見出し画像

さよならがくれるもの

表紙と裏のあらすじだけで絶対おもしろいなと思ったんですけど、ここまで予想通り好きになれるとは思わなかったです。島本さんの作品は前にアンソロジーで読んだことがあって。その本の中でいちばん好きだなと思ってたから、気になってたんだけど。こんなに好きになれる作家さんだったなんて。「第一回本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」って帯に書いてある。だから何って話だけど、「2024年さいとうゆずか暫定1位」って帯もつくりたい。暫定出すの早いけど、いいよ。そのくらい好き。

ひととひとって、繋がるのもだけど、すっぱり切れるのも難しい。そのうちに自分も相手に寄りかかっていることに気づいて、ますます離れる自信がなくなる。周りから「強い」「しっかりしている」と言われてきた葵は、実は離れられないでいるものをたくさん抱えている。母親が亡くなり、ワインバーを継ぐことになって、葵は葵の人生には今まで出てこなかったようなひとたちとの交流をもつ。明るい料理人、松尾くん。年上の瀬名さん。夫と離婚しかけている弓子さん。武骨な日本料理屋の主、海伊さん。京都で偶然出会った芹さん。出会いと別れを繰り返すことによって、葵は自分にとって大切なものに気がついていく。

死のような別れ方は、きっと人生でそう多くない。決断しなければできない別れは、なんだってつらい。かなしい。でもそうしなければいけないとわかってしまったらそうできるくらいに、葵には大事なものができた。わたしはいつのまにか、葵の幸せを祈るように読んでいた。

ずっと誰かに寄りかかってたって、ひとりになるたびに思う。それを誤魔化すように、誰かに頼られたいと思ってしまう。わたしはきっと、葵とは順序が逆だけど、蛇行する気持ちを彼女に重ねていた。

あと急に京都とか、鴨川が出てきたので、うれしくて息が詰まった。夜の鴨川が出てくる小説はたぶんそれだけで好きです。遠く北の大地に生まれながら京都と鴨川に出会ったのはめちゃくちゃ幸運だったと思ってる。

食べ物の描写もとっても良いです。ひとって、食べるときにやっぱり人間らしくなるんだなぁと思う。お酒はわからなすぎてずっと文字面の美しさを目で追ってたけど、いつか大人になって、読み返してわかる日が来たらいいなと思うことにした。とっくに20歳は過ぎたんですが、そう、今日妹は成人式だったんですが、自分はいつ大人になるのかね。

とにかく、大好きな本でした。
恋愛小説って去年初めて読んだに等しいんだけど、こういうこともあるから、本好きの友達とそのおすすめ本は大事にしたいと思いました。いつまでも続くものや変わらないものの存在を信じたり信じ込まされたりするよりも、いま大事にしたいものをちゃんと大事にできたらいいよね、きっと。もし知り合いの人がこれを読んでいたら、わたしに何か勧めてください。本でも音楽でも、美味しいご飯でも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?