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「極光祈る犬使いのバラッド」感想文

「極光祈る犬使いのバラッド」がエモかったよって感想文



 大切なものを失った時って、一体どうしていただろう。
私は随分と長く生きて、本当に色んなものを失ってしまったけど、それでもきっと大勢と同じように泣いて、叫んで、しばらくして夜思い出して苦しくなったりする。風邪に魘される夢を見るように、それが手元にあるような幻覚を一生懸命愛しむだろう。
そして残酷なほどきれいな朝が来て、また私が生き返る。
 
しかし、幼きアーサーを拾い、最初は食べてしまおうとしていたこの子を愛してしまった、このオズという男は違う。いつか失うことを知っていたのに、それが悲しくて悲しくて、アーサーの痕跡をすっかり燃やしてしまった。それだけじゃない。バカみたいに強い魔法の力を使ってそれを元通りの状態に戻し、なぜこのようなことをしたことを悔いてまた燃やすのだ。それを何度も何度も繰り返した。そして、その痕跡を戻せないように、すっかり隠してしまった。なんてセンチメンタルな男だろうと思った。ぎゅっと握りこめば雪のように解けてしまいそうな小さな手を離したことを悔いて、何度も何度も疑似的に心を自殺させるのだ。

魔法使いは心で魔法を使う。オズの心はきっと誰にも分からない。
彼が生きた約2000年の間、不器用にほつれさせてしまった感情はたとえようのないほど複雑だ。「アーサーを深く愛している」ということだけは分かる。賢者である私たちにとって重要なのはそれくらいだから、まあいいや。 

そして「魔法使いの約束」の恐ろしいところは、こんな風に私にポエムを書かせる男たちが21人もいるということだ。
まだ10代半ばの魔法使いもいれば、オズ以上に生きた魔法使いもいる。
彼らの生きた痕跡は、彼らのセリフという宝石箱の中に入ってアプリ中に散りばめられている。
私はそれらを集めて、眺めて、うっとりと彼らの人生に思いを馳せる。 別に「まほやく」を読んだところで人生は変わらないし「まほやく」は私の人生ではない。こんな格好の良い男の子たちの、美しくもおぞましい世界の一体どこに共感したらいいんだろうとさえ思う。(私は間違ってもこの世界で生きたいとは思わない)

けど、たった一つ胸の中に「真摯であれ」という言葉だけを残す。
それは冬の日の夜明け前、静かに消えていく月のような静謐さで、冷たい碑になって私の胸を刺すのである。

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