見出し画像

サラマーゴを読み始める

今日から、josé saramago の ensaio sobre a cegueira を読み始めた。邦訳では『白の闇』となっているこの長編小説は、突然目が見えなくなる病気が伝染していく社会を描く。30ページぐらい読んだが、やっぱり難しく、はっきり分からないところもちらほらある感じだ。まったく読めないわけでもないが、ポルトガル語で読む価値は、現在の私のポルトガル語のレベルを考えるとあまりない。残念ながら邦訳を読んだほうが理解は深まるだろう。まあ、でもポルトガル語の勉強としては意味がないどころか、理想的ですらあるので、辞書と首っ引きで読んでいこうと思う。最初の段落をnote上で精読してみる。

O disco amarelo iluminou-se.

disco を辞書で引くと「円盤」つまり「ディスク」なのだが、ここでは「信号機」を意味することは、もし邦訳を読んでなかったら分からなかったかも知れない。「信号が黄色になった」ということ

Dois dos automóveis da frente aceleraram antes que o sinal vermelho aparecesse.

「前方の車二台が、信号が赤になる前にスピードを上げた」

Na passadeira de peões surgiu o desenho do homem verde.

passadeira が「[廊下・階段の]細長い絨毯、敷物」なので、「横断歩道」かと思ったが、Na passadeira なのはかなり気になる。「横断歩道上に」という意味になってしまうので、「緑色で描かれた人間が横断歩道上に現れる」という意味になってしまう。ここで言っているのは、車道の信号機が赤になったから歩行者用の信号機が青になったということだ。「横断歩道の方では」くらいにして、em が具体的な空間の場所を示しているとは捉えないほうがいいか。

A gente que esperava começou a atravessar a rua pisando as faixas brancas pintadas na capa negra do asfalto, não há nada que menos se pareça com uma zebra, porém assim lhe chamam.


「待っていた人たちは、まったくそれとは似ていないが、シマウマと呼ばれている黒いアスファルトの表面に白く塗られた細長い部分を歩いて通りを渡り始めた」

絵は見えるのだが、日本語にするとギクシャクしてしまう。
capa は日本語の「合羽」の語源だとしばしば言われるが、ポルトガル語ではもっと意味が広く、「覆い」とか「外面」みたいな意味がある。確かに合羽も「雨を覆うもの」だ。

Os automobilistas, impacientes, com o pé no pedal da embraiagem, mantinham em tensão os carros, avançando, recuando, como cavalos nervosos que sentissem vir no ar a chibata.

「運転手たちは、ブレーキのペダルに足を入れたまま、じりじりしながら車を前に動かしたりバックしたりしながらエンジンを冷えないようにしていた。まるで馬が空中から放たれる鞭を緊張しながら意識しているかのようだった」

mantinham em tensão os carros が分からなかった。「車を緊張した状態のままにする」とはどういうことだろう。すぐに発進できるようにエンジンをあたためておくことなのかなと推察した。

Os peões já acabaram de passar, mas o sinal de caminho livre para os carros vai tardar ainda alguns segundos, há quem sustente que esta demora, aparentemente tão insignificante, se a multiplicarmos pelos milhares de semáforos existentes na cidade e pelas mudanças sucessivas das três cores de cada um, é uma das causas mais consideráveis dos engorgitamentos da circulação automóvel, ou engarrafamentos, se quisermos usar o termo corrente.

「歩行者はすでに渡ってしまい、車の行く手を遮るものはなくなったが、信号は何秒かしてから変わる。このタイムラグは一見無視できるくらいの誤差のように思えるが、こんなことを言う人がいる。街に何千とある信号とその三つの色が変わる一連の時間をかけ合わせると、車の循環の滞留、正確な用語を用いて言うなれば渋滞の原因として考慮しなければならないものの上位に来ると」

一文が長いので、日本語では何文かに区切った。há quem sustente que... で「que 以下を主張する人がいる」接続法になっているので、「こんなことを言う人がいる」と少し具体性を避ける表現にしてみた。aparentamente から cada um までが、長い挿入句のようになっていて、esta demora é uma das… という構造になっていることが見抜ければそんなに難しくはない。uma das causas mais consideráveis dos engorgitamentos da circulação automóvel, だが、engorgitamentos が辞書で見つからなかった。文脈から考えるに「渋滞」を発生させるもののようだが、gor- という要素は、gordoとかを思い出させる。「膨らむこと」なのかなぁとか思ったり。ちゃんと調べ物ができる環境になったら見てみよう。uma das causas mais considerável… はいわゆる「もっとも主要な原因の一つ」と訳されてしまう定型表現。considerávelは「かなりの」などと辞書に訳語が出ているが、considerar から来ていることを考えると、「考慮すべき」みたいな意味が近いのではないか。文脈に即して考えてみても、信号が青になるのを待つ時間なんてほんの数秒だから無視できるくらいのものが、街の交通の滑らかさという観点から見た場合、実は考えなければならないほど長い無駄な時間を生んでいる、ということなので、「もっとも真剣に考えなければならない原因のひとつ」というニュアンスをconsiderávelからは感じる。

サラマーゴの文体は特殊だと言われていて、会話文でも日本語で「」にあたるものがなく、いったい誰がしゃべっているのかが分かりにくくなっている。たしかにいきなり会話体の文章が出てくるので、最初は面食らうが慣れてしまえばそんなに読解が難しいと感じることはない。むしろ語彙や当時の社会背景の理解の方が課題だ。毎日少しずつ読んでいきたいが、仕事の後の疲れた状態で、このレベルのポルトガル語をきちんと読めるかはかなり疑問なので、休みの日だけにしようか。それとも適当でいいので、毎日目を通す方が学習としてはいいのかもしれない。この本に限らないが、仕事をしていない期間に万全の状態で読みたいとは思っている。とりあえず今は、週に一回でもポルトガル語が読めれば御の字と考えなければならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?