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ライター入門、校正入門、ずっと入門。vol.8

「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、定期的に酒を飲みながらぼんやりと「書くこと、読んでもらうこと」について話していくトークイベントの模様を、ダイジェストでお届けします。

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芥川賞を獲ればこれからの人生が好転する

張江 司会を務めます、ライターの張江です。

中嶋 このイベントを主催しています、校正専門の会社、聚珍社の中嶋です。

張江 今回はエッセイやコラムの書き手をゲストにお呼びしてます。個人的には令和のトップ2だと思ってます!では早速どうぞ!

(ゲスト登壇)

一色 XOXO EXTREMEの一色萌です!今月もよろしくお願いします!

絵恋 地下アイドルの絵恋ちゃんです!

吉田 トリプルファイヤーというバンドのボーカルの吉田です。よろしくお願いします。

張江 一色さん、今月はちょっと緊張してますね。

一色 あ、バレました?ゲストのお名前を見た瞬間から緊張してます。今日は横を見れないです。

絵恋 なんでなんで?なんで緊張するんですか?

一色 もう普通にファンでオタクなんで…。(オタクの表情で)

張江 このイベントの初回で、一色さんが挙げた「好きなアイドルの文章」に絵恋ちゃんのコラムが入ってましたよね。

一色 そう、すごく……すごいです。語彙がゼロになってしまった(笑)。

絵恋 うれしい!見る目あるね(笑)。ありがとうございます。

張江 私も絵恋ちゃんのコラムはとても好きで。更新頻度はあまり高くないですけど、毎回すごいですよね。

絵恋 前は月一で書いてたんですけど、最近ちょっとサボっちゃって。こないだのは、このイベントが決まったから書きました。文章書く人として呼ばれたのに、「書いてねえじゃん」って言われたら嫌なんで(笑)。

https://rooftop.cc/column/eren/

張江 吉田さんは今年初めての著書『持ってこなかった男』を出されて。反響はどうですか?

吉田 どうなんすかね。めっちゃ売れてるとかじゃないですけど、読んだ人は「よかったよ」って言ってくれます。

張江 東京インディーシーンのバンドマン全員が涙したと言われてますから。私も日曜日の夕方のサイゼリヤで飲みながら読んだら泣いちゃいました(笑)。

中嶋 小学校5年生でギターを始めて、冴えない青春を過ごしながら上京し、バンドを始めて、という内容ですよね。バンドを始めるときってこんな感じなのか、と思いながらとても面白く読ませてもらいました。これは「EX大衆」での2015~2020年の連載をまとめた本ですけど、5年やっていると当初のテンションや文体が変わってしまうことが多いですよね。加筆や修正が大変だったんじゃないですか?

吉田 けっこう大変でした。敬語で書いている回と、そうでない回があったり。最初は面白いこと言おうとして、くすぐりを入れてる感じがあって、あとで読むとキツイなと。

中嶋 ところどころテンション高い感じがわかりました(笑)。

一色 校正者に見透かされている……!

張江 文体の揺れは校正するんですか?

中嶋 基本的にはしないです。クライアントからの要望がない限り、ライター優先ですね。

張江 来月には2冊目の本が出るんですよね。

吉田 「散歩の達人」の連載をまとめた『ここに来るまで忘れてた。』が出ます。

https://san-tatsu.jp/magazine/triple_fire/

張江 今は連載何本あるんですか?

吉田 籍があるのは5本くらいなんですけど、ほぼ書いてないのもあります。最初は毎月書くってことだったんですけど、「ちょっと面白いこと思いつくまで待ってもらっていいですか」って断ったりすることもあります。

中嶋 編集者としても、吉田さんに自分自身のことを書いてもらいたいと思ってるはずなので、引き出しが足りなくなっちゃいそうですよね。

吉田 時事ネタを扱うコラムもあるんですけど、自分的にどうでもいいニュースの話をするわけにいかないんで、編集さんも「言いたいことが見つかったら書いてください」って感じで待ってくれてます。思い出を書くような連載は、もうキツイっすね。

張江 思い出は全部本になっちゃってますもんね。

吉田 今後どうしていけばいいか……。最近、芥川賞を獲ったら俺の人生がすべて好転する気がして(笑)。芥川賞を受賞した本を取り寄せて、全部読もうかと思ってます。獲れなくても、「芥川賞候補」っていう肩書きさえあれば、なんとか。

絵恋 相当かっこいいですよね。

吉田 何しても、「あの人は芥川賞候補だから」で許されそうで。遅刻しても「あの人はアーティスト寄りの人だから」って。

絵恋 私は美大出身なんですけど、「あの人はアーティスト寄りの人だから普通のことが普通にできなくてもしょうがない」って許されがちです(笑)。

吉田 美大はいいですね。俺も美大出たかった。

張江 めちゃくちゃ小さい声でそんな後ろ向きなことを(笑)。でも、芥川賞は原稿用紙100枚程度という文字数規定がありますけど、2000字くらいで応募できるなら絵恋ちゃんのコラムは受賞するんじゃないかと思うくらい好きですよ。

絵恋 2000字だったらいける!今の連載はWebなんで、無限に書いていいとは言われてるんですけど、短めにまとめたいので1200字くらいで書いてるんです。

一色 短くまとまってるのに面白いからすごいんですよ。

絵恋 お、気づいちゃった?

中嶋 文字数の得手不得手はあるでしょうね。Twitterの140字が得意な人もいれば、長文なら書ける人もいるでしょうし。

一色 Webのコラムを書くときに、スマホでも読める分量を意識するんですけど、たぶん1200~2000字くらいがちょうどいいのかなと。私は6000字くらい書いちゃうんで、削るのが毎回大変なんです。

絵恋 6000字!すごい!言いたいことがたくさんあるんですね。そんなに書ける集中力がない……。

中嶋 何駅か分電車に乗ってる間に読めるくらいがいいとされてますね。5~10分くらいで読み切れる量だと、3000字以内になるのかなと思います。

獄中からのファンレター

張江 そもそも、どういうきっかけで連載することになったんですか?

絵恋 私はRooftop(ライブハウス・ロフトグループが発行しているフリーペーパー。現在絵恋ちゃんが連載しているのはWeb版)に自分から「隙間があったらいつでも書くんで、やらせてください!」ってお願いしたんです。自分で書いた歌詞に「ああ えらそうに コラムが書きたい」っていう部分があるんですけど、リリースする前は「Rooftopでコラムが書きたい」だったくらい、前から思ってたんです。Rooftopで連載したり、新宿LOFTでワンマンやったり、というのが夢でした。

張江 夢のハードルが低いような……。

絵恋 みんなに言われるんですけど、新宿LOFTで10年20年ワンマンやって埋め続けるのはめちゃくちゃ大変ですよ!みんなわかっちゃいねーんだよ!武道館で1回ワンマンやるよりかっこいいと思ってます。もともと戸川純さんが好きで新宿LOFTに通ってたので、最初からここで続けていくことが目標だったので。もう今は、仕事してるのほぼLOFT系列だけですよ。

中嶋 今日の会場もそうですもんね(笑)。自分で「やりたいです」と営業かけたときに、何か書き溜めてたものはあったんですか?

絵恋 作詞はしてましたけど、コラムは全く書いたことないし、「こういうテーマで書きたい」というのもなかったです。「始めたらできるんでやらせてください」って言いました(笑)。

張江 やったことなくても「できます!」って言うの大事ですよね。

絵恋 言ったらやるしかないですもんね。できなかったら「ごめんね、嘘だったわ」で謝るしかない。

張江 吉田さんは初めての連載はどれですか?

吉田 「食べようび」っていう雑誌だったんですけど、2回書いたら廃刊になりました。

(一同笑)

一色 なぜそのタイミングで連載の依頼を……。編集部にも終わりの空気漂ってそうなものですけど(笑)。

吉田 最初に書いたら、「文章もやる人」みたいになって、「EX大衆」の連載が決まって、去年くらいから何本か増えて、と言う感じです。

張江 「EX大衆」の連載の反響がどこにもなくて不安だったって、以前言ってましたよね。

吉田 Twitterとかにも全く感想がないんで。誰が読んでるんだ、と。一回だけファンレターみたいなのが来たことがあるんですけど、刑務所からで。雑誌を差し入れされて、僕が大学生のときに合コンに行った話を読んだらしいんですけど、「吉田さんは心がきれいですね」って感想が書いてありました。

絵恋 いい話だなー(笑)。

吉田 便箋4枚くらいだったんですけど、後半には「僕の知り合いのアイドル紹介しましょうか?」って(笑)。

張江 吉田さんは連載する前に何か書いてました?

吉田 mixiの日記とかブログくらいで。ブログも3ヶ月に1回くらいしか更新してませんでした。テレ東の『共感百景』という特番に出たので、それを見て声かけてくれたみたいです。

張江 あの頃の吉田さんからは「得体はしれないけど、何か面白いことをやりそうな感じ」が漂ってましたもんね。

吉田 「爪痕を残そう」と思ってたんで。もう今は、「まあ、いい感じで」くらいしか思ってないです。

張江 お二人ともコラム、エッセイを書いてますけど、以前出ていただいたライターの大坪ケムタさんは「エッセイは書けない」って言ってました。企画立てたり、インタビューしたりはできるけど、日常の出来事とかを面白く書くことはできないって。

吉田 それは意識が高いんですよ。僕に比べて、「面白くしよう」とちゃんと思ってるっていうか。普通の人が書けるのはエッセイじゃないですか。

張江 確かに素人の日記みたいなものはWebにいっぱいありますけど、二人はちゃんとオチがついてて、構成もしっかりしてるじゃないですか。オチの付け方も下品じゃないというか。

一色 ヤりにいってないですよね。

張江 そうそう(笑)、まさに。

中嶋 オチは決めてから書きますか?

絵恋 決めてないです。歌詞もそうですけど、書き始めるまでどうなるかわからないです。一番新しいコラムが「マスクにカナブンが付いて最悪」っていうだけの内容なんですけど、本当にそういう出来事があって「あ、コラムに書こう」と思っただけで、あとは勢いでなんとかなるだろうって。

張江 でも、文中に今参加してる声優オーディションに関わるモチーフを入れ込んでたり、けっこう巧みですよね。

絵恋 媚びも入れてみました。

吉田 読んだんですけど、自分しかやってないようなゲームのことがさも当たり前みたいに書いてあるのが面白いっすね。上手いなと思いました。

絵恋 (笑)。嬉しいです。

張江 吉田さんは?

吉田 なんか、書いてるのが「バスでうんこ漏らしそうになったけど、なんとかなった」みたいなエピソードなんで、オチは別にないですよね。「漏れそうでヤバい」と思ってるところがピークで、そのまま何もなく終わるだけというか。

張江 そうか、オチというよりちゃんとピークがあるから面白いのか。

絵恋 私はコラム読んだ人から「おあとをよろしくしないといけない病」ってコメントに書かれてました。

吉田 現代日本の風潮みたいっすね(笑)。

一色 書き始めたはいいけど、終わり方がわからないことありますもん。でも投げっぱなしで終わる勇気はないというか。

中嶋 連載なら「続きは次回で」でも大丈夫でしょうけどね。

吉田 今、次に出る単行本の前書きを書いてて、どうやって締めるか悩んでるんですよね。どうすればいいですかね?

張江 いや、トークイベントでする相談じゃないよ!(笑)

センチメンタルジャンルでは負けない

張江 二人とも文体がドライですよね。

中嶋 上から目線でもないし、卑下もしていないし。

一色 読んでると絵恋ちゃんの声で再生されるんです。姿が浮かぶから、本人は怒ってることを書いていても、読んでる方は面白いというか。

張江 ペーソスですね。

絵恋 でも、毎回忘れちゃうから、自分のコラムを全部読み直してから書き始めます。

中嶋 逆に読み返すと書けないっていう人もいますね。

絵恋 内容が被らないようにとか、同じ言葉を使いすぎないようにっていう意味もあって読み返してます。

張江 そもそも自分の文章好きですか?

絵恋 書いたときは面白いのか不安ですけど、しばらくたって読み返すと「あれ?天才かな?」って(笑)。

張江 本番前に「姫乃たまちゃん以外には文章で勝てる」って言ってましたもんね。

絵恋 やだなー、そんなわけないじゃないですかー(棒読み)。姫乃たまちゃんの文章はすごいですよねって言ったんですよ。それ以外は……たいしたことないかなと思ってます。

中嶋 本音が(笑)。

絵恋 このジャンルにおいては、ってことですよ?センチメンタルジャンルでは負けないっていうか。

張江 吉田さんはライバル視してる人はいないですか?

吉田 うーん、ミスiDとかに応募してる、「文章得意です」みたいな女の人のブログを読んだときは、「屈服させたい」と思います。

(一同笑)

吉田 「エモい」みたいなことを感動的に書いて、ラブホの写真と一緒にアップしてるみたいな。

一色 ああ、短絡的な「エモさ」……。

絵恋 わかる気がする。顔がいい子は何書いても評価されるから、そういうのを抜きにしても面白い文章を書きたいと思いますよね。

張江 想定しなかったところでゲストが意気投合してしまった……。

絵恋 私、コラムと一緒に漫画載せてるのに全然評価されないんですよ。でも、顔がいいアイドルが描く漫画だいたいつまんないのに、こぞってオタクがRTするじゃないですか。悔しいですね!

張江 絵恋ちゃんの漫画、横長すぎてめちゃくちゃ読みづらいですよね。

絵恋 本のスリップの裏に描いてるんです。レジ打ちのバイトしてたときに、仕事ができなさすぎて隠れてスリップに漫画描いてたのが始まりで。

張江 そういうコンセプトがあるんですね。実物のスリップ集めて展示したら面白そう。

絵恋 200枚くらいあったんですけど、半分以上無くしちゃったんですよね……。

吉田 天才っぽいっすね。

「本当の締め切り」に苦しめられる校正者

張江 普段から書く内容をメモったりしてます?

吉田 するようにはしてますけど、あんまり使わないです。原稿の依頼が来てから机に座って考えます。

中嶋 最近聞いたんですけど、取材中にメモを取る暇がないときは写真を撮るんですって。場所の写真を見ると記憶が蘇るので、文字はその後に書くみたいです。

吉田 あ、それいいですね。風景の描写もしやすいだろうし。

絵恋 私もあんまりメモんないんですけど、やっとけばよかったって毎回思うんですよ。外に出れば何かしらの出来事にあってるはずなので。最近はやるようにしてます。でも、読み返してもよくわかんないんですよね。

張江 確かに絵恋ちゃんはエピソード多そう。

中嶋 初めて絵恋ちゃんを知ったのは、福岡タワレコのリリイベで。客は声出し禁止だったんですけど、「ステージに上げちゃえば出演者だから大丈夫」って絵恋ちゃんが煽って、オタクがステージに上がってました(笑)。

絵恋 あれは、めっちゃくちゃ怒られたんですよ(笑)。

張江 メモしても使えないエピソードが多い(笑)。

一色 そういうのは、えれにすと(絵恋ちゃんオタク)の方々がレポートするんじゃないですか。

絵恋 オタクって推しに似るみたいで、うちのオタクはTwitterが上手いんですよね。姫乃たまちゃんのオタクはブログが上手いんですよ。

張江 ははー、なるほど。

絵恋 事務所の人に、「えれにすとだけは厄介だ」って言われて。

(一同笑)

絵恋 同じような企画を他のアイドルでやってもほとんど問い合わせはないのに、えれにすとはもの凄く詰めてくるらしいんですよ(笑)。私に似たんだなって。

張江 影響を受けた書き手はいますか?

絵恋 戸川純さんは歌詞も文章も大好きです。でも、普段そんなに本は読まないです。長文を読む才能がなくて。今まで読めたのは星新一さんです。短くてストンと落ちる感じは影響を受けてるかもしれません。

吉田 町田康とか西村賢太は好きですけど、いかにもですよね。町田康の文体ってすごく特徴的ですけど、僕は普通なんで、「町田康の影響を感じる」って言われるとなんか嫌です。

中嶋 言ってる人が「バンドマンの文章=町田康」というイメージがあるだけじゃないですか。

絵恋 「〜〜っぽい」って地雷の可能性もあるし、難しいですよね。

吉田 「ドストエフスキー好きでしょ」って言われたら嬉しいっすよ。自分から遠い人だからいいのかなと。

中嶋 作詞に関してはどうですか?

吉田 「ゆらゆら帝国っぽい」とはよく言われますけど、自分ではそんなに似てるとは思わないです。これだけは言いたいんですけど、坂本慎太郎(ゆらゆら帝国ボーカル)さんに会ったとき「歌詞いいね」って言われたんで、僕はゆら帝の呪縛から解き放たれてます。

張江 締め切りに関してはどうですか?

絵恋 締め切り守れてないです。

張江 自分から「書きたい!」って言ったのに(笑)。

絵恋 そうなんですけどね。でも、常に「締め切り破ってるな……」って頭で思ってます。

張江 吉田さんは?

吉田 言われてる締め切りは過ぎちゃいますけど、「本当の締め切り」には多分間に合ってます。

絵恋 でた!「本当の締め切り」!(笑)

吉田 ヤバかったらもっと催促してくるはずなんで、大丈夫だろうと。

中嶋 「本当の締め切り」という概念で苦しむのは校正者なんですよ……。もう下版が印刷所に回ってるのに校正することになったりしますから。

一色 それって、ミスが見つかったらどうなるんですか?

中嶋 印刷機止めて、もう刷っちゃったものは破棄です。

絵恋 えー!大変! 

吉田 本当に……、申し訳ないっす。

次回は10月29日!

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一色さんに加え、書籍の編集を担当してらっしゃるお二人をお迎えし、「本作り」について、そして校正との関わりなど脱線しながら色々とお伺いしていきます。

https://twitcasting.tv/loft_heaven/shopcart/109316

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