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ゲームを「むずかしい」ものにしないためにデザイナーができること

ゲームにおいて、ルールはむずかしくてもいい。ただ、ゲーム自体をむずかしくしてはいけないと思います。

誰でも知っているような仕組みしか使わないようなゲームでない限り、ゲームにはルール説明が必要です。ルールとはいわば「人工的に作られた決まり事」ですから、知らなければ、新しく覚える必要があります。

そして、個々のデザイナーの好みやテーマへのこだわりにもよりますが、大きな流れで見ると全体的に新しいゲームのルールはむずかしくなる方向に向かっている気がします。理由は簡単で、シンプルな構造のゲームは「作りつくされている」ように見えるからです(本当はきっとまだまだ見つかってない構造があると思いますが)。

だから「新しいゲームだ」と言い張るためには、既存のアイデアを組み合わせたり、味付けしたり、あるいはまったくの新規なルールを構築する必要があるというわけです。そうしてルールはむずかしくなっていきます。

ただ、それ自体は悪い事じゃないし、むしろ面白い体験が世の中に増える可能性が上がるわけですから、歓迎されるべきことだと思います。僕がゲームをつくるときだって大抵このやり方です。

しかし問題なのは、そうして作られたむずかしいルールが、遊び手にとって理解しにくい場合です。このとき、ゲームがむずかしくなってしまいます。

人は学習できますから、ルール自体がむずかしくても覚えてなんとかすることができます。そうでなければ、人間社会を生き抜くことはできません。ただ、ルールの教えられ方が良くないと、誤解したり、覚える気がなくなるのも人間です。

そうした時、人は「むずかしいぞ」と思ってやる気がなくなります。理解できないという現象は「自分に向いていない」と判断する材料になってしまいます。そもそもできないですし、やってみてもどうせ勝てませんから、やらない方がよさそう、となるのです。

これを解決するためにデザイナーがまず打つべき手が、ルールブックを充実させることでしょう。説明動画を用意したりもできますが、プレイヤーがゲームと一緒にまず手に取られるのは、同封されている(であろう)ルールブックだからです。

具体的には、下記の点が達成できているかに気を付けると良いでしょう。

【ゲーム内容】
・目的は分かるか
・何をどうすればいいかは分かるか
・なぜしなくてはいけないのかが分かるか

【構成】
・表記ゆれはないか
・説明の順番は適当か
・重要な情報が目立っているか
・他の解釈ができる表現になっていないか
・ゲームを知らない人に渡して理解してもらえるか

ただ、どんなにルールブックを分かりやすく作りこんでも、限界はあります。たとえばある盤面での有効な行動をプレイヤーが行わない場合は、動作そのものの存在を忘れている可能性があります。

そうしたケースがテスト段階で散見されるなら、サマリーカード(ゲームの概要や流れを各プレイヤーが手元で確認できるカード)を用意するといいでしょう。「ルールを忘れる」ことが面白さの一部分である場合でもない限りは、脳に負荷をかけないでプレイできる環境を整えてあげたほうがいいです。

プレイヤーは「ルールを覚えて実行する」ためにゲームをするのではなく、「ルールを使って楽しむ」ためにゲームをするのです。その構造自体がむずかしくある必要はまったくありません。

あと、こういう類の話が書かれている『ゲーマーズブレイン -UXと神経科学におけるゲームデザインの原則』という本がめっちゃ良いです。優れたゲームのUXを神経科学の見地から分析して、応用の方法を示唆してくれます。サービスのデザインを考える人にもオススメ。

ナイスプレー!