学者ロバート・オッペンハイマーを任命する。ユダヤ人でもある彼は、ニューメキシコ州のロスアラモス研究所に全米の英知を結集し原爆開発に邁進、ついに世界初の核実験を成功させるのだったが…。


冒頭、アインシュタインとオッペンハイマーの印象的な“密談”シーン。
印象的なアングルでこの2人の会話に疑問を持たせる。
そしてこの物語を締め括る“事の発端”がまさしくこの会話シーンだったと明かすまるで探偵ものの様なネタのばらし方。

シナリオ構成としては実に自分の好きな作家さんの作り方と似ていて嫌いじゃない。

今作は『オッペンハイマーと言う人間と原爆開発』『ルイス・ストローズの企て』『ストローズの議会公聴会招集』と言う3つのテーマが織り込まれ展開される。
それを解り易く表現したオッペンハイマー視点のカラー部分と他視点のモノクロ部分と言う映像の差別化も面白い。
大半の行動と会話は原爆研究と開発に纏わるものだがその成功が齎した賞賛と悔恨、その裏に蠢く人間模様が【主】と言っていい。
公開前に論争された印象とは随分違った作品だったとは思う。

切々と描かれる人間の根拠無き嫉妬、憎悪、優越…見ていて気持ち悪さが湧いた。

それに加えて人類が招いた歴史の愚かさに至る現在と過去を行き来する物語は、栄光への憧れや煌びやかさそれに反する罪悪感や苦脳を如実に且つ重厚に描く。
それについては挿し込まれるピカソの愛人(マリー・テレーズ)を描いた『座る女』が象徴的だ。

後悔の重さを強調するかのような苦渋の演出はアメリカ至上主義とのパラレルでより鮮明に描かれる。

原爆を使った側と使われた側のこの作品に対する見方はかなり違いそうだ。

恐らく感想の中には原爆投下の影響部分の映像化を求めるモノも多くあるだろう。
恐ろしいものを作り出してしまった“時代の始まり”だけでは納得いかないと言う思い。
だが、あくまでも個人的ではあるがオッペンハイマーを纏う苦渋のカーテンはその後開き彼に陽光を浴びせることは決して無かっただろうと思わせる演出に原爆と言うモノの恐ろしさは描かれていた様にも思える。
まぁただ、投下された側としては言い表せない心的肉体的被害は甚大だし戦後の後遺症を思えばそこを描いて欲しい気持ちと訴えは解る。
が、あくまでもアメリカ視点でありその視点である限り原爆投下=大量虐殺と言う構図を受け入れ難いと言う思想は現時点でもこの大国にはあるのではないだろうか?

せめてものイギリス人であるノーラン監督が描いたオッペンハイマーの脳裏を過る【そうであろう】被害を描くシーンは少なからず胸に来るものはあった。

ここは演出も然る事ながらキリアン・マーフィーと言う俳優が実に苦悩が似合うのだと確信させられるシーンでもあったのだがノーラン監督のキャスティングの妙でもある。

だが計算上の被害が羅列されるシーンには正直憤りは込み上げて来たし実験シーンでは【成功】とは何なのだ?と言う疑念も生まれた。

人類は研究開発したものを何故そうも兵器化させようとするのか?
「これを使えば世界(の戦争)を止められる」だと????「はぁぁ???」だ。
つくづくアメリカの何様ですか?感が痛い。

戦争自体が罪なのだと思い至らないのはどうしてなのか?
全人類が承知の通り死傷するのは市井の人々なのだ。
戦争=人殺しでしかない事を何故正当化出来るのか?

争いと言うモノの側面として今作はその辺もかなり緻密に描かれててロバート・ダウニー・Jr.演じる原子力委員会の委員長ルイス・ストローズ視点と言う別物語が或る意味サスペンス性を齎す。
言ってみれば幼稚な嫉妬や憎悪からオッペンハイマーを陥れようとするんだが近年まれにみるRDJの名演ww!
まぁ「あれから30年」的な思いもあるよね(笑)
いや、既にアベンジャーズで世界救ってっけどね!

この人の嫉妬で始まり憎悪で展開されその真相がラストに明かされるなんて「えっ?この人在りき?」ってなるわな。
でもこのラストは好きだった。
人間の先入観や思い込み程恐ろしいものは無いんだな。

しかし【裏闇騎士】と言いたくなる様なキャスティングは好き。
トルーマンを演じたゲイリー・オールドマンが嫌味たっぷりで個人的には最高だった。

で、やっぱりデビッド・ダストマルチャンよね~。やっぱ彼出てこなくちゃね。キュッてならないからwwww

それとデイン・デハーン君♡ めっちゃ久しぶりでもうドキドキしちゃったよ~!
超クールじゃん!!好き過ぎた!!

あとシュヴァリエを演じたジェファーソン・ホールってお初だったかも?
結構印象に残った。


と言うわけで、映画としては見応えは充分。
映像の新鮮さもあったとは思う。

ただ「好きか?」と問われれば素直に同意は出来ないし何処かモヤっとした感じは残る。

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