最後の趣味

窓を開けると、車内の空気と音楽に、
マッチを擦ったような煙の匂いが、入り混じったように感じると同時に、
ボクの車をバイクが追い越して行った。

ゆきさき知れずのそのバイクを、追うつもりもなく。
少しだけ頭痛を抱えたボクは、ゆっくりと車を走らせた。

風をうけながら、遠ざかっていくバイクが、
気持ち良さそうで、眺めているだけでも爽快だった。


バイクの免許を持っていないので、
どのみち法律上原付しか乗れないのだけど、
10代の頃から、乗りたい50ccのバイクがある。
ホンダのジャズだ。


小さいけれど、チョッパースタイル(アメリカン?)のバイクで、
小太りのおじさん(自分のこと)が乗っていたら、
ハーレーにまたがる大男のミニチュアみたいで面白いんじゃないか。
と思い、昔から小さく憧れているバイクなのである。


「大人になったら買おう」と思いながら、すっかりいい歳になってしまった。

「大人になったら消える」と言われていたハンコ注射の跡もまだ消えていないので、
ボクはまだ大人になれていないだ、と自分に言い聞かせ、ずっと諦め続けている。


鈍行列車でゆっくり旅をするように、原動機付自転車のスピードで、
ゆっくり旅をするのが小さな夢なのである。


と、20年近く、ジャズがほしいと言い続け、
結局買っていないから、そこまで欲しくないのか?

自問自答する。

たくさんの趣味を持っているけど、
最後の趣味を作るなら、原付の旅かなと思っています。

またよいタイミングで、よいジャズに出会えれば。


そんなこと言ってる、36歳の夏、8月のことでした。

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