赤信号
信号は赤。
橋の上に止まると、吹き出し口から冷たく湿った匂いがした。
雨の夜の運転は、とくに苦手だ。
真黒に染められたアスファルトが、オレンジの灯りを吸い込んで、
信号の赤以外、真っ暗だ。
早く帰りたい気持ちに逆らって、弱めにまたアクセルを踏む。
フロントガラスの雨音と、ワイバーの音、
ステレオからは、ブラッドサースティーブッチャーズの”7月”が聴こえてくる。
今年の7月も悲しく災害が続き、コロナウイルスの圧迫から解放されたい人も、
そうでない人たちも感染し、まだまだ油断できない日々となっている。
ただただ憂いでも、叫んでも、その日々からは、抜け出せられない。
守ることも守り、コンビニのレジ横の小さな箱を見かけるたびに、
小さな募金を小さな想いを放り込むだけなのである。
そんな日々。
スーパーから姿を消していた、チャルメラもチキンラーメンもサッポロ一番も、
いつもの棚に帰ってきた。
ボクは、大好きな出前一丁を手に取った。
店員も客も皆、マスクをしている。それが当たり前となった。
人との距離を気にして歩く。
もともと無神経なボクは、それになかなか馴れずにいる。
人混みが、また苦手になった。
不可抗力的にも、自分勝手が許されない、そんな世の中。
何に苦しめらたのか、自ら命を断ったいうニュース。
それも解放と言うのなら、そっとしておいてあげたいと思う。
テレビをつけても、7月は聴こえてこない。
自分が合わせた、チャンネルだけで、聴こえてくる。
ブラッドサースティーブッチャーズを聴きながら。
ボクはドラムを叩くんだ。
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