格が違うのだよ、格が。


 散歩していて、時々「アウト~ッ」と叫ぶ。別に野球の審判の練習をしているわけではない。私は、野球にはさっぱり興味がない。

 私が「アウト」と叫ぶのは、家とクルマが合っていないことを指摘しているのだ。

 例えば、3200万円の家にベンツは似合わない。もちろんベンツだって中古なら安く買える。だが、値段では釣り合いが取れても、家やクルマには格というものがある。家とクルマの格が合っていないのは、残念ながらアウトである。

 近所にコンクリート造りの家がある。注文建築で、小さいながらも中庭があり、植栽が美しい。

 車庫も小さいし、家の雰囲気からすれば、ミニクーパーあたりがピッタリである。だが、その家は、ホンダN-ONEを購入した。レーシングぽいペイントの特別仕様車である。

 これは、悠々セーフだ。断然セーフと言っても過言ではない。いやいや、「段違いセーフ」という特殊な形容をしていいくらいだ。

 家を見れば、多少は裕福な家であることは推測できる。ミニクーパーなら充分に買えるだろう。だが、その家の人は、N-ONEを選んだのだ。

 こうした場合にミニクーパーを選ぶのは、お調子者。あえて国産の軽自動車を選んだというのは、ただ者ではない。

 センスがいいとほめておこう。

 ちなみに、うちの近所に3200万円で売り出した家があって、実際にその家の車はベンツである。3軒同じ家が並んでいて、その家と家の間は、猫も通れないほど狭い。そして、車庫も狭い。

 ベンツを置くと、両サイドがギリギリなのだ。

 ドアがきちんと開けられないのに、どうやって入るんだろうと疑問に思っていたのだが、この間、その現場を見ることができた。

 そこのご主人は、ベンツのドアを慎重に開け、できたわずかのすき間に向かって身をくねらせ、器用に運転席にすべりこんだ。まるで中国雑伎団である。おそらく3代前は、タコだった家系の人なのだろう。

「段違いアウト~ッ」と私は、彼に向かってつぶやいた。


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