普段は強面で凶暴な彼女は、僕の前では嘘みたいに優しい。8話
*本編中に道路使用許可を取る話が出てきますが、実際には素人が新規で許可が降りることはほぼありません。
ー〇〇の家ー
〇〇:ん…
朝の太陽の光が部屋に差し込み、〇〇は目を覚ました。
時計を見ると、
「7:00」
〇〇:ん〜、よく寝たー。
春休みということもあって、ゆっくり出来ることに〇〇はテンションが上がっていた。
〇〇:♪〜
両親が朝早くから出かけて家に1人だったので、〇〇は一階に下りてキッチンで朝ごはんを作り始めた。
〇〇:よし、出来た〜
パンにレタスやトマト、チーズ、ベーコンにそれからアボカドを挟んでマヨネーズをかけて作ったサンドイッチを、〇〇は頬張った。
〇〇:んー、美味しい!
〇〇:けど、勢い余って作っちゃった笑
残ったサンドイッチたちをラップして、冷蔵庫に入れた。
〇〇:散歩でもしに行くか。
外に出ると、日向は暖かくて歩くのに最高だった。
〇〇:♪♪
鼻歌を交えて〇〇が散歩していると、近くの公園に差し掛かった時に、シャベルで地面を掘る音が聞こえてきた。
〇〇:ん?
気になって〇〇は音のする方に向かった。
〇〇:⁉️
サッ サッ
瑛紗:温泉、温泉。
瑛紗:温泉掘るぞー!
〇〇:瑛紗⁉️何してるの!?
〇〇に呼ばれ、瑛紗が顔を上げて〇〇の方を向く。
瑛紗:何って、公園の地面を掘ってるの。
〇〇:!?今すぐ埋めて!!!
瑛紗:へ??なんで?
〇〇:ダメだから!!
〇〇:訴えられちゃうから!!
瑛紗:だ、誰に???
〇〇:公園の管理者さんに!!!
瑛紗:・・・
瑛紗:ええ!!!???
すぐさま瑛紗が掘った土を、二人で元通りに地面に埋めた。
〇〇:はぁ〜、はぁ〜
瑛紗:すまん、〇〇。
〇〇:いや…本当に。
〇〇:まだ人がいないうちで良かったよ…
瑛紗:本当に、ごめん。
瑛紗が土下座して謝った。
〇〇:(良かった、散歩してて。じゃなかったら瑛紗が警察に捕まっちゃうところだった…)
と一人、〇〇は胸をなで下ろしていた。
公園のベンチに瑛紗と一緒に腰かけた〇〇が、瑛紗に聞いた。
〇〇:ところで、どうして公園の土なんか掘っていたの?
瑛紗:それは…
〜2時間前〜
瑛紗:姉貴、その荷物は?
アルノ:え、今から友だちと熱海に旅行するんだ。
瑛紗:へ?旅行?
アルノ:だから、留守番よろしくね♪
瑛紗:おいおい、聞いてないぞ!
瑛紗:ずりーーよ、姉貴。
アルノ:ずるいって、前から決めてたもん。
アルノ:お母さんたちにも了承取っているし。
瑛紗:お袋たちは知ってて、何故私は知らないのだ…
アルノ:そりゃ…言ってないから。
アルノ:じゃ、行ってきま〜す♪
姉のアルノが出かけて、瑛紗は一人家に残された。
瑛紗:うわーーーん!泣
瑛紗:瑛紗だって、旅行行きたいよーーー!!
瑛紗:くそーー、なにが「留守番よろしくね〜」だよ!
不貞腐れてソファーにダイブし、暇だからとテレビをつけた。
アナウンサー:さて、次のコーナーは…「こんな人、イルノ!?」
アナウンサー:今回は、温泉を自宅で掘り当てた凄い方を取材しました。
テレビでは、特集で温泉を自宅付近で掘り当てて億万長者になった人のインタビューが行われていた。
瑛紗:ん?
瑛紗:温泉…
・
・
・
瑛紗:それだ!!!
〇〇:なるほど…テレビで温泉引き当ててお金持ちになった人のインタビューがあったんだね。それで、公園の土を…
瑛紗:ぐふふ、温泉が出てきたら〜
瑛紗:そこでお風呂屋さん経営して、がっぽがっぽ稼いで〜
瑛紗:旅行とか色々できるじゃん!!
〇〇:そう上手くいかないと思うけど…
瑛紗:あ、あと〜お肌ピチピチになるじゃん?
瑛紗:ね、良い考えでしょ?
〇〇:う、ううん…
ウキウキな瑛紗とは対照的に、〇〇は呆れていた。
〇〇:というか、まずここら辺で温泉出ないと思うよ。
瑛紗:そんなの、やってみないと分からないじゃん。
〇〇:それに、どうしても掘りたいなら許可取らないといけないよ。
〇〇:多分、許可降りないとは思うけど…
瑛紗:よし、どこ行けば良い?
〇〇:え?役所とかかな。
瑛紗:よし、行こう!
〇〇:待って。
瑛紗:んーもう、まだ何かあるの?
〇〇:なんて言って許可取るつもり?
瑛紗:そりゃーもちろん、温泉掘り当てたいって言うのさ〜♪
〇〇:ダメに決まってるじゃん!
〇〇に否定され、瑛紗は頰を膨らませていた。
瑛紗:ぶ〜、もうどうしたら良いんだよーーー!!
瑛紗:暇すぎるよ〜〜〜!!
〇〇:あ、そうだ。
瑛紗:なに?
〇〇:家にさ、サンドイッチ沢山作っちゃって余ってるんだけど。
瑛紗:え、食べる食べる!!!!
〇〇:良かった、瑛紗がそう言ってくれて。
瑛紗:ったり前じゃん、〇〇が作ったサンドイッチでしょ。
瑛紗:ちょうどお腹空いていたし。
〇〇:じゃ、家行こっか。
瑛紗:うん!
瑛紗がご機嫌なうちに、〇〇は瑛紗からシャベルを回収した。
〇〇の家に着き、冷蔵庫から〇〇が今朝作ったサンドイッチを取り出して〇〇と瑛紗は食べた。
瑛紗:ん〜、おいひぃ〜
〇〇:ひょかった。
瑛紗:んふふ、食べながら喋ったら行儀悪いね。
〇〇:ふふ、そうだね。
サンドイッチを食べ終わり、2人はこれからどうするかについて話し始めた。
〇〇:瑛紗は、旅行に行きたいんだよね?
瑛紗:うん。
〇〇:それって、泊まりとかも含めたもの?
瑛紗:ん、まぁ…日帰りでも良いかな。
瑛紗:ホテルとか高いだろうし…
〇〇:うん、そうだね…
〇〇:僕らバイト出来るわけじゃないし。
〇〇:仮にバイト出来ても、春休み中にお金間に合わないと思うんだ。
瑛紗:だよね…
参ったといった顔を、2人してしていた。
〇〇:ん…
瑛紗:あっ、良いこと思いついた!
〇〇:何?
瑛紗:前にね、駅前で似顔絵描いていた人がいたの。
〇〇:うんうん。
瑛紗:でね、その人お金取っていたんだよね確か。
〇〇:ほう。
瑛紗:だから、それ私たちもやるってのはどうかな?
〇〇:なるほど。
〇〇:やってみるのはアリだね。
瑛紗:でしょ!よーし、そうと決まれば。
〇〇:待って。
瑛紗:何?
〇〇:瑛紗って、似顔絵描けるの?
瑛紗:うん、描けるよ。なんなら、今から〇〇の似顔絵描くよ。
試しに〇〇は瑛紗に似顔絵を描いてもらった。
数分後…
瑛紗:出来た!
瑛紗が〇〇の似顔絵を描いた色紙を〇〇に渡した。
瑛紗:見てみて。
〇〇:うん。
〇〇:えっ!?
瑛紗:どう?
〇〇:凄い…プロみたい。
瑛紗:えへへ、凄いでしょ?
顔の特徴をよく捉えていて、一目で〇〇と分かる似顔絵を瑛紗は描いていた。
〇〇:これなら、上手くいきそうだね!
瑛紗:よし、じゃ決まりだね。
〇〇:うん、あとは警察署に行って許可取らないとだね。
瑛紗:え、駅前で似顔絵描いて売るのも許可必要なの?
〇〇:うん、道路交通法に基づく許可が必要なんだ。
瑛紗:それって出来るの?
〇〇:うん、知り合いが警察署に居るからさ。
ー警察署ー
〇〇:ってな訳で、許可をもらいたいんです。
警察署に瑛紗と来た〇〇は、近所の知り合いの樋口日奈の夫で交通課の樋口達也に頼みを伝えた。
達也:へ〜、駅前で似顔絵ね。面白そうじゃん。
達也:良いよ、特別に。
瑛紗:マジすか!?ありがとうございます!!!
達也:うん、良い経験になりそうじゃん。高校生が似顔絵で稼ぐってさ。
〇〇:ありがとうございます!!
それから手続きして許可証をもらい、〇〇と瑛紗は服装を変えてから駅前に向かった。
ー駅前ー
瑛紗:よーし、ガッポガッポ稼ぐぞ〜!!
〇〇:まぁ、取り敢えず3日間許可取ったから、1日目は様子見でその後二日間で勝負ってところだね。
二人が駅前でやる内容は、瑛紗が客の似顔絵を描いて、その間〇〇が肩叩きをするというものだった。
価格は500円で。
瑛紗:〇〇。
〇〇:何?
瑛紗:値段、上げない?
〇〇:いや、これくらいじゃないと人来ないでしょ?一応素人だし。
瑛紗:そっか。
瑛紗:ま、やってみよ。
〇〇:うん。
〇〇が看板を持って、瑛紗はスケッチブックを持って客が来るのを待っていた。
数分後…
二人組のギャルが、〇〇と瑛紗のもとにやってきた。
ギャル1:ね〜、本当に似顔絵描けるのアンタ?
ギャル2:嘘だったら、金払わないからね。
瑛紗:ああ!?んだと…
ギャル達に挑発されてキレかかった瑛紗を、〇〇が抑えた。
〇〇:落ち着いて、今は商売中!(小声で)
瑛紗:でも、こいつら腹立つ!!(小声で)
〇〇:分かってるけど、今は我慢!(小声で)
ギャル1:おい、どうすんのさアンタたち?
〇〇:あ、はい!
〇〇:と、取り敢えずお金はいいので試してみませんか?
瑛紗:ええ!?
ギャル2:お、良いの?タダで?
ギャル1:ま、それなら似顔絵描いてもらうか。
〇〇:では、そこに座ってもらっ…
ガシッ
〇〇の襟を瑛紗が掴んで、〇〇を引っ張った。
瑛紗:どういうつもりよ!?タダなんて。(小声で)
〇〇:良いから、描いてあげて。(小声で)
瑛紗:嫌だよ、タダでなんて!!(小声で)
〇〇:大丈夫、向こうは必ず金払うから。(小声で)
瑛紗:本当に!?嘘だったら、承知しないよ!?(小声で)
〇〇:本当に大丈夫だから。(小声で)
ヒソヒソ話を終えて、瑛紗がギャルたちの似顔絵を描き、その間に〇〇が肩のマッサージをした。
数分後…
瑛紗:出来、ました…(くそ、このアマたちが…本当だったらここでぶん殴っ…)
怒りを押さえながら瑛紗は、ギャル二人に似顔絵を描いた紙を渡した。
ギャル1:え、マジ!?
ギャル2:スゲーー、超似てるじゃん!!!
〇〇:お気に召しましたか?
ギャル1:おおう、これプロだろ!?
ギャル2:普通に感動したわ。
すると、ギャル二人が瑛紗に千円札を二枚渡した。
瑛紗:え?
ギャル1:受けとんなよ。
瑛紗:で、でもこれじゃ多過ぎじゃ…
ギャル2:良いって、気にしないで。
ギャル1:さっき馬鹿にした分、詫びにってことでさ。
ギャル2:お姉さん、頑張りなよ。
そう言うと、ギャル二人はいなくなった。
瑛紗:ったく、粋なことしやがって…
〇〇:ね、瑛紗。言った通りになったでしょ?
瑛紗:ふ、そうだね。
実力で黙らせる〇〇と瑛紗の作戦は、見事成功した。
それから、客が少しずつやって来た。
瑛紗に似顔絵を描いてもらい、〇〇からマッサージを受けた客たちは、全員してちゃんとお金を払ってくれた。
?:ねぇ、あの可愛い子さ、絵上手いんだって。
?:え、描いてもらおうよ。
?:なんかあの男の子から、マッサージも受けれるみたいだし。
?:へ〜、あのちょっと弟系な男の子からなら良いよね。
来てくれた客たちからの評判が良く、商売の終了時間頃には2万円近く貯まっていた。
瑛紗:見てみて、〇〇!
瑛紗:すっごい、お金貯まったよ!!
〇〇:うわ、五百円玉がこんなに!!
瑛紗:この調子で明日と明後日もいけば、泊まりの旅行も行けるかもね!
〇〇:ふふ、そうだね!
思ったより稼ぎが良くて、二人で浮かれながら帰り道を歩いていた。
?:わっ!
〇〇たちが通り過ぎた男の子が足を躓いて転び、持っていたフィギュアを車道に落としてしまった。
?:あっ!
車道に落としたフィギュアを男の子が拾いに行こうとするが、その車道に一台の自動車が接近していた。
〇〇・瑛紗:!?
車道に飛び出そうとした男の子を、二人は男の子の身体を掴んで引き留めた。
?:え?
しかし、その瞬間フィギュアは自動車に轢かれ、無残にパーツがバラバラになって壊れてしまった。
?:ああ…
瑛紗:ダメだよ!!車道に飛び出しちゃ。
?:うぅ…僕のが…
ボロボロになってしまったフィギュアを見て、男の子は涙を浮かべていた。
?:パパが…買ってくれたのが…
〇〇:(可哀想に…)
?:うぅ…
スッ
泣いている男の子を、瑛紗が優しく抱きしめた。
?:!?
瑛紗:大切なフィギュアだったんだね。
?:うぅ、うん。
泣きながらも男の子は瑛紗に返事した。
?:でも僕が転んで落としたから、パパ悲しんじゃうな…
そんな男の子を見て、〇〇は持っていた包みの中を覗く。
その包みには、今日瑛紗と二人で稼いだお金が入っていた。
〇〇:・・・
顔を上げた〇〇は、瑛紗の方を向く。
〇〇:瑛紗、あのさ…この子に…
瑛紗:買ってあげよ?
〇〇:え?
瑛紗:私もそう思ったよ。
〇〇:瑛紗…
瑛紗も自分と同じように、男の子のことを思っていたと知った〇〇は聞き返した。
〇〇:本当に良いの?
瑛紗:だって、私も仮面ライダーのフィギュア大切にしてるのあるんだ。
瑛紗:それに、この子もこの子のパパさんも悲しませておけないよ。
瑛紗が微笑みながら言った。
〇〇:うん!
それから、近くのショッピングセンターのおもちゃ屋コーナーに3人で行き、男の子が持っていたフィギュアと同じ物を購入してきた。
瑛紗:はい、どうぞ。
?:ありがとう!お姉さん、お兄さん。
〇〇:今度は落とさないようにね。
?:うん!
結局その日稼いだお金は、ほとんど使ってしまった。
〇〇:結構高かったね…
瑛紗:うん、でも良いんだ。
瑛紗:お金はね、誰かを幸せにするために使うべきってお母さんが言ってたし。
〇〇:そっか。
〇〇:瑛紗も瑛紗のお母さんも、優しいね。
瑛紗:ふふ、それは〇〇もでしょ?
(お腹の鳴る音)
瑛紗:あはは、働き過ぎたみたい笑
〇〇:そうだね笑
〇〇:ねぇ、良かったら夜ご飯、僕の家で食べない?
瑛紗:良い?
〇〇:うん、折角だし。
ギュッ
瑛紗が〇〇にバックハグしてきた。
瑛紗:ありがと!
〇〇:いえいえ。
〇〇の肩に顔を乗せて、瑛紗は満面の笑みを〇〇に見せてきた。
8話 完
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