『エゴイスト』

友達から面白いらしいよって聞いて、早速観にいって来ました。

監督の松永大司は、『ウォーターボーイズ』や『ハッシュ!』に役者として出演し、『ハナレイ・ベイ』で脚本と監督もしているそうです。『ハナレイ・ベイ』は映像がとても綺麗で、村上春樹の原作をまた一味違う世界観で描いてて好きな映画でした。余白を大事にする監督なのかなと思って、音楽や静寂の表現が気に入っていました。
主演の二人は鈴木亮平と宮沢氷魚です。宮沢氷魚は『風になりたい』や『島唄』で有名なTHE BOOMの宮沢和史の息子さんだそうです。そういえばお父さんも少しだけ役者をしていたような記憶があります。顔も声もそっくりでした。

どんなBLだろうと思って楽しみに見にいきましたが、全然BL的な展開はなくて、人のエゴをテーマにした重めの作りで、ただ単にゲイの二人が主人公という感じでした。
愛とエゴの違いってなんだろうって考えさせられます。
無償で与えるのが「愛」とはいうけれど、それは果たして誰のためなのか。それは単に自分の「エゴ」ではないのか。相手を却って苦しめたり、縛ったりすることになるのではないのか。私たちに突き付けてきます。

この物語は原作者の方の自伝的小説だそうで、壮絶な経験をされたんだなって思います。
原作だと数年の月日の流れがあり、相手のことや、相手の親を知るまで時間をかけてじわじわと染みてくるようなのですが、映画ではとても展開が早く、「えっ、出会ってすぐにそんなカミングアウトされるの?」「もう親に会いに行くの?」「すぐ死んじゃったの?」「親まですぐ死んじゃうの?」と感じてしまいました。
時間経過の描写があまり感じられなかったので、原作よりも現実味がなく、よりファンタジーやフィクションな印象がありました。

カメラワークは新鮮で、まるで一緒に家に入ったかのように、ぐるぐると視点が動くのは面白かったです。
主観と客観をうまく使い分けていて、映像を複数の視点で楽しめました。
途中親密な様子でスマホで撮影しているシーンはとてもよかったです。
ジム、お互いのマンション、病院など、室内のシーンがほとんどで、同じような部屋や壁ばかりでした。開放感のあるシーンはほとんどなかったのですが、動きのなさを補うようなカメラワークで飽きずに見ることができました。
部屋の中のシーンが多かったのも当然です。皆さん、外で同性カップルがいたらどう思いますか?それは「今の日本では」きっと非日常に映るでしょう。リアリティーが無くなってしまうような気がします。『ちぇりまほthe Movie』のラストシーン、あの、外で手をつないだ主人公たちに向く、町の人の怖い視線。だから、リアリティーを求めたら、「今の日本では」部屋の中のプライベートシーンを中心になるのは当然のことなのだと思います。

キスシーンやベッドシーンがいくつかあり、二人の絡みはかなり濃厚に表現されています。インティマシー・コレオグラファーという役割を初めて知ったのですが、ベッドシーンの振り付けやリアリティのアドバイスをする役割のようです。よくある「ヤってるフリ」にならないように、経験者の方が監修しているとのことでした。
ちょっとした仕草や、友達とはしゃぐシーン、一人で家で歌うシーンなど、実際のゲイの方のリアルを追求していて、原作のリアルさを追求していました。原作者の方がリアルに体験したことをきちんと丁寧に描こうとしたのでだと思います。それを空気感や行間を含めて表現していた鈴木亮平はやはりすごいなと思いました。本当にこういう人がいるんだろうなって感じることができました。相手によって話し方や所作を微妙に変えていて、関係性が深まると一段階ずつそれも変わっていました。
ジムのシーンだけは、えっこっちの方がパーソナルトレーナーでは?とか、思いましたが、鈴木亮平の体からは色気が溢れ出ていたのでよしとします。

浩輔は、自分の母親の幻想を忘れられずにずっと生きて来たんでしょう。母親は浩輔に「こうであってほしい」「これが幸せなんだ、この子のためなんだ」と思って色んな期待を抱き、言葉をかけます。そしてあらゆる援助をします。それは間違いなく親の「愛」であり、そして「エゴ」でもあります。
親に愛されたくて、親に認められたくて、一生懸命に「親の理想」に近づこうとします。でも、それは自分の理想ではないかもしれません。時には真逆であることもあります。そのギャップが大きければ大きいほど、苦しく、申し訳ない気持ちになります。親の期待に応えられなかった自分を卑下してしまいます。
浩輔が龍太にしたことも、浩輔が龍太の母親にしたことも似たようなものなのかもしれません。
龍太の母親が「謝る必要なんてない、何一つ悪いことはしていない、感謝している」「あなたが『エゴ』だと思っても、受け取った私たちが『愛』だと感じているのだからそれは『愛』なのだ」と伝えます。それは浩輔が実の母親から本当に聞きたかった言葉のようです。「浩輔の理想」を押し付けて、龍太を殺してしまったのではないかと思っている浩輔は、龍太からも同じ言葉を聞きたかったのではないでしょうか。
親や恋人の無償の『愛』は確かに『エゴ』の側面もあるかもしれません。でも、そんな風に人から与えてもらえるモノがあるから、私たちは生きていけるのだと思います。

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