オヤジ狩りとの遭遇

 昨夜、帰宅途中、危機一髪だった。

 人通りのない地下街で、ガラの悪い兄ちゃん二人が近寄ってきたのだ。年齢は、どちらも20代前半。一人はヒゲを生やした小太りタイプ。もう一人は、背が低くやせている。どちらも金髪だ。

「こ、これはオヤジギャグか」と恐怖のあまり言葉を間違えてしまったほど焦った。

 いやいやいや、オヤジギャグではない。オヤジ狩りだ。正確に言うと、ハゲ親父狩りだが、そこまで正確にいう必要はないな。ないない。第一、ハゲ親父狩りなど、失礼でしょうが~っ。

 焦っているうちに、二人の兄ちゃんは目の前である。

「すんません」とヒゲをはやした方が言った。

 オヤジ狩りをやるのに「すんません」とは、おかしいのではないか。いやいやいや、騙されてはいけない。これは「すんません強盗」なのだ。謝っていると見せかけて襲いかかる、非常に卑怯な犯罪である。

 私は、バッグの取っ手を握りしめた。一瞬のうちに取るべき行動をシミュレーションする。

 まず、バッグをヒゲの兄ちゃんに放り投げる。反射的に彼は両手で受ける。よし、急所ががら空きだ。すかさず蹴りを入れる。うずくまるところを首筋に肘打ち。ただし、力は押さえ気味にしないといけない。頚椎損傷。下手をすれば死に至る。過剰防衛で面倒なことになる。

 もう一人は、身長162センチ、体重50キロ。手の甲、目の動きに武道の経験は見られない。ダッシュして頭から突っ込んで、体勢を崩す。後ろにひっくり返る確率は、92%。ただし深追いせずに、バク転して距離を置く。そこで仕上げのスペシウム光線。

 ハゲ親父狩りの兄ちゃん二人を、軽~く撃破である。自分の強さに、思わずうっとりする。よ~し、かかってきなさい。

 バッグを投げようとした私に、ヒゲの兄ちゃんが言った。

「タスポ貸してくれませんか」

 見ると、後ろにタバコの自販機がある。どうやらタスポカードがなくて、タバコが買えなかったらしい。なんだ、馬鹿馬鹿しい。ビビらせやがって。

「いや、私はタバコは吸わない」と言って立ち去った。

 しばらくして、あの返答は少々冷たかったかなと気になりだす。そう言えば、私の物言いが気に食わないと、何度も喧嘩になったことがあるではないか。どうもぶっきらぼうで反感を買うことが多い。

 よし。今度「タスポを貸してくれ」と言われたら、「いや、私はオッパイは吸うが、タバコは吸わない」と答えてやろう。実にオヤジらしいセリフである。爆笑まちがいなしだ。

「次のタスポに乞うご期待だな」と呟きながら、私は地下街を歩き続けた。


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