Ken H

東京在住♂ アル中、ビラ中、活字中毒。 3拍子揃った、依存症界の三冠王。

Ken H

東京在住♂ アル中、ビラ中、活字中毒。 3拍子揃った、依存症界の三冠王。

最近の記事

城山文庫の書棚から079『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』篠原匡 朝日新聞出版 2022

「面白い」という感覚の裏側にあるのは驚きであり、驚きの根源にあるのは「知らないこと」だと篠原さんは言う。さらに言うと「見えていなかったこと」の中に何かが始まる萌芽があるとも。本書はまさにそんな本だ。 座間市役所生活援護課の職員たちの取組みを取材したルポルタージュ。民間出身で熱血漢の課長を軸に、周りでサポートするNPOやサービス会社による「チーム座間」の活動も紹介。生活援護を受ける市民にもフォーカスして、普段目に見えない社会の様相を浮かび上がらせる。 生活困窮者自立支援制度

    • 城山文庫の書棚から078『神山 地域再生の教科書』篠原匡 ダイヤモンド社 2023

      徳島県神山町。地方創生の成功モデルとして全国から注目を集める町だ。人口5千人弱だが、様々なルーツの移住者が東日本大震災をきっかけに増え、コロナ禍の2020年には8年ぶりに社会増に転じた。何が人々を神山に惹きつけるのか。 2023年4月、神山町に新しく全寮制の高専が開校した。1学年40名、全体で200名の学生が住民として加わる。ほとんどは町外から移り住む若者であり、彼らが町にもたらす効果と影響は計り知れない。神山に残り起業する者も現れるだろう。 元の住民と移住者が交流し、人

      • 城山文庫の書棚から077『人生は選べる』篠原 匡 朝日新聞出版 2024

        ハッシャダイソーシャルは、全国の高校や児童養護施設、少年院などの若者に、無償でキャリア教育を提供している一般社団法人。代表の勝山は「選択格差」が日本の若者の進学を巡る差を生み出していると指摘する。もう一人の代表・三浦も同じ20代の若者だ。 勝山は自身が少年院を出た札付きのワルだった。付き合っていた彼女の兄から手を差し伸べられ更生する。相棒の三浦は教師を目指したが高一でいじめにあう。「周りは変わらないから自分が変わるしかない」という恩師の言葉にはじめは反発するが、やがて少しず

        • 城山文庫の書棚から076『言葉は選ぶためにある』田中優子 青土社 2024

          法政大学前総長、江戸研究家の田中優子さんは最近ずっと怒っている。2022年から23年に書かれた連載コラムを収めた本書で、その怒りは家父長制や女性蔑視、排外主義などに対して向けられる。いずれも旧態依然とした世の中の価値観、昭和の残滓だ。 抑制した筆致で綴られるそれらの怒りは、ヒステリックでないが故に余計に鋭く読む者に突き刺さる。激しい言葉を選びながらも品性を失わない静かな怒りの意思表示。差別や価値観の押し付けに抗い、精神の自由を希求する態度が通奏低音を奏でる。 執筆期間に露

        城山文庫の書棚から079『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』篠原匡 朝日新聞出版 2022

        • 城山文庫の書棚から078『神山 地域再生の教科書』篠原匡 ダイヤモンド社 2023

        • 城山文庫の書棚から077『人生は選べる』篠原 匡 朝日新聞出版 2024

        • 城山文庫の書棚から076『言葉は選ぶためにある』田中優子 青土社 2024

          城山文庫の書棚から075『夜明けを待つ』佐々涼子 集英社 2023

          歌舞伎町の駆込寺、入国管理局の理不尽、国際霊柩送還士そして在宅終末医療。人間の生と死を見つめ、優れたノンフィクション作品を次々と発表してきた佐々涼子さんのエッセイ&ルポルタージュ集。彼女の仕事の集大成となるであろう一冊。 地下鉄サリン事件の首謀者ら7名の死刑が執行された日、佐々さんは友人や息子とモヤモヤについて語らう。自分が正しいと信じて疑わない人達が間違えたのがあの事件であり、閉じ込められた人の集団は腐る。その通り。だけどモヤモヤは消えない。 一時期人生に迷った著者は、

          城山文庫の書棚から075『夜明けを待つ』佐々涼子 集英社 2023

          城山文庫の書棚から074『声の地層 災禍と痛みを語ること』瀬尾夏美 生きのびるブックス 2023

          東日本大震災の被災地へ赴き、津波と地震から生き延びた人々・大切な人を失った人々の声を聞く経験から語り継ぐことを始めた瀬尾夏美さん。東京から陸前高田・仙台に移住し、10年を経て東京に戻り、語ることを続けている。真摯なその記録。 本書は彼女が聞いた話を元に書き起こした物語と、それに対する彼女自身の解説のセットで織りなされている。話を聞かせてくれた人びとのほとんどが、誰かに伝えてね、と言ってくる。語り継ぎの役目を託された瀬尾さんは、本書で見事にそれを果たしている。 東日本大震災

          城山文庫の書棚から074『声の地層 災禍と痛みを語ること』瀬尾夏美 生きのびるブックス 2023

          城山文庫の書棚から073『東京の生活史』岸政彦 編 筑摩書房 2021

          東京に暮らす150人にその知人150人が聞き取りを行なった記録。ひとり1万字で150万字・二段組で1200ページの大著は、読み終えるのに2ヶ月半を要した。始まりは岸さんのふとしたつぶやきだった。 「東京の生活史、300人くらい聞きたい。」反響は大きく、2020年7月に募集をしたら480名近くの応募があったという。そこから絞り込み、150名の聞き手を選ぶ。聞き手が語り手を選び、研修後に聞き取りを行い、所定の文字数まで絞り込み編集する。この本は本というより、偶然と必然のあいだで存

          城山文庫の書棚から073『東京の生活史』岸政彦 編 筑摩書房 2021

          城山文庫の書棚から072『東京23話』山内マリコ ポプラ文庫 2017

          千代田区を皮切りに、擬人化された東京23区が自分語りする。キャラクターは男性だったり女性だったり、ビルだったり行政区だったり。主体に合わせて話し方も変わる。文京区などは「吾輩は区である。」で始まる漱石風だ。 その街のキャラに合わせ声色は変幻自在。渋谷区はギャル、世田谷区はマダム、江戸川区はインド人風で台東区は江戸っ子べらんめえ調といった感じだ。同じ東京都区部でも方言があり、フランス語のように性別もあることに気付かされる。 描くのは現代ではなく思い出の懐かしい東京。と言っても著

          城山文庫の書棚から072『東京23話』山内マリコ ポプラ文庫 2017

          城山文庫の書棚から071『東京の創発的アーバニズム』ホルヘ・アルザマン Studiolab 学芸出版社 2022

          慶應大学で教鞭を取るスペイン人都市研究者・建築家が東京の都市を解析しプロトタイプを浮かび上がらせる試み。横丁・雑居ビル・高架下建築・暗渠ストリートそして低層密集地域という5つの都市パターンで東京を切り取る。 著者が提唱する創発的アーバニズムとは、偶発性と切実な必要性から生まれる都市のあり方。森ビルや三井不動産をはじめとする大企業が主導する既存のアーバニズムとの違いは、小規模で多様な関係者による地域密着型のコミュニティであることだ。 ゴールデン街やのんべい横丁は海外から訪れる人

          城山文庫の書棚から071『東京の創発的アーバニズム』ホルヘ・アルザマン Studiolab 学芸出版社 2022

          城山文庫の書棚から070『災害対応ガバナンス』菅野拓 ナカニシヤ出版 2021

          今年元旦に能登半島を襲った震度7の巨大地震。復旧作業の真っ只中だが、避難所の映像が映し出されるたびに心が痛む。1月の極寒で体育館に避難した人の中に被害者が出た。なぜ日本の避難所はいつまでたっても酷い環境なのか。なぜ過去の経験から学ばないのか。 地震、津波、台風、豪雨。毎年のように自然災害に見舞われる災害大国ニッポン。それなのになぜ、災害対応はいつも混乱するのか。我が国の災害対応に関する法制度の変遷をたどり、混乱の原因を構造的に明らかにする気鋭の防災専門家による一般読者向けの

          城山文庫の書棚から070『災害対応ガバナンス』菅野拓 ナカニシヤ出版 2021

          城山文庫の書棚から069『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』ダニー・ネフセタイ 集英社新書 2023

          1985年に日本人の妻と結婚し埼玉の秩父で家具職人として暮らす著者が、戦争の不条理と即時停戦を訴え昨年末に緊急出版。元イスラエル軍兵士としての自らの経験を基に、軍隊の論理と国家による洗脳の危険性を訴える。 ダニーさんは家具を作る傍ら、全国で講演を行い非戦を訴える。「抑止力という武器による平和」が如何に脆く虚しいものか、度重なる中東戦争が如実に物語っている。イスラエルはガザ侵攻を正当化するが「正しい戦争」など無い。そう主張する彼は母国から非国民扱いされている。 ダニーさんが

          城山文庫の書棚から069『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』ダニー・ネフセタイ 集英社新書 2023

          城山文庫の書棚から068『レジリエンスの時代』ジェレミー・リフキン 柴田裕之 訳 集英社 2023

          米国の経済社会理論家リフキン氏が2022年に上梓して昨年和訳版が出た話題の本。地球を人類に適応させる「進歩の時代」から人類が地球に適応し、自然界と共存する「レジリエンスの時代」へ。気候危機が深刻化する中、不可避の方向性だ。 前半は経済学と物理学の対比が面白い。アダム・スミスが「資本の動きはニュートンの第三法則で説明できる」と言ったそうだが、どちらも数学で解析され、速度と方向性を持った物理的現象にも準える。現実の経済には非平衡、熱力学の法則が当てはまるという指摘も秀逸だ。

          城山文庫の書棚から068『レジリエンスの時代』ジェレミー・リフキン 柴田裕之 訳 集英社 2023

          読書完走#430『遊廓と日本人』田中優子 講談社現代新書 2021

          江戸文化の光と影。吉原の遊廓にフォーカスし、「あってはならない場所」なのに人を魅了したその謎に迫る。 女性を搾取し人権を侵害した悪場所だった一方で、遊廓では踊りや三味線、和歌など日本文化が花開いた。全国から女性が集まる吉原で使われた遊廓言葉が標準語の原型になったと聞くと、少し複雑な気分だ。 東京五輪の森喜朗前会長の暴言で男尊女卑体質を露呈し、世界的にみても致命的にジェンダーギャップが大きい日本社会が古来、女性をどのように扱ってきたのか。本書から学ぶことは多い。 年末に放

          読書完走#430『遊廓と日本人』田中優子 講談社現代新書 2021

          城山文庫の書棚から066『コンセッションと官民連携ガバナンス』荒川 潤 勁草書房 2023

          国が進めるPPP/PFIのうち、公共施設の運営権を民間に有償譲渡するコンセッションは我が国では導入が端緒についたばかりだ。中でも有料道路については、未だ愛知県の一件のみ。その事業推進に関わった著者による博士号学位論文が本書である。 著者の荒川氏は愛知県知事特別秘書。愛知県は有料道路以外にも国際展示場やアリーナなど多くのコンセッション事業実績をもつ。本書では事業開始後のガバナンスのあり方にフォーカスし、失敗リスクを低減する方策について学術的に論じている。 官民連携ガバナンス

          城山文庫の書棚から066『コンセッションと官民連携ガバナンス』荒川 潤 勁草書房 2023

          城山文庫の書棚から065『インフラ投資』佐藤正謙・福島隆則他 日経BP 2019

          日本を代表する法律事務所のパートナー弁護士3名とシンクタンクの主席研究員によるインフラ投資に関する実務書。制度や契約の専門的な解説の前段で世界のインフラ投資市場の概観や日本におけるPFIの変遷等が描かれており、取っ付きやすい導入となっている。ハコモノ中心の“ガラパゴス化した”日本のPFI1.0からコンセッションの登場によるPFI3.0を経て、現在は国際的な標準を視野に入れたPFI3.0の時代だ。 本書で重点が置かれているのがコンセッションに関する実務の説明・検討だ。コンセッ

          城山文庫の書棚から065『インフラ投資』佐藤正謙・福島隆則他 日経BP 2019

          城山文庫の書棚から064『インフラPPPの理論と実務』著者:E.イェスコム、E.ファーカーソン金融財政事情研究会 2020

          欧州を拠点に活躍するプロジェクトファイナンス及びPPP分野の大家の共著をデロイト、JICA、西村あさひ及び長大の専門家が分担・和訳した実用書。官民双方の視点、リスク分析と契約実務まで網羅しPPPの概要を体系的に解説。6部28章で構成され800ページを超える大著。 公共セクターの視点ではPPP採用検討の際に直面する政策的課題を取り上げ、具体のPPPプロジェクトにおける解決策を提示する。また、公共政策フレームワークにおけるファイナンスのアプローチを解説する。あわせて民間事業者側

          城山文庫の書棚から064『インフラPPPの理論と実務』著者:E.イェスコム、E.ファーカーソン金融財政事情研究会 2020