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城山文庫の書棚から076『言葉は選ぶためにある』田中優子 青土社 2024

法政大学前総長、江戸研究家の田中優子さんは最近ずっと怒っている。2022年から23年に書かれた連載コラムを収めた本書で、その怒りは家父長制や女性蔑視、排外主義などに対して向けられる。いずれも旧態依然とした世の中の価値観、昭和の残滓だ。

抑制した筆致で綴られるそれらの怒りは、ヒステリックでないが故に余計に鋭く読む者に突き刺さる。激しい言葉を選びながらも品性を失わない静かな怒りの意思表示。差別や価値観の押し付けに抗い、精神の自由を希求する態度が通奏低音を奏でる。

執筆期間に露呈した政権与党と統一協会の癒着、国葬騒動など時事問題に触れながら、長期権力の腐敗の実態を看破する。地方から都会に出て孤独を抱えた人々にとって、新興宗教は共同体の代理として機能したのだという。癒着の解明は未だ有耶無耶のままだ。

菅義偉前首相と翁長雄志前沖縄知事は共に法政大学OB。2人と同時期に在学していた田中さんは、辺野古問題を巡って鋭く対峙する姿を特別な思いで見ていたという。安倍・菅政権で凄惨を極めた沖縄に対する非道い仕打ちは、岸田政権となった今も続いている。