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最古級のトリックテイキング『karnöffel』から、Trumpの由来がなにか、仮説を立ててみる。


この記事はTrick-taking games Advent Calendar 2020の21日目の記事として書かれました。

はい、どうも。
珍ぬと申します。
ここ1年半近く、noteでボードゲームやパズル関連の記事をかれこれ90本くらい書いています。
よろしくお願いします。3回目。

ADVENTERの20日目は、PaixGUILD ピースギルドさんです。

では、本編始めます。

【注意】
今回の記事は、下ネタが頻出します。
苦手な方は、お読みならない方がよろしいかと。
事前にお断りします。


今回書く記事の資料

トリックテイキングゲーム史上最古と言われる『Karnöffel』。
今回は、以下の資料3点をもとにして個人的な仮説を立てていきます。

上2つは、Wikipediaですが、英語版とドイツ語版です。
残り1つは、以前noteにも書きました、伝統的カードゲーム(トランプ)の研究・創作の大家、Devid Parlettさんが執筆した『Karnöffel』の記事になります。

Google翻訳などで日本語に変換すれば、たいてい読めます。

Karnöffelの意味は「枢機卿」……だけではなかった

Karnöffelですが、なんと発音すればよいのか。
『トランプゲーム大全』などには、「カーネフェル」と音訳しています。

Karnöffelの意味ですが、「枢機卿(すうききょう・すうきけい)」とされているようです。
枢機卿って、何?という方もおられます。
株式会社に例えると、

教皇は社長で、枢機卿は取締役

みたいなものです。
枢機卿は教皇の補佐役でもありますし、次の教皇を決める際の投票権を持っています(株式会社の中でも、店頭公開していないファミリー企業っぽいですな)。

枢機卿は、英語でcardinalisと綴りますので、Karnöffelともよく似ている。
なるほど……と思ったら、wikipedeiaにはとてつもない記述がありました。

【英語版から引用】
The earliest substantial reference to Karnöffel is a poem by Meissner, written in or before 1450. In medieval times, the word also meant inguinal hernia.
<翻訳>
Karnöffelへの最初の実質的な言及は、1450年以前に書かれたMeissnerによる詩です。中世では、この言葉は鼠径ヘルニアも意味していました。

Karnöffelとは、鼠径ヘルニアだそうです。別名、

脱腸。

凄いよね、最古のトリックテイキングゲームが「脱腸」って考えると。
しかし、ドイツ語版はもっととてつもなかった。

【ドイツ語版から引用】
Der Ursprung des Wortes ist nicht gesichert. Das Wort Karnöffel wird etwas später in verschiedenen Zusammenhängen gebraucht, z. B. kann es auch einen Hodenbruch bezeichnen oder einen groben Menschen mit Neigung zur Gewalttätigkeit.
<翻訳>
その言葉の由来は定かではありません。 Karnöffelという単語は、少し後でさまざまなコンテキストで使用されます。B.睾丸が折れたり、暴力を振るう傾向のある荒れた人を示している場合もあります。

でました、睾丸。つまり、

キ◎タマ

あまり正確には翻訳されていないみたいですので、おそらく「Hodenbruch」がキ◎タマ相当に思われます。「Hodenbruch」の意味を改めて調べると「精巣ヘルニア」(なるほど……だからキ◎タマが折れるって訳したのね)。

では、Parlettさんの記事ではどうか?

【引用】
So what exactly does Karnöffel mean? Some have sought, not very convincingly I think, to derive it from the Persian Kanjifeh (cf modern Indian Ganjifa), a card game possibly played with the original Mamluk pack from which European cards were copied; others from the French cornifle, the horned pondweed (what's that go to do with it?); yet others connect it with the word carnival. In fact its primary meaning is a scrotal hernia and, by extension in some contexts, the testicles. By further extension it also came to mean a rough, uncouth and violent rogue, thence a Landsknecht or lansquenet, and, later still, satirically, a cardinal of the church. Hardly surprising, then, that bishop Geiler says he would gladly have the whole lot thrown into the bonfire.
<翻訳>
(現代のインドのガンジファを参照)からそれを導き出そうとした人もいます。フランスのマツモ、角のあるマツモの他のもの(それはそれと何の関係があるのですか?); さらに他の人はそれをカーニバルという言葉と結びつけます。実際、その主な意味は陰嚢ヘルニアであり、場合によっては睾丸です。さらに拡張すると、それはまた、荒々しく、不機嫌で、暴力的な悪党を意味するようになり、それゆえ、ランツクネヒトまたはランスケネット、そして後には、風刺的に、教会の枢機卿を意味するようになりました。ですから、驚くことではありませんが、その司教ガイラーは、彼が喜んですべてのロットを焚き火に投げ込むだろうと言います。

いくつか意味があるようです。
その中での選択として、とりあえず「枢機卿」が無難にひろまった、かもしれません。
……まあ、実際は、

Karnöffel→枢機卿・脱腸・キ◎タマ・悪党

横並びじゃないかと。

最古級のゲームレビュアー

ところで、Parlettさんの引用文の最後に「司教ガイラー」があります。
このガイラーさんって何者なのかというと、

【引用】
a sermon of 1496 delivered by Bishop Geiler in Kaiserberg, attacks it for its brazen promotion of a revolutionary social order.
<翻訳>
カイザーバーグのガイラー司教によって行われた1496年の説教で、革命的な社会秩序の勇敢な推進のためにそれを攻撃します。

カイザーバーグ(Kaiserberg)は、現在のドイツ西部、ライン・ルール大都市圏にあります。
ガイラーさん、なんでそんな説教してまで主張したかったのか。

【引用】
As to its social significance, Sow card it was so clearly an anarchic game that civic and ecclesiastical authorities often objected to it. Bishop Geiler, as we have seen, saw Karnöffel as the embodiment of that medieval nightmare "the world turned upside down". Ordinary card games, whatever their demerits, at least reflect a sensible social order, with the King superior to the Ober, the Ober to the Unter, and so on. "But now", he complains, "we have a game called Karniffelspiel in which everything is turned upside down:
<翻訳>
その社会的意義については、それは明らかに無秩序なゲームだったので、市民や教会の当局はしばしばそれに反対しました。ガイラー司教は、私たちが見てきたように、カルノッフェルをその中世の悪夢「世界がひっくり返った」の具現化として見ました。通常のカードゲームは、そのデメリットが何であれ、少なくとも賢明な社会秩序を反映しており、王はオーバーよりも優れており、オーバーはウンターよりも優れています。「しかし今」と彼は不平を言います。「Karniffelspielと呼ばれるゲームで、すべてが逆さまになっています。

Karniffelspiel(Karnöffelのこと)は、「無秩序なゲーム」「世界をひっくり返した具現化のゲーム」として怒り心頭です。
カトリックの司教として、当たり前な反応をしただけのことですね。
このあと、Trump(切り札)に関する内容が続きます。

ガイラーさんの説教が現存していたことで、Karnöffelのルールなどをおおよそ知ることができました。
まさに、トリックテイキングゲームを後世に伝えた最古のゲームレビュアーとして讃えたい人ですね。

……ガイラーさんの意図とは、正反対でしたけど。


Trumpは、実は強い順……ではない?

さて、ここからいよいよ仮説の応酬にはいります。

トランプ(Trump)って、
どういう意味・語源なんでしょうか?

トランプは「切り札」や「勝ち札」と訳していますし、語源としては「Triumph(勝利)」からきている、というのは一般的です。

そう、Triumph。
Triumphには他にも「(ローマの)凱旋式」という意味があります。
Karnöffelの切り札には「皇帝」「教皇」「Karnöffel(枢機卿)」とローマ帝国に関わるものがあります。

これらの札の連想から、イタリアの同時期に存在したタロットの元と言われた「Trionfo(トリオンフォ)」と何らかの関連があるのでは、という見解があります。

で、とんでもない仮説がひらめきました。

【仮説1】:
Trumpのスートを決めるというルールは、
そのスートのカードを「ローマ帝国化」する
Triumph(凱旋式)を行うパロディである。

まず、通常のカードの強さは、

K>Q>J>10>9>8>7>6>5>4>3>2
(※ただし、Karnöffelで使うカードにOberとUnterがあるが、
OberはQ(クィーン)、UnterはJ(ジャック)にあたる)

です。
司教ガイラーさんは、この順序は秩序正しいという見解です。
なので、Triumphによってローマ帝国化したカードについて

何強さの順番むちゃくちゃにしとんねん
ちゃんとしたものにせんかい
コンチクショー

とブチギレ……でなくて説教したわけです。


ローマ帝国の歴史、詰めちゃいました

「カーネフェル」のルールで、切り札の強さをみると、たしかに無茶苦茶というか複雑です。

【ルールの引用】
プレイにおけるカードの強さの順位は次の通りです。
 1)切札のウンター(J)(カーネフェル)
 2)切札の7(悪魔) リードした時のみ
 3)切札の6(教皇)
 4)切札の2(皇帝)
 5)リードされたスートのキング
 6)切札の3(オーバー取り)
 7)リードされたスートのオーバー(Q)
 8)切札の4(ウンター取り)
 9)リードされたスートのウンター(J)
10)切札の5(数札取り)
11)リードされたスートの10〜2(10が最強、2が最弱)
12)それ以外のカード(切札のスートの上記以外のカード及び、リードされないときの切札の7も含む)

しかし、うまい具合に区切ってみると「ローマ帝国の歴史」の象徴的な部分を切り出しているのです。


【仮説2】:
切り札5から2までのルールは、
アレキサンダー大王の諸国征服
模倣している。

ルールが入り組んでるのですが、切り札の5から徐々に数字が下がるごとに、数字札に勝つ、ウンター(J)に勝つ、オーバー(Q)に勝つ……そして、皇帝(切り札の2)はキング(K)に勝つ。

「世界(強さの序列)をひっくり返す」表現として、理知的かつ説得力あるルールになっています。

このことを踏まえて、教皇が登場します。


【仮説3】:
切り札6のルールは、
キリスト教がローマ帝国の国教となる
ことを模倣している。

史実としては、教皇と皇帝の上下関係は度々入れ替わったりしますが、まあトップが変わるというエポックメイキングの順番として、Karnöffelでは教皇が上の扱いになります。

そして、教皇よりも上にくるのが「悪魔」です。
ただし、これはあるものを例えた姿ではないか、とみます。


【仮説4】:
切り札7のルールは、
黒死病(ペスト)
模倣している。

Karnöffelのことが記された最古の歴史的資料は1426年。
ペストの(第2次)パンデミックがおきたのは、1300年代の中頃です。
なので、この史実がルールに反映されるのは、荒唐無稽ではないでしょう。
しかも、1348年に第198代教皇は、ペストに対する施策が芳しくなくなると、教皇領から逃亡してしまいます。
まさに、ペストが教皇に勝る事態になったのです(そして、人間でもなく正体も分からないので、リードした時のみ切り札となる制限をつけた、という仮説を立てます)。

ちなみに、第198代教皇の名前はクレメンス6世

あーーーーっ!
切り札と数字かぶってるがな。

その悪魔より上なのが、

キ◎タマ

ということですが、ただのキ◎タマではない。
キ◎タマ扱いされた「枢機卿」だったりするのです。
そうすると、


【仮説5】:
KarnöffelのTrumpは、
強い順番ではなく
嫌なものの順番である。

と推測もできます。
なのでTrumpは、仮説の意味を踏まえて直訳すると

「ローマ札」もしくは「嫌札」。

……やっぱり嫌なので、これらの呼び方は自ら却下します。

ただ、別の角度から考えると、また興味深い仮説がたちます。


Karnöffelは誰がつくったのか?

【仮説6】:
切り札Jのルールは、
ローマ帝国の滅亡
予言している。

Karnöffelは、資料により1426年以前から遊ばれていると思われます。
この時点では、まだローマ帝国(東ローマ帝国)は健在です。
しかし、1453年にオスマン帝国はコンスタンティノープルを陥落して、ついにはローマ帝国を滅亡に追い込みました。

そのようにみると、切り札のJは1番嫌われているというよりも、1番期待されている(本当に強い)もの、と見ることができます。
オスマン帝国が予言通りの結果だったのかは、分かりません。
まあ、司教のガイラーさんは、やっぱりお気に召さないはずです。

こうやって仮説を立て続けましたが、じゃあ、Karnöffelのルールって誰が考えたのでしょうか。

で、また閃いてしまった。




【仮説7】:
Karnöffelを作ったのは、
ヴァンダル人の末裔である。

ヴァンダル人は、ゲルマン民族のひとつで、かなりの大移動をしています。

いまのドイツあたりからスペイン経由でエジプトにまわり、地中海の南にヴァンダル王国を建てました。
しかも歴史上初となる、ローマ帝国のローマを陥落する大イベントをやってのけました。
そしてまもなく、西ローマ帝国が滅んでしまいます。
さらにまもなく、ヴァンダル王国は東ローマ帝国に滅亡させられてしまいます。

その後のヴァンダル族は、四散したとおもわれますが、ドイツの東側のあたりにヴァンダル族由来の地名があったりするので、ドイツ一帯にも末裔にあたる人が暮らしていてもおかしくありません。

ローマ帝国をここまでパロディ化できる想像力を考えると、Karnöffelを作ったのはヴァンダル人
妄想全開の仮説ですが、全くありえないとは、言い難いのでは………むにゃむにゃ。

ひとまずの締め

ということで、実はまだ予定していた内容の

前半

なのです。
当初ADVENTERでの予告したタイトルは、

最古級のトリックテイキング『karnöffel』から、トリックテイキングを「舞台装置」として考えてみる

「舞台装置」について、全然ふれていません。

これからそのことについて書くにしても、もうすでにおなかいっぱいのボリュームです。
なので、後半はADVENTERが終了してから早いうちにUPします。

22日目は、きりんさんです。安定しています。

では。

【追記:2020/12/26】
後半の記事をUPしました。
トリックテイキングゲームはドイツ語で「Stichspiel」と呼びます。
「Stich」と「Spiel」の組み合わせですが、『karnöffel』を通して考えてみるとどう見えるのか、書いてみました。


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