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「売れる高級酒」となるために必要なことってなんだろう。

「日本酒はワインなどと比較して安すぎる」

こんな言葉を聞いたことのある人は少なくないでしょう。
日本酒を製造する蔵元のフラグシップに据えられている商品では4合瓶で5000〜10000円で収まることが多いのが現状。近年では3万円を超える商品も造られるようになってはきましたが、それでも10万円を超えるものは数えるほどしかありません。

しかしワインはどうでしょう。
例えばフランス ボルドー地区の頂点に君臨するともいわれる5大シャトーのワイン。
10万円は当たり前。50万円近い価格が付くことも多くあります。
また、高級ワインの代名詞ロマネ・コンティは、1本100〜400万円もの値段が当たり前のように付きます。
比較するまでも無いでしょうか。

世界の富裕層がお酒を選ぶ際には、そのお酒の値段で価値を決める場面も少なくないようで、現在の高級日本酒では安すぎて選ばれる余地はあまり無いそうです。


それでも近年、高級日本酒を造る取り組みは意欲的に行われています。

獺祭を醸す旭酒造さんが、「最高を超える山田錦プロジェクト2019」で優勝した山田錦を使用して醸造した獺祭6本を、サザビーズオークションへ出品。
うち3本は約84万円という価格がつきました。更なる高級酒への成功例として記憶に新しいチャレンジでした。


しかし、全ての高級日本酒への挑戦が成功しているわけではありません。

先日楯の川酒造がクラウドファンディングで募集していた企画が終了しました。

10万円という価格で発売当初は話題を呼んだ「光明」
この贅沢な仕込みの上に、さらに四段仕込や熟成を加え、設定された販売価格は約22万円。

かなりのチャレンジだと思わせる企画です。

しかし必要とは言われているけれども、一般的には求められていないのか。
少し考えさせられる結果となりました。

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さて。

上記のような挑戦が行われていますが、悲しいことに全てが成功となるはずもなく、明暗は分かれてしまっています。挑戦をする蔵元さんがまだ少ないということもありますが、現状ではまだまだこれから、というジャンル。

より高額な商品が今後も成立されるためには、どういう要素が求められていくのでしょうか。

いわゆる「付加価値の高い情報」というもの。少し考えてみましょう。


原料や製法の面からは。

いわゆる「技術面」にあたる要素。これはこれまでのフラグシップ酒において最も重視されてきた部分であり、今後も注目されていく部分なのでしょう。

最も良いとされてきた特A地区の山田錦を30%前後まで精米し、上品な香りを出すように時間をかけて純米大吟醸を仕込む。これだけでも4合瓶で1万円は超えていましたが、頭打ちとなっている感は否めず。これ以上の価格を目指すとなると更なる付加価値が必要になってきていました。

これを受けてか、近年では一桁%の精米歩合の原料を使用した製品が登場してきています。端的に高コストとなり、最高級品と位置付けられる価格設定になりますね。数年前に限界となる精米歩合1%の商品が登場し、原料による高級路線の追及は一旦落ち着いたようにも思います。

製法面からは、速醸よりも手間や時間のかかる生酛系の仕込みや、スパークリング商品、熟成など、組み合わせることで技術的に付加価値となる余地はまだ充分にあると思われます。
スパークリングにはawa酒協会が、熟成酒には刻SAKE協会が近年発足されるなど、業界として新しい動きも出てきています。ワインやウイスキーなどをみると、熟成によって価格が上がっていく傾向にあります。日本酒ではまだ熟成は「当たり前の概念」にはなっていませんが、絡めていけると非常に面白いことになると思うのです。

様々な味わいが造られ認知されていくことで、これまでに無かった新しい価値が生まれていくのかもしれませんね。


テロワール、蔵のストーリー性からは。

少しずつ注目されてきた「地酒」らしさにあたる要素。言い換えれば「精神面」の要素でしょうか。
地元で栽培された米を使用する、蔵にはどんな歴史があって伝統的にこういう造りをしています、など。その造り手の個性に深く関わる部分だと思います。
最近ではGI(地理的表示)認証が導入され、この要素を含んだ日本酒を蔵元がある地域の風土や食生活を色濃く反映した日本酒としてブランド化を進めようとする動きがあります。

文化的・精神的な付加価値と考えられるこの要素は、実のところ直接は商品価格に関わっていないことが多いように思います。地元の人が普段の晩酌で飲むようなベースラインの商品や、4合瓶2000円までの商品では見かけるものの、高価格帯ではまだまだ少ないのが現状。これまでは原料や製法などのスペック面が非常に重視されてきたので、仕方のないことでもあるでしょう。

ですが世界を見ていく場合、事情は少し変わります。
葡萄の採れた場所で生産するワインの価値観の中に飛び込むうえで、たとえば山形県の蔵元で岡山県産の赤磐雄町を使用したような製品は、「地酒」としてはちぐはぐに映ります。それがたとえ美味しいお酒であったとしても。仮に「伝統的にこの土地は全国で生産された米が集まる場所だ」とするのであれば通用する可能性はあるでしょう。

市場で売れ筋だった商品に倣った、いわゆる「工業製品」として上質だったものがこれまでだとするのであれば、今後こういった「地の色」を取り入れていくことで、その土地に根差した「伝統工芸品」の価値に説得力が生まれてくるのではないでしょうか。

価格に対してすぐ上乗せできるものでは無いかもしれませんが、価値の「土台作り」として後々効いてくる要素のように思いますね。


でも結局はブランド力。なのか。

これまで技術面や精神面で考えうる要素を書いてみました。
しかし、これらの要素を取り入れたからといってその商品がすぐに「売れる商品」たりえるか、と言われれば「NO」と言わざるを得ません。

地酒ファンを除いた大多数の消費者にとって精米歩合や背景というものはあまり重要ではなく、「ブランドそのもの」で購入している場合がほとんどであるからです。

結局のところ、細かいスペックやバックグラウンドを抜きにして、買ったことや飲んだことがひとつのステータスとなりうるような、所有欲を満たせるブランドになる必要性からは逃れられないでしょう。

ですが純米大吟醸だけど安価、比較的安価だけど純米大吟醸クラスに引けを取らないほど旨い、などの「コスパが良い」ことを求めてられきた日本酒では、ある種の壁があるでしょう。新しく高額商品を造るとしても、既存の銘柄・ブランドについたイメージはなかなか抜けるものでもありません。「コスパが良い」といわれてきた蔵では、高額商品を出したとしても近いスペックの定番品との明確な・その価格になった適正な違いを打ち出せない場合チャレンジは失敗に終わるということは目に見えています。

それを考えると、現状では十四代や新政のような、市場で高額取引されているようなプレミア系日本酒しか「売れる高級酒」として成功する可能性は高くないようにも思います。

とはいえ現在人気絶頂ともいわれる「新政 No.6」も発売開始から約10年ほどしか経っていません。こういったプレミアブランドを一から造る場合は抜本的な改革は必要不可欠になってくると考えられますが、決して不可能ではないのでしょう。


情勢的に大きな変化が生まれそうな向こう数年。注目していきたいですね。

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