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ボードゲームってどうやって作るの? アイデア・製造・PRまで、企画方法を全部解説

ボードゲーム作りはクリエイティブで、ゲリラ的な楽しさのある営みです。ルールを思いついたら少ない人数、あるいはほぼ1人でも形にできます。

大抵の仕事やプロジェクトは、複数人の分業で行います。各人の専門性を組み合わせると、少人数でやるより大きなことができるし、効率的だからです。

でもたまには自分だけ、仲間うちだけで思うままに何かを作るのもいいものです。ボードゲーム作りは、普段の分業体制で抑圧されているモノヅクリ欲を開放するいい機会になります。

本noteでは、そんなボードゲームの企画を構成する要素を、アイデア・製造・PRに分けてざっくり全部解説します。

①アイデア…ソフトとしてのゲームを考える

ボードゲームのアイデアを構成する要素は、下記の3つです。

1.テーマ
2.体験
3.ルール

1.テーマ

このゲームを遊んだ人(プレイヤー)に、何を伝えたいのか、知ってほしいのか。それがテーマです。初めてなら、自分がワクワクしたものや、感情を動かされたものを選ぶといいでしょう。

テーマはボードゲームというメディアの中心であり、出発点です。一度決めたら最後までブラさないように注意しましょう。テーマが変わるなら、それは違うゲームです。

また、テーマは具体的なほうが望ましいです。例えば、お菓子に関するゲームをつくるなら、「お菓子の美味しさ」よりも、「ドーナツの美味しさ」の方がいいし、「美味しいドーナツの作り方」のほうがもっといいでしょう。

2.体験

プレイヤーは、どんなことをするのか、できるのか。それが体験です。剣と魔法でドラゴンを倒すような勇者的体験ができるのか、はたまた、迫りくるゾンビから逃げるような恐怖体験なのか。なんでもアリです。

体験はかならず、テーマとセットになります。プレイヤーにテーマを伝えるためにしてもらうのが体験だからです。だから優先順位は「テーマ > 体験」となります。つまり、テーマにそぐわないと思ったら、体験はどんどん変更してかまいません。

「美味しいドーナツの作り方」を伝えたいなら、プレイヤーにドーナツの調理をしてもらってもいいし、ドーナツに関するクイズを出してもいいかもしれません。不味いドーナツの格好をした敵を倒す…なんてのもアリかも。

3.ルール

テーマと体験を再現するためのシステム。それがルールです。ルールを考えるのは、アイデア段階で最も時間がかかる工程になると思います。

テーマと体験が決まることと、それを再現するシステムを構築することは全然違うからです。WEBサイトをつくるときの、デザインとコーディングくらい違います。

美味しいドーナツの作り方を伝えるためにドーナツを調理するゲームをつくるとするなら、そのルールに手札にいろいろなドーナツの材料カードを集めていく要素を加えるみたいな感じです。

ともあれルールらしきものができたら、紙とペンでプロトタイプをつくって他の人と一緒に遊んでみます(「テストプレイ」と言います)。

遊んでみると穴や改善点がどっさり見つかるので、それを直す→テストプレイ→直す…を繰り返して完成に近づけていきます。この段階で完成したルールをテキスト化しておくと、あとでルールブックを作る時に楽です。

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↑ テストプレイ用ゲームは不格好でも、動作確認できればOK

テストプレイマニュアルも作ってみたので、やってみる時にはぜひ参考にしてみてください。

ちなみに、もしIndesignが使えるのであれば、プロトタイプで大量のカードをつくる時はスプレッドシートからのデータ流し込みで作った方がミスなく素早くできるかもしれません。

②製造…ハードとしてのゲームを作る

アイデアづくりまではほぼ脳内でおこなえなくもないですが、たくさんの人に遊んでもらうためにはゲームは形にしなければなりません。よってアイデアができたら、次は製造に入ります。つくるのは下記の3つです。

1.コンポーネント
2.ルールブック
3.パッケージ

1.コンポーネント

ボード、カード、コマ、タイル、チップなど、ゲームを形づくる全てがコンポーネントです。ゲームそのものと言えるでしょう。テーマがきちんと伝わるよう、またルールが直観的に理解できるよう、そして遊びやすいよう、注意深くデザインしましょう。自分で難しい場合は、ボードゲームのデザインを専門にされているデザイナーさんもいらっしゃるので、依頼するのがおすすめ。

こちらもラフでも出来上がったらテストプレイをしてみましょう。良かれと思って入れた要素が邪魔になっていたり、あるコンポーネントが想定外な使い方をされたりなど発見があると思います。

少数だけ作るのでなければ、製造は印刷会社にお願いしましょう。何を、どんなサイズや材質で、何個つくりたいかなどを仮にでも決めてから相談するのがいいです。納期も忘れず聞いておきましょう。だいたいの場合はIllustratorで製作したデータを入稿することになると思います。

2.ルールブック

プレイヤーにルールを伝えるためにあるのがルールブックです。ボードゲームには電子ゲームのような自動進行するチュートリアルがありません。ルールブックがプレイヤーたちに楽しく遊んでもらうための生命線になります。ルールが理解できなければ、コンポーネントはただの紙切れや木片です。

「どんなゲームなのか」「どうすれば勝ちなのか」「どういう流れで進行するのか」など押さえるべき要素をしっかり押さえましょう。こちらのnoteが参考になると思います。

テストプレイと同じく、作ったら他の人に読んでもらって理解できるか確かめるといいと思います。先入観がないほうがいいので、可能であればテストプレイに参加しなかった人にお願いしましょう。想定外の解釈をされることもあると思いますが、改善のいいヒントをもらったぞとポジティブに捉えましょう。

これも製造するのは印刷会社にお願いするといいでしょう。多くの場合は紙製だと思うので家庭用やコンビニのプリンターでも印刷できなくはないのですが、そもそもの品質はもちろん、紙の端まで色を載せられるかなど、細かいこだわりに対応できるのはやっぱりプロの方々です。そして、その時は多分言われると思いますが、文字のアウトライン化や塗り足しをお忘れなく。

3.パッケージ

コンポーネントとルールブックを入れる箱です。遊んでくれる人が最初に見る部分になるので、魅力的なデザインにしましょう。余裕があるなら実際に印刷したものを同じサイズの箱に貼り付けて、印象を見てみるのもおすすめです。

また、お店に並べるなら裏面も大事です。気になった人が手に取ったときにどんなゲームか理解できるように説明をいれておくのがよいです。

ゲームマーケットでの手売りやマーケットプレイスでの販売なら気にしなくてもいいですが、店舗で委託販売したい場合はバーコード(JANコード)を入れましょう。取得は下記からできます。

パッケージの製造もやはり、印刷会社にお願いするのがベターです。また、発注前にコンポーネントと説明書がきちんと入るサイズになるかどうかも確認しましょう。入れるものがどのくらいの大きさなのか測って、計算してみるといいです。

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結論、ある程度の数をつくるなら製造はボードゲーム印刷を得意とする印刷会社に頼むのがいいです。少ない数で作りたい、金銭的負担を抑えたいなら、既製品のコマなどを個別に買って、印刷したカードを自らの手作業で入れていくやり方(帳合と言います)もあります。僕も、初めてデザインしたゲームは12部を手作りしました。

ただ、時間もかかるしミスのプレッシャーもあり、大変です。可能ならお金で解決しましょう。

また、もし作ったゲームを販売しようと思っているなら、気をつけてほしいのは、製造原価です。100個つくるのに10万円かかり、売値は1000円だった場合、原価率は100%です。全部売れてトントン。最悪でも、このラインは守っていただきたいと思います(もちろん交通費や制作につかった諸々の経費、時間を考慮すると赤字ですが…)。

その一番の理由は次の制作へのモチベーションが保てなくなるからです。全部売れるという結果は、「ボードゲーム制作プロジェクト大成功!」でなければならないと思います。

頑張って最高の結果を出したのに、金銭的に損しているという状況は想像以上に心を蝕みます。なので、ほんのちょっとでもいいので、うまくいけば儲かる!打ち上げのご飯代ができるぞ!となるようにPLを書いてから始めるのがおすすめ。せっかくなら次回作もつくってほしいからです。

③PR…ゲームを知ってもらう、買ってもらう、遊んでもらう

PRはモノとしてのゲームそのものをつくる工程ではありませんが、非常に大事です。たいていのゲームの価値は遊んでもらって初めて生じるものなので、ゲームの価値をつくり出すという意味ではデザインにも大きく関わってきます。

そうしたもろもろを包括するのがPRです。PRはPublic Relationsの略称で、直訳すると「公衆との関係づくり」。ボードゲームに関していえば、ゲームや作り手と、プレイヤーたちの関係づくりにあたるでしょう。そんなPRは大きく分けて下記の3種類になると思います。

1.ゲームを知ってもらう
2.ゲームを買ってもらう
3.ゲームを遊んでもらう

1.ゲームを知ってもらう

関係づくりの始まりは、知ってもらうことだと思います。広い目で見れば我々人類は皆、相互関係にあります。でも、ふだんの生活で実感できる範囲で言えば、知らないモノゴトと自分が関係あると思える人はほとんどいないからです。

それはどんなゲームなのか、どういう風に面白いのか、どこで手に入るのか、お値段は?どんな人に遊んでほしいのか?などなどの基本的情報を洗い出します。これはチームや自分の中での整理も役立つはずですから、やって損はありません。

そして伝えましょう。現代ではTwitterをはじめとするSNSや、このnoteのようなサービスが誰でも利用できるので、大きな金銭的コストをかけずできることはたくさんあります。お金をかけてもいいなら、推薦コメントや紹介記事を誰かに書いてもらったり、プレイ動画を作ったり、キャンペーンの実施、広告を出したりすることも考えられます。

いずれにせよ知ってもらいたい人がよく見ているメディアがなんなのか、どういう時に見ていて、どんな情報に反応しているのかを考えて伝えるのがいいです。つまり、誰かに知ってもらうことのスタートは、知ってもらいたい誰かを知ることです。どんな人がつくったゲームに興味をもってくれそうなのか、仮説を立ててから知ってもらうための行動ができると効率的に進められると思います。

これはゲームを作り始める段階から考え始めていいことです。もちろん、ゲームを作っていく過程で変わることもあるとは思いますが、「何を作るか」は「誰のためにつくるか」とセットになるはずです。

2.ゲームを買ってもらう

ゲームを買ってもらうことは、ゲームの作り手とプレイヤーたちとの関係において、最もシビアなパートになるのではないでしょうか。

作り手にとってゲームを買ってもらえること、つまりゲームを販売し、売れることは、ゲーム作りにおける極上の瞬間の一つです。今までなかったけれど自分たちの頭で考えて作り上げたものを誰かにお金を出して買ってもらえると、間違いなくドーパミンがドバドバ分泌されてハッピーになります。

しかし反面売れないと、とても寂しいですし、他の売れてるゲームに嫉妬しちゃったり、積み上がる在庫の山で気分が滅入ったりします。

一方、プレイヤーたちも限られた予算の中で購入するゲームを選定するわけですから、ただ面白そうだというだけで全て買うわけにもいきません。そして日本の住宅事情もありますから、仮にお金に余裕があっても家に保管しておけるゲームの数量の限界で見送り…という可能性もあります。

他にも各人の事情が大いに絡んでくるので、誰かにゲームを買ってもらえるというのは奇跡的な現象だと思います。すべてを完璧にやりきったとて、すべての人が買ってくれるわけでもないですしね。

これを踏まえて、プレイヤーにゲームを買ってもらうための代表的な販売パターンを紹介します。

1.個人での販売

毎年開催されているボードゲームの即売会「ゲームマーケット」をはじめとする各種イベントでの販売、BOOTHなどマーケットプレイスでの販売がこれにあたります。プレイヤーに直接販売するような形になるので、直接フィードバックをもらうこともできるでしょう。

2.委託、卸販売
ボドゲーマのような通販サイトや、イエローサブマリンのようなゲームショップ、卸事業者などにつくったゲームを委託や卸して販売します。定価の何割かの値段でゲームを販売店に卸すかたちになります。

うまくいけば、個人の力では届けられないような人にまでゲームを楽しんでもらえるかもしれません。ただ、審査があったりある程度の在庫を自分でも持つ必要があるなどハードルが高くなります。手数料も個人の販売より多めにかかります。

3.クラウドファンディング

ボードゲームをつくるプロジェクトを立ち上げて、支援者にリターンとしてゲームを渡す、というのも販売の一種かと思います。

モノができる前に販売の見込みがたつ、印刷費を支払う前に入金があるかもしれない、プロジェクト自体が広報になるなどのメリットがあります。以前に僕が携わったプロジェクトでは、海外の方にもお届けすることができました。

しかし一方で、しっかり取り組まないと失敗してむしろ「盛り上がってないゲーム」というイメージがつくリスクもあるので、メリット・デメリットを踏まえて取り組むのがよいでしょう。

規模などにもよりますが、1、2、3の順番でやることが増えていって大変だと思います。初めての方は「1.個人での販売」に類する方法で、まずは「ゲームを買ってもらう」ことの手触りをリアルに感じることからスタートするのがおすすめです。

3.ゲームを遊んでもらう

本note最後のセクションになります。ゲームを遊んでもらうことはPRの最終目的であり、ゲームの作り手の最終目的だと思います。たとえ1万個売れても、買った人が誰も遊んでないなら意味ないですよね。ちょっと日本語おかしいですが、ゲームをつくって世に放つなら、プレイヤーと「ゲームを遊んでもらう」というリレーションを築きたいはず。

主な方法としては、アイデアでも触れたテストプレイや、ボードゲームのプレイ会への持ち込み、あるいは自らイベントを企画することが該当します。

テストプレイにはブラッシュアップ以外にも意味があって、それはシンプルにゲームを誰かに遊んでもらえるということです。

僕は他の人の作ったテストプレイに参加するのも結構好きなのですが、やっぱりプレイヤーとしては、作者を目の前にしてゲームを遊ぶのは特別な体験になります。テストプレイに参加したゲームのことはずっと覚えているもので、製品化されたものを見かけると「立派になって…!」と感激します。

完成しているゲームでも、プレイの現場でプレイヤーからもらえるコメントは格別で、またゲームを作りたくなる熱をもらえます。

僕自身も主催することがたまにありますが、特にゲームマーケットなどのイベントが近づくとTwitterでたくさん募集されているので、飛び込んでみてください。最近ではオンラインサービスのユドナリウムテーブルトップシミュレーターを使うことも多いです。

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以上、ざっくりではありますが、ゲームのアイデアづくり、製造、PRの解説でした。

製造はアイデアがないことにはできませんが、PRは早いうちから考えられるに越したことはないので、PR(アイデア→製造)という流れがいいかもしれませんね。

初めてつくる時は大変だと思いますが、一度やりきると、多くの人はもう一回やりたくなってます。楽しいからです。趣味としてもおすすめ。

ちなみに、ボードゲーム作りたい!けど、手伝ってもらいたい…という方や企業様は、ミヤザキまでご連絡ください。下記のフォームからの連絡お待ちしております。


ナイスプレー!