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自分の経験や思いの開示が、誰かの役に立っている不思議

何の専門家としてでもなく、ただ自分のことを話すためだけに教壇に立つ。そんな不思議なことをし始めて今回で3年目。

私は出身大学で、学生時代に学内でお世話になり今もお付き合いが続く方が講師を務める授業で、毎期1回の授業時間をいただいてゲストスピーカーをしている。
初めて依頼をいただいた時には「学生にとって、同じ大学の卒業生という共通項はあれど、知らない人の半生の話を聞いて役に立つことがあるんか?」と思った。今でも幾度となく思う時がある。しかし「自分の半生を語ることに需要があるかを決めるのは、自分じゃなくて他の人達だよね」と考え直し、依頼をありがたく受け続けている。
話す内容は、出生時に割り当てられた性と性自認とが一致しないことによって今までの私に起こったことや考えたこと。生徒や学生の時の話から、進路決定や就職活動、就職後の会社とのことなど、とにかく自分の話をする。

今の会社を適応障害で休職する前後(昨年12月前後)には、それまで何でもオープンに話していた私が、自分の話をすることに疲れていた。
会社で上司に「女性とみなされる人間が仕事中にいかなる扱いを受けているか」という話を、女性でありたくない自分が仕方なく意を決し自分の経験として話しても軽く流されたり、不要な場面でのアウティングを外部にされたので上司に抗議したらやはり軽く流され、そのことを本社のコンプライアンス相談窓口に相談しても的外れな回答を返されて流されたりしていた頃だった。なぜ自分だけがこんなに余分に苦労させられなければならないのか、という思いすら頭をよぎった日々だった。
今も休職を継続している身としては、今回のゲストスピーカーは、自分のメンタルの状況に注意しながら行う必要があった。

結果として、メンタルには全く響くことがなく、むしろ手応えを感じられてとても充実した気持ちになれた。
休職中で時間があるのをいいことに、今までマイナーチェンジのみを繰り返して使用していた資料を一新し、切り口を変えて話をしたのが功を奏した。
授業の前半でひたすら私が喋り、後半で学生から質問をもらって答える流れなのだが、なかなか多岐に渡る質問をしてもらえて充実した上、授業後に直接話しかけてくれる学生もいた。直接話しかけてくれた学生は、社会の中のジェンダー規範に感じる疑問をぶつけてくれる人だったり、学生時代の私ととても似た状況でもがいているので勇気づけられたと声をかけてくれる人だったりした。
自分の話が誰かの力になっているという実感が直に得られるのは、素直に嬉しいものである。誰かの力になれるのならいくらでもお話ししますよという気持ちにもなる。

また、何の専門家でもない私が、大学を卒業してもなお大学の学びに触れられる機会、大学で教えている講師や教員の方々と深くお話できる機会も、ゲストスピーカーを引き受けることで出来ている。
職場ではまだまだ浸透しなくて苦心する自分の中での常識が、こうした場面では常識として通じ、解像度の高い話を交わせる。ジェンダーの話となると今はまだ、社会に揉まれた大人よりもその前段階にいる学生の方が理解が厚いことも少なくない。職場でどれだけ丁寧に話をしようとしても暖簾に腕押しになることを思うと、大学という場で話して大なり小なり受け止めてもらえること、そこから双方向のやり取りが成り立つことが、自分の大きな支えになっている。
メンタルに響きやしないかという懸念が杞憂に終わった今、今回のゲストスピーカーをさせてもらう機会は、良いものをたくさん得られて元気になれる貴重な機会となった。

実はゲストスピーカーをさせてもらう度、錆びついてアップデートもされていない自分の知識量を何とかせねばという思いにはなる。専門知識を持ち深い知見を持つことへの憧れと、それらをなくして教壇に立たせてもらっている自分のちっぽけさを感じずにはいられない。
それで少しづつ本を読むなどもするのだが、仕事中はもちろん読書時間が限られ、休職中もそう上手く本の虫になることも出来ず、知識量もそんなに増えていかない。
けれども、元々私に求められているのは知識量ではない。刺激を受けて少しづつでもアンテナを張って学びを得る原動力が自分の中に生まれているのだから、これで良いのかもしれない。この思いは今回のゲストスピーカーで初めて得られたような気がしている。

自分の経験や思いを話すことがどうして誰かの力になれるのか、理由は正直よくわからない。
でも誰かの役に立てるなら、やっぱり私は自分のことを可能な限りオープンにして発信していこうと、思いを新たにした。

現状、自分の生き様や思考を晒しているだけなので全記事無料です。生き様や思考に自ら価値はつけないという意志の表れ。 でも、もし記事に価値を感じていただけたなら、スキかサポートをいただけるとモチベーションがめちゃくちゃアップします。体か心か頭の栄養にしますヾ(*´∀`*)ノ