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僕の海岸物語 ~眩しさとその影~

前回までのあらすじ、親の転勤から一人暮らしのバイト生活を自ら決めたものの、優柔不断な性格のためにいいように扱われるマサオ。海で出会ったノリの好意ですら素直に受け入れることができず・・・。

***

夕方のバイトへ向かうと手のひらを返したような態度のリーダーが、笑顔で迎え入れてくれた。
「お前がいないと大変だわ、昨日はキツく当たってすまんな。お前の出来る限りでいいから、いやなるべく現場に穴をあけないように協力頼むよ。店長にはサブリーダー候補として推薦するからさ!」ただ笑顔はキナ臭かった。
「はぁ、ありがとうございます。」心にもない台詞が口から出た。お前の大変のケツ拭きを俺にさせるのか!猫なで声で愛想笑いを繕うリーダーに唾を吐きつけた・・・!なんてことできる筈もなく、心の中に納めてしまう自分の情けなさに我ながら辟易してしまう。だがバイト代をもらって生活費を賄って生きるしかない。それ以外の方法をマサオは知らない。

リーダーに調子よくそそのかされてしまったのか、バイトでくたくたになる毎日をひたすら過ごしていたら季節は晩秋を迎えていた。こんな毎日の繰り返しが続けられるはずはない。ましてや半年の新人にサブリーダーのお役目がすんなり回ってくるはずもない。そして体力的、精神的な疲労以上に収入面で充実することはなかった。また店長とリーダーは共謀して僕を調子よく使っていることぐらい察することはできた。ただ、ここから抜け出す方法はわからなかった。

「すいません、風邪気味なんで休ませてください。」
「年末のこの忙しい時に休むなんて何を考えてるんだ!すぐに出てこい!」
「すいません・・・」クビを覚悟で電話を切りスマホの電源を落とした。

年末近くの掻き入れ時にこの態度はさすがに自分でも酷いと思った。だが店長とリーダーの自分本位の態度も同じように酷い。じゃあどっちが酷いんだ?と思えば思うほど、誰もかれも、僕もあいつらも、どいつもこいつも、この世には酷いやつしか存在しないんじゃないか?なんて気がした。ここからただ、ただひたすら逃げ出したくなった。

胸の奥のモヤモヤを抑えようとコンビニでビールを買って帰って一気に流し込んだ。この場限りと分かってはいるが、ほろ酔いがここから逃げ出す唯一の手段に思えた。だが、ほろ酔いから覚めたらまたモヤモヤが戻ってくる。それが戻って来る前にもう一本、コンビニに、そしてもう一本、か・・・?このルーティーン、やだな。で、足が向いた先はコンビニではなく海だった。

小春日和の陽ざしに青い空や海、そして白波が眩しかった。まもなく海から見覚えのある顔が近づいてきた、ノリだ。
「おっ、ひさしぶり!」
「ども」
「元気ないな」
「まぁ」
「そんな時もあるよ、だが海はすべてを受け入れてくれる。最悪な状況で最高の選択をしたようだな!」
「ですかね、てか、冬も近いのにサーフィンですか?」
「寒くても波があれば海に入るよ、ってか今日は温いよ。おまけにこの時期は気温より水温の方が高いんだ。」
「意味わかんないですけど・・・。」
「だろうな、やってみなきゃわかんないよ。」

颯爽と笑顔で通り過ぎるノリはなんだか清々しく眩しかった。それに比べて昼前からビールに逃げるマサオは、せっかくの清々しい晴天からも逃げようとしているようで、爽やかな天気が逆に情けなさの輪郭をはっきりと際立たせ、感情のやり場を失ってしまったようだ。

つづく

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