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トリテとレンク(8・続終)~かつてトランプと呼ばれたトランプと、現在のラフではないラフ

この記事はTrick-taking games Advent Calendar 2021の12日目の記事の続きとして書かれました。

前回で終わるはずだった「トリテとレンク」。

まさかの延長です。
というのも、1つ書けそうな話題をみつけたら、それが思ったよりもボリュームが大きかった。
分けてしまおう、と思った次第です。

それでは、続きです。

OEDおそるべし

前回の終わりでは、OED(オックスフォード英語辞典)で「Trump」を引くと、次の項目を見つけてしまったことです。

【抜粋引用】
b.
An obsolete card-game, also as ruff.

訳すと「時代遅れのカードゲーム。ruffも同様」。
この文には、2つ驚くことがあります。
1つ目:トランプは時代遅れのカードゲームを指す。
2つ目:ruffというトランプのゲームがある。

それぞれ、追っていきます。

Trumpはトリウンフォ

来年の2月頃に、黒宮公彦さんが執筆されたトリテに関する本『トリックテイキングゲーム発達史』が出版されます。

こちらのリンク先には、先行して書籍の内容の一部抜粋が転載されています。
その中の「第2章 ゲームとしてのタロット」から引用します。

【引用】
いずれにせよ、遅くとも1526年にはトランプゲームとしてのトリウンフィが現れた。トリウンフィは元来タロットの切り札を指していたのだから、切り札の概念がトランプにも適用されるようになった、すなわち切り札のあるトランプゲームが出現したことを意味する。 (中略) いずれにせよ切り札を伴った新しいタイプのトランプゲームが現われて「トリウンフォ」などと呼ばれたわけだが、ある特定のゲームがそう呼ばれたわけではない。どうやら16世紀には切り札のあるトランプゲームが流行して次々と新しいゲームが生み出され、しかもそれらの多くが「トリウンフォ」もしくはそれに類する名で呼ばれたということであるようだ。

トリウンフィ(あるいは、トリウンフォ)について、抜いてみました。
トリウンフィ(Triomphe)についての項目は、英語版のWikipediaにもあります。

このカードゲームは、ヨーロッパに広く流布します。
イタリアだと「タロット」の源流、もしくは後継ではと言われています。
スペインにもドイツにもフランスにも、トリウンフィは遊ばれているようです。

イギリスにはフランス経由で渡ってきます。
このときトリウンフィは「トランプ(Trump)」と呼ばれていた、と思われます。
だからOEDに拾われた(収録された)のでしょう。
さらに、イギリスではトリウンフィに他の別名をつけていました。

フレンチ・ラフ(French Ruff)。

はい、ここでRuffの登場です。

今のRuff(ラフ)

さてこのラフ
ちょっとややこしい事情になっています。
というのも、現在ラフはトリテの用語として使われているのですが、フレンチ・ラフのラフとは意味が全く異なります

まず、現在のラフから説明します。
ラフはざっくばらんに言うと「切り札を使う(to trump)」ことを指します。
トリテの用語にフォローがあります。
マストフォローは「リードされたスートと同じスートのカードが手札にあれば、必ず出さなければならない」ルールを指します。
この流れにそったルールとして、マストラフがあります。
これは「リードされたスートと同じスートのカードが手札にないが、切り札があるならば、必ず出さなければならない(must to trump)」ことを指します。

では、現在のラフの使われ方はいつ頃からなのか。
ブリッジの前身であるホイスト(Whist)が1つのきっかけです。
ホイストは18世紀の前半に考案されました。

このホイストが他のカードゲームをおさえて流行したことにより、18世紀の終わりあたりに、ラフは現在の意味合いで固められたようです。

ホイストにも前身のカードゲームがあります。
それが、

Ruff and Honours(ラフと名誉)

です。

ホイストがメジャーになり「ラフと名誉」が廃れていったことで、ラフの使い方も混乱せずに切り替えられた、のでしょう。
さらにいえば、「ラフと名誉」は、トリウンフィとホイストの間に入るカードゲームであり、時期的に言えば「Trick」という用語を使いだした17世紀にも遊ばれています。
ある意味、

「ラフと名誉」は元祖トリテ

の1つ、かも知れません。

Ruff and Honours(ラフと名誉)


英語版のWikipediaには「Ruff and Honours」の項目があります。

日本語のWikipediaでは、「ホイスト」のなかの「歴史」で触れています。

【引用】
ホイストの歴史ははっきりしない点が多い。チャールズ・コットンの「The Compleat Gamester」(1674年)には、「Ruff and honours」というホイストによく似たゲームが記されているが、手札は12枚で、残った4枚の一番上をめくってそれを切り札とするものであった。切り札のAを持っている人がその4枚を手札に加え、いらない札をかわりに捨てることができた。それ以外はロング・ホイストと同様のゲームであったらしい。ホイストはこのゲームが元になっていると考えられる。

この引用の中の、「切り札のAを持っている人がその4枚を手札に加え」。
少しまとめつつ言い換えると、

プレイヤーの1人が、手札12枚からさらに山札の4枚を受け取り、16枚の中から新たに12枚の手札を組み立てる特権。

この特権を受けることのできる「切り札のA」がラフです。

本当に、現在のラフと全く異なりますね。

ちなみに、honours(名誉)の部分は、ホイストでも「オナー・カード」のルールとして引き継がれています。


「Trick」という言葉の必要性

「ラフと名誉」。
ゲームデザインとしては、なかなかの恐ろしいつくりです。
ラフ(切り札のA)を手札に持ったプレイヤー1人が、むちゃくちゃ有利になる、見事な不平等ゲームです。
しかし、目的を絞ってみると、これは意図したデザインかも知れません。
目的とは、いわゆる、接待や忖度などです。
ルールを明示することは、裏で暗黙に根回ししやすくするお膳立てです。

そして、「ラフと名誉」のゲームの最初のアクションである「ラフを持ったプレイヤーが山札を取って手札を再構成する」。
この行為は、通常のトリテのミニゲーム「リードスートを指定して、一巡し、勝者がカードを獲得する」とは別物です。

ラフと区別してのゲーム部分を表す言葉が必要となり、「トリック(Trick)」と名付けた、かも知れません。

「ラフと名誉」と同時期に類似したゲームとして「Ruff and Trump(ラフとトランプ)」があります。
おおよそ「ラフと名誉」と同じ進行のゲームで、ラフの決め方が異なります。
前半「ラフ」部と後半「トランプ(つまり、トリック)」部に別れていますよ、とまさにゲーム名で示しています。

そしてついに、ラフを排除したトリテ「ホイスト」の考案により、「ラフと名誉」「ラフとトランプ」は、Trumpーー時代遅れのカードゲームの仲間入りをした、次第です。


締め

とまあ、いろいろとごだごだ書いたわけですが、まったくの仮説ですので『トリックゲーム発達史』とは全然見当違いの可能性もあります。
そのへんのギャップを面白がっていただけると、大変助かります。

『トリテとレンク』はここでひとまずのおひらき。
といって全くのおしまいではなく、連句についてなにか書くかもしれません(トリテはまた数日後にnoteにしますし)。

Trick taking game adventar2021、21日目もよろしくおねがいします。

では。

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