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地を耕し鹿を獲ったニート(農業編)

前回の記事↓を読んでくださった皆様、ありがとうございます。

更新が半年もほったらかしになる驚異のニート精神を見せつけつつ、前回の次回予告通り実際に僕が山奥生活でやってきたことの一つ、畑での野菜作りについて紹介していこう。

※土地、金、時間を要するものである当タイトルテーマは、「実際に手を付けるなら何がオススメなのか?」「本当に割に合うのか?」に焦点を当てて書くものとする。

①地上の野菜たち

トマト

まずは野菜の王(※個人的意見)、トマトだ。

遺影。まだ元気なころ

手間のかからなさ ☆
味&栄養素    ☆☆☆☆☆
育成成功率    ☆

トマトが大好きだ。栄養素もさることながら、味、加工の幅、何をとっても最強の野菜…アンデス山脈から世界を制覇したこの果実を一回育ててみたかったのだ。
そんなトマト、何を思ったのか種から育てた。無駄に気合が入っている。ポットに植えて発芽を待つのだが、春でも冷え込む山奥では芽吹きたてのか弱い苗が心配でしょうがない。本当はホームセンターで出来あいの苗を購入し育成するのが一番楽だ。
いざ大きくなったら脇芽(茎の分かれ目から余分に生えてくる枝)をとり、土に刺しておくことでトマト苗を影分身よろしく増殖させることが出来る。

さあ楽しみな自家製トマト。己の生きがいでもある夏の自転車野宿旅から帰還を果たし、いざ畑を確認したところ…


結果………全滅ッ……!

悲しすぎて写真すら無いのだが、台風で支柱ごとなぎ倒されて息絶えていた。わずかながら成っていた緑色の実が濡れた土の上でしょぼくれている。
もちろん台風のリスクは考慮していたが、なんせトマトはデリケートな野菜。水をやりすぎると果実は破裂するし、赤く柔らかい実は虫にも狙われやすい。
種から気合を入れて育てたにも関わらず(夏ずっと放浪してるやつがいうことではない)あまりに報われない結果となった。

※ちなみに近所のちゃんと菜園やってる地元の人でもその年のトマトは不作だったそう。いわゆる”そういう年”なんだそうだ…泣けるぜ。


空心菜

しかし夏野菜で大成功を収めた例もある。空心菜だ。

種は150円くらいだったろうか

手間のかからなさ ☆☆☆☆
味&栄養素    ☆☆☆☆
育成成功率    ☆☆☆☆

エンツァイともよばれるこの野菜、その名の通り茎がストロー状の構造である。あまりの美味しさに台湾を旅した際は小籠包そっちのけで注文しまくった思い出がある。野菜炒めに使われるヒルガオ科の青菜だ。

こちらも種から育てた。苗が販売していないので仕方ないが、トマトほどのデリケートさはない。気温が上がる梅雨以降はぐんぐん育つ。ある程度の害虫被害をくらいながらもアホみたいに育つ。
しかも嬉しいことに、収穫を先っちょの葉っぱをちぎる程度に留めておけば何度も再生する。結果として空心菜は真夏を全盛期として秋まで活躍した。

無限に再生するので食い放題だ

ギンギンに熱したごま油につぶしたニンニク、ざっくり切った空心菜を10数秒いため、塩コショウでいただく…。1分で新鮮な青菜が食える環境が数ヶ月続くのだからたまらない。夏野菜のMVPは空心菜だ。


ししとう

ついでみたいなノリで育てたししとうも紹介する。

熟した実は真っ赤になる。不気味なほど甘い

手間のかからなさ ☆☆☆
味&栄養素    ☆☆☆☆
育成成功率    ☆☆☆☆

ししとうはタイミングが遅れたこともありホームセンターで購入した苗から育てた。その後とくに苦労もなく育ってくれたのでありがたい。(苗を販売する需要がよく分かった。種から育てるより数段楽なのだ)
味はもちろんザ・ししとうであり、文句なく美味い。鶏もも肉あたりと甘辛ダレを絡めてこんがり焼けば最高だ。
注意をするならばある程度の害虫(カメムシとか)に目を光らせること、近くに唐辛子を植えていないか気をつけることだ。唐辛子の花粉と交合してできたししとうの実はとてつもなく辛い個体になる。

主に自分が育てた地上の野菜たちは上記3つ。定期的な水やり&害虫駆除&肥料やりが必要だ(トマトの水やりはそれほど必要ない)。やってみて改めてわかることだが、骨が折れない畑仕事はない。食料獲得の苦労はニートだろうと平等に降りかかるものなのだ。


②土の中の野菜たち

玉ねぎ

次に土中の野菜たちを紹介しよう。まずは食卓に欠かせない玉ねぎから。

イモ類に比べるとさすがにちょい打たれ弱い

手間のかからなさ ☆☆☆
味&栄養素    ☆☆☆☆☆
育成成功率    ☆☆☆

玉ねぎには早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)の3種類ある。
それぞれ名前の通り収穫時期が月単位でずれるのだが、ある程度保存がきく中生・晩生がおすすめだ。ホームセンターで各種の苗を購入し、間断なく収穫できれば理想だろう。

玉ねぎは水やりがそれほど必要ではなく、月イチで肥料を撒くくらいで済むのが嬉しい。ニートたるものなるべく手間をかけないタイパが求められる。もちろん病気・冷害・害虫と戦うことは避けられないが…。
収穫後はひもで縛り、軒下に吊るして水分を抜くことを忘れずにしよう。


ジャガイモ

もう育てるのは空心菜とこいつだけでいいんじゃないか?となる優等生

収穫。これでもほんの一部

手間のかからなさ ☆☆☆☆
味&栄養素    ☆☆☆☆☆
育成成功率    ☆☆☆☆☆

とにかく楽。もらった種芋を地面に等間隔に埋めておく。肥料は適当、水やりもいらない(というか水は"やるべきでない"。地中で腐るからだ)。

世話らしい世話といえば、地上にせり出たイモに日光が当たらないよう土をかぶせること、一本の苗から分裂した枝を根元からちぎることだ(芽かきと言う)。地中のイモ本体に栄養を集中させるためだ。花も見つけ次第ちぎりとった。
たまにそんな世話をやるくらいで、30個ほどの種芋からキロ単位のジャガイモが収穫できた。もちろん保存もきくし味も栄養価も抜群。世界中で愛されるわけである。


サツマイモ

もう育てるのは空心菜とジャガイモ、サツマイモの3つでいいんじゃないか?

土質も良かったとはいえ適当にやってこの出来である


手間のかからなさ ☆☆☆☆☆
味&栄養素    ☆☆☆☆☆
育成成功率    ☆☆☆☆☆

本当に楽。肥料も水もやってはいけない(!?)。なのに育つ。薩摩藩が不作の地に採用するだけある奇跡の作物だ。

ホームセンターでは10本600円程度の"サツマイモのつる"が売っている。この"つる"を耕した畝に差していくのだ。
そうするとあら不思議。つるは増殖し広がり、地中ではサツマイモが出来ている…!やるべき世話は"つる返し"。このつるたち、地面に接しているとそこからも余分にイモを作り始めるので(!?!?)たまに引っぺがす必要がある。

これも結構な数が収穫でき、保存も効く。当然味も栄養も完璧だ。
ちなみに地上全身が有毒なジャガイモと違ってサツマイモのつるは美味しく食べられる。あの空心菜と同じヒルガオ科なのだ。

さつまいものつるは味も空心菜に似ている。なんだこいつ無敵か?


そして最後に、野菜づくりには連作障害というものがある。一度野菜を作ったスペースで、次も同じ科の野菜を作ると出来が悪くなるのだ(例:ナス科であるトマトを作った場所に、同じナス科であるジャガイモは植えられない)。
しかしサツマイモはこの連作障害にも強い。本当にわけわからんくらい優れた作物である。
唯一気にすべきことは地中の線虫だろう。イモに穴をあけてくるので、慎重にやるなら土を耕した後は日干ししたり薬を撒いたりする必要がある。


以上が地中の野菜たちだ。地上の手間がかかる奴らに比べればずいぶんとニート向きな気はする。ただ、しいて言うならば"黒マルチ"を購入することをおすすめする。この穴あき黒ビニールは雑草の繁殖を抑え、地中温度を上げて虫を蒸し殺し、ついでにジャガイモの土かぶせの手間を省いてくれる。

強風でまくれあがったりする。ダルい


田舎で野菜はつくるもの?

作るのが得か、買うのが得か

いろいろと紹介してみたが、どうだろうか?
個人的に自分で野菜をつくる手間、時間、費用…諸々を考慮すれば「野菜って買った方が早くない?」という意見は避けられないのが実際のところだ。

土を耕すのは割と重労働だし、黒マルチも肥料も安いわけではない。毎日朝夕に水やりして虫がつくなら農薬を撒く。種から始めようものなら収穫まで数ヶ月はざらだ。これをニートたちがやるというのも本来変な話である。

もっと言えば山奥…田舎である。道の駅や直売所に行けば安い値段で野菜が買えてしまうのだ。当然それらはクオリティも高いだろう。
だからこそ、ニートが野菜づくりをするときに手を付けるべき作物は"手間がかからず、コスパの良い野菜"であるべきだ。

すべて100円。近所でこんなのやってるから勝てる気がしない

結論から言ってしまえば、イモ系メイン+どうしても作りたい野菜1種から育ててみるのが最適解だろう。自分は当然ジャガイモ/サツマイモ/空心菜だ。ほかの野菜は買ってしまえばいい。(コミュ力に自信があるなら野菜のおすそ分けも期待できる。なにせご近所の大抵は"野菜の作りすぎ"だからだ)


地元の人たちは"土地があるから"野菜を作っている

いまいる山奥は僻地といえどぽつぽつと集落が点在している。大体は稲作用の田んぼばかりだが畑も当然ある。地元の人たちが作る野菜は大根キャベツのようなアブラナ科からマメ科、ナス科…多種多様だ。

畑作業をする姿を眺めていると、かつて祖母が野菜を作っていた姿と重なるものがある。思うに、地元の人たちは土地があるから作っているのだ。
せっかく農地を所有しているのに遊ばせておくのはもったいない。仕事を引退した時間ある老後なら尚更だろう。よそからやってきたニートがその境地に追いつこうとすること自体無理がある。

そして野菜を作るということは地元の人から農地を借りるということでもあり、おいそれと手を抜くのも気が引けるのだ。(もはや"仕事"である…)

幼い苗たちを寒すぎる夜から避難。これを毎日…


"ニート+農作業"のデメリット&メリット

土地に縛られる。
とにかく農業の宿命であるこの要素が自分には合わなかったのだろう。毎日世話しなくてはいけないものを旅好きが抱えるものではない。
ついでに言えば自分はニートだ。note更新を半年間ほったらかしにするレベルの。なんだかんだ面倒になって手を付けなくなることくらい当たり前なのである。(ジャガイモの写真など雑草まみれなのが分かるだろうか)
しかしそれでいて周りの目もあるにはある。田舎の人付き合いなるもの、おいそれと手を抜けないのも仕方ないことだ。

えらくない人間は食うことさえできませんでした


しかし…しかしである。そもそもコスパの話で済ましていいのだろうか?
田舎暮らしにあこがれる人はもっと別の何かを夢見ているはずじゃないか?

都会でのサラリーマン賃労働、冷凍都市の暮らし…。そういったものに人生を蝕まられるだけで終えたくない。そんな志を胸に人は自然の中、己の手で食料を手に入れようとするのだろう。煩わしい賃労働を介さずに生きる糧を得られる…これこそ農作業最大のメリットだ。

思えば自分もそうだった。度重なるブラック企業での労働生活の中、自然の中で小屋を建て自給自足するような生活を夢見ていた時期があった。
こういったある種のカウンターカルチャーの実践を夢想し、歪んだ労働社会にも屈さぬ己の反骨心に酔っていたものだ。
こういった気概は悪いものではないと思う。たとえ絶望の中でも諦めず、新しい活路を切り開こうとする瞬間こそ楽しい。魔王に村を焼かれようが、ひのきのぼうを握りしめて旅を始める時こそ最もアツいものだろう。
なんせキロ単位のジャガイモを抱えつつ「無職なのに飢え死にする気配がねぇぜー!」とか言ってるやつもいるのだ。滑稽だがなかなかの希望じゃなかろうか。

ここまで読んでくださった方も、ひとりのニートがかじっただけの野菜づくりレポートで満足せず、ぜひ自分だけの野菜づくりを想像してみてほしい。
なんだかんだ己の手で収穫までありつけた野菜の味は、格別だからだ。



次回予告(後編)

半年ぶりの更新のくせに文章が4900字を超えている。

野菜づくりの他に、狩猟免許取得(罠)→鹿狩猟もやったのだが、文章量的にこれは後編ということでまた今度にします…お楽しみに。

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