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東京女のカープ熱狂録 その2 -廣瀬純、引退。鐘の音がつなぐ絆-

2016.10.01。

広島東洋カープ、廣瀬純、引退試合。

応援歌を継承する、球界ナンバーワン捕殺の二塁手・菊池涼介が、誰よりも廣瀬のことを、みつめていた。

菊池、君には引退する廣瀬純の気持ちがすでに、わたしたちには見えないあらゆる時間をたくさん賭けて、積み重ねて、託されていたのだと。伝わった。

いつもひょうきんな「歴代3位まで独占捕殺王」菊池と「最後の2年間、1軍に上がれなかった兄貴」廣瀬との、長すぎる抱擁と号泣。本物の名シーンだった。

テレビ中継班の方々に感謝しかない。画角、視点、カメラの切り替えが絶妙だったのだ。カットを並べて見ると、本当によくわかる。

時間は少し巻き戻る。試合中、菊池は守備に回る直前の廣瀬と、にこにこ視線を合わせながらキャッチボールをしていたのだ。もうあの時にはすでに、がっしりと抱擁するに至るまでの絆があったのだと、再確認するように今思う。

他の選手たちも「廣瀬の最後のキャッチボール相手を志願するのは菊池」と見守っていたのではないか、と想像する。本当に、あの時の菊池は、廣瀬だけを信頼して見ていた。沸き立つ外野のファンたちに目もくれず、ひたすら廣瀬だけを見ていた。

ひょうきんなキャラクターを吹き飛ばし、目を覆いながら兄貴分の元を離れていく菊池を見ながら痛烈に思った。

野球を好きで良かった。勝ち負けとはべつの場所で、たくさん積み重ねてきた気持ちが報われた気がするのだ。ありがとう。どの場面を切り取っても、素晴らしいセレモニーだった。

わたしの話をする。本当は、先週末に「1回表降雨ノーゲーム」となった、幻の引退試合のために広島にいたのだ。自作のボードを持ち、三塁砂かぶり席で、雨に打たれながら、練習を眺めた。黒田の白球をリードする、同じく引退の倉捕手の英姿にエールを送った。しかし、廣瀬が呼ばれることはなかった。打席はおろか、ビジョンに映るはずの「バッター登場動画」すら観ることができなかった。

帰京して、濡れた荷物を乾かした。その後の東京ドーム最終戦では、廣瀬の不在を知りながら、それでも応援団とともに、彼のための歌を歌った。何度も何度も歌った。こうしてわたしは、マツダの振替引退試合をテレビで観るための気持ちを整えた。

イレギュラー尽くしのまま、自宅のテレビで振替となった試合を観た。広島から持ち帰った応援ボードは雨でごわごわに歪んでいた。そうしたものを握り締めながら、結果、素晴らしい体験をした。テレビ中継ならではの画角を、選手同士の目の動きを、仕草を、涙を間近に観ることができたのだ。これでいい、と心から思った。

廣瀬純・応援歌『広島伝説』

始まりの鐘が鳴る 広島伝説
豪快に放て 勝利に向けて走れ
始まりの鐘が鳴る 広島伝説
かっとばせ 廣瀬

鐘よ、鳴れ。

廣瀬純。あなたの旅立ちに幸を祈ります。


《東京女のカープ熱狂録リンク》
その1 -始まりの鐘は、鳴りやまない-

その3 -回想2014年2月。沖縄キャンプに跳ねた鯉-

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