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ディケンズの嫌な奴もうたう「クリスマスキャロル」

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 クリスマスが楽しみであれば、その年の一年が楽しかったと思えて良い一年の終わりを迎えられそうです。日本ではクリスマスは12月の最後にまち構えている楽しいイベントですが、西洋の文化では一年の集大成のような、日本の大晦日にあたる厳粛な日です。
 英国を代表する作家チャールズ・ディケンズの「クリスマスキャロル」は、雪も降りしきるクリスマスの前日12月24日の夜の物語です。
 主人公のスクルージは、人から好かれない物言いや態度で街中の人から悪人と思われていました。合理的な考え方で金勘定をしているだけの人物で、人の感情を気にしたり、人に愛されるための気配りもありません。誰のためにもならない、お金のために人に嫌な思いをさせて、自分の主張で世の中が良くなると思っています。人に批判されても不躾な態度を取り繕わないで平気でいられるので、偏屈な年寄りという評判が付いていました。
 それでいてスクルージは、クリスマス・イヴの夜に精霊から、自分が生きた過去・現在・未来を見せられるまで、自分が他人と同じように人の心に痛まれて死を迎えられないなどと、考えてもみませんでした。
 人にはそれぞれに興味や関心があり、それは多くの場合は誰とも違ってそれぞれ異なっています。スクルージは風の噂にも決して良くない守銭奴で、お金に関心を向けすぎて自分の人生に興味を失っていました。楽しみのないクリスマスを楽しめなかったスクルージには、楽しみたいと願う気持ちが欠けていて、自分を楽しませる気力に失せ、クリスマスを大切に過ごそうとする人たちの心を理解していませんでした。そうなってしまうのも、自分の一生を人並と勝手に思って、在り来りな最後を迎えられると過信していたからでした。しかし実際のスクルージの人生は人並以下でした。スクルージが自分と同じか、それ以下と思っていた人々は、スクルージよりも多くの心配事を抱え、他人のために心を遣い、未来を良くしようと考えていました。スクルージには、人間らしさがあれば上等な人間になれるという考えが抜けていました。
 スクルージは、精霊に自分の一生を見せられて、久し振りに人生を取り戻します。心が生き返って、気持ちに温度や質や感触が戻ってからは、街の人の心の温度や質や感触に触れて、自分の心で感じるように人の思いに共感する人物になりました。
 それまで知ろうとしなかった人の輪にいてスクルージはとても幸せでした。相手がだれであれ、人の心に寄り添って手を差し伸べる名人でした。しかし目の回るような一年が終わる忙しないクリスマス・イヴの晩に、死んだ筈の友人がわざわざ幽霊になって表れて、人生を見直す遣いの精霊に助けられたスクルージには、もともと友人に恵まれるだけの甲斐性があったのかもしれません。そんな主人公の背景も印象深くて「クリスマスキャロル」は一年の終わりに忘れられない思いでになるのではないでしょうか。

「ディケンズの嫌な奴もうたう「クリスマスキャロル」」完

©2024陣野薫


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