『デミアン』と『霊応ゲーム』

正月に、前々から読もうと温存していた『デミアン』を読んだ。


まず最初の一文がとても気に入ったのでここに引用しておく。

私は、自分の中からひとりで出てこようとしたところのものを生きてみようと欲したにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか。

ヘッセ、『デミアン』(新潮社文庫)

この文は、最初は不可解に感じられるけれど、物語を読んでいくうちに意味が心に染みていくのだ。

さて、この本のあらすじは、明るい裕福な家庭で育った無知な少年シンクレールがある日乱暴者に罠に嵌められて苦悩し、そこで今まで知っていた世界が一変して、闇があることを知る。そして成長する中で光と闇の間の世界で揺れ動き、自分の魂を探究していく物語である。

題名になっている「デミアン」は乱暴者から主人公を救い出し、導いてくれる存在だ。

私は序盤が結構好きで、乱暴者によって苦悩させられるシーンの描写が本当に上手くて引き込まれる。安全であるはずの家に居る時も、自分はもう明るい家族たちとは別の世界に行ってしまっているっていう感覚みたいなのがとても感情移入できる。私は教科書でお馴染みの『少年の日の思い出』を想起させられた。

また、デミアンが聖書の物語『カインとアベル』についての見解を述べるところがあって、それも私は聖書に興味があるのでとても面白いと思った。カインとアベルというのは兄弟殺しの話で、弟アベルの方が神に寵愛されていたのを気に食わない兄カインがアベルを殺してしまい、神は怒り、カインをその土地から追い出すという話だ。しかし、神はカインに印を付け、その印によって人々はカインを殺すことが出来ないようになる。何故神はカインを呪いこそすれ、わざわざ守護するようなことをしたのか、それがこの物語の謎めいた部分だ。そしてその謎についてデミアンは自分の見解を述べるが、それが最終的にこの物語全体にも関わってくるのがまたすごいと思った。デミアンによるカインとアベルの見解が気になる方は是非読んでみて欲しい。

それから、『デミアン』に関連してもう1冊紹介したいのが『霊応ゲーム』だ。

こちらはゴシックホラー小説だが、序盤の主人公を謎の少年が助けてくれるという展開が驚くほどデミアンと似ている。しかし、面白いことにこのふたつの小説はその先迎える展開が正反対だ。その為、デミアンを読むなら、この霊応ゲームも合わせて読み、両者を比べてみるのもオススメである。

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