川本千栄

「塔」編集委員。短歌と短歌評論。第20回現代短歌評論賞受賞。歌集『青い猫』(第32回現…

川本千栄

「塔」編集委員。短歌と短歌評論。第20回現代短歌評論賞受賞。歌集『青い猫』(第32回現代歌人集会賞)『日ざかり』『樹雨降る』。評論集『深層との対話』。他『D・arts』。第四歌集『森へ行った日』ながらみ書房出版賞・日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集賞。第二評論集『キマイラ文語』。

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  • 短歌総合誌『短歌往来』感想文

    短歌総合誌『短歌往来』を読んで、好きな歌の一首評をしたり、気になった記事の感想を書いたりしています。

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    自分の所属する、短歌結社誌『塔』を読んで、好きな歌の一首評をしたり、気になった記事の感想を書いたりしています。

  • 再録・青磁社週刊時評

    青磁社のHPで2008年から2年間、川本千栄・松村由利子・広坂早苗の3人で週刊時評を担当しました。その時の川本が書いた分を公開しています。

最近の記事

『短歌往来』2024年4月号

①川本千栄「今月の視点 新人賞その後」 〈現在、短歌の総合誌を中心にした、歌・論の新人賞は幾つあるのか数えてみた。〉  新人賞について考察した文です。特に新人賞を取った後について述べています。 ②舌打ちのごとき音してデロンギのヒーターぬくもる節分の夜 栗木京子 舌打ちは人間が意識的に立てる音の中で最も不快なものだ。自分以外誰もいない部屋でそれが鳴ったらビクッとするだろう。機械に人間的な何かを感じるところが現代的だ。 ③果てが目に見ゆる土地にて生きながら立山青く空を吸ひゆく

    • 『歌壇』2024年4月号

      ①烏賊の身に手首まで入れ冷えわたる暗黒宇宙をつかみ出したり 小島ゆかり 烏賊のワタを抜いている。今は烏賊を捌くことも減って、切り分けられた身を買う人が多い気がする。烏賊は流水にさらして調理するので、常にイメージとして冷えている。「暗黒宇宙」が壮大。  寒烏賊の腹をさぐりてぬめぬめと光れる闇をつかみ出だしぬ 河野裕子『ひるがほ』 この歌を思い出す人も多いだろう。どちらの歌も烏賊の胴の中に、その身体より大きい物が入っていると感じているのだ。 ②もんしろともんしろもつれあふそらの

      • 『歌壇』5月号にて(過去ログ)

        (過去ログ)現在発売中の『歌壇』5月号のトピックス欄にて現代短歌フェスティバルin奈良「激動する短歌ー歴史から未来へ」の報告記を寄稿しました。当日の熱気が伝わってほしい。皆様ぜひお読み下さい! 2024.4.15. Twitterより編集再掲

        • 『塔』4月号にて(過去ログ)

           (過去ログ)『塔』4月号の「weathercock's report 事務局のお仕事」で廣野翔一さんが『キマイラ文語』読書会の事務局をしていただいた時の記録が掲載されています。本当にありがとうございました(泣)。廣野さんの運営あっての読書会でした。皆様ぜひお読み下さい! 2024.4.16. Twitterより編集再掲

        『短歌往来』2024年4月号

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        記事

          『塔』2024年3月号(3)

          ⑰動物と触れ合うカフェとう風俗がある 今、どこ?今、もう原宿駅 丸山恵子 5/8/5/8/8。四句面白い。動物と触れ合うカフェを風俗と捉える。生活文化の意味だろう。突然挟まれるぶつ切りの会話。待ち合わせの人物とスマホで話しながら主体はそこへ向かっているのだろう。 ⑱三井修「吉田広行歌集『360』評」 神はいざ遊びに来ますどこへでも遠く近くを吹きすぎる塵 吉田広行 〈神には、キリスト教やイスラム教の神のような全知全能の「絶対神」と、日本の神のように人間的な性格を持つ「人格神」

          『塔』2024年3月号(3)

          『塔』2024年3月号(2)

          ⑧夢の中で不誠実だと責めていたあの日笑って許したひとを 田宮智美 自己を殺して無理に許した。その本当の気持ちが夢になって現れた。その人は夢の中でどんな対応をしたのか。夢では、画像ではなく言葉で感じることがある。不誠実、とその夢の中でも思ったのではないか。 ⑨温かいお茶を飲んだら「死にたい」は「休みたい」だと気付く真夜中 吉岡昌俊 死にたいという言葉は、休みたい・逃げたい・いまここを離れたい、等の別の表現ではないか、肉体の死は具体的に意識されていなかった、と気付く。真夜中に一

          『塔』2024年3月号(2)

          『塔』2024年3月号(1)

          ①内臓のいちばんちかく似たやうなくちびるの色ばかり購う 藤田ゆき乃 内臓は口から一本の管のように体内を通っているから、唇は内臓に一番近いのは確かだ。似たような色の口紅を買ってしまうのはよくある事だが、内臓に似た色の口紅を買う感じもあってどこか生々しい。 ②哀しみじゃなくて感情そのものが弱まってゆく冷えた指先 中山悦子 哀しみが弱まるのはうれしいことだが、感情そのものが弱まって何も感じられなくなるのは辛い。冷えた指先は具体であるとともに比喩でもある。 ③「赤ちゃんが乗ってい

          『塔』2024年3月号(1)

          女性歌人という分類(後半)【再録・青磁社週刊時評第八十一回2010.2.1.

          女性歌人という分類(後半)          川本千栄   現代において「女流」というのは廃れつつある言葉だろう。「男流」と   いう対になるべき言葉はない(フェミニストによる『男流文学論』という    本があったが)から、最初から男の視線の貼りついた言葉であり、廃れつ  つあるのもそのせいだと思う。(山田富士郎 角川『短歌』2010.2.)  山田の論は「女流」という言葉を的確に解説している。私も山田に同意するが、その上で、「女流」という言葉を使おうが「女性歌人」という

          女性歌人という分類(後半)【再録・青磁社週刊時評第八十一回2010.2.1.

          女性歌人という分類(前半)【再録・青磁社週刊時評第八十一回2010.2.1.

          女性歌人という分類(前半)          川本千栄 (青磁社のHPで2008年から2年間、川本千栄・松村由利子・広坂早苗の3人で週刊時評を担当しました。その時の川本が書いた分を公開しています。)  角川『短歌』2月号の特集は「変わりゆく女の生き様と歌―女歌の現在(いま)」である。花山多佳子、今野寿美、栗木京子、小島ゆかり、米川千嘉子、俵万智、梅内美華子、駒田晶子、澤村斉美の9人の女性歌人に対して、それぞれ日置俊次、真中朋久、本多稜、内藤明、三枝浩樹、松村正直、山田富士

          女性歌人という分類(前半)【再録・青磁社週刊時評第八十一回2010.2.1.

          「塔」事務所4月開所日(過去ログ)

          (過去ログ)  明日4月11日(木)は塔の京都事務所開所日です。会員の方も会員外の方もお気軽に遊びに来てください。塔選者・会員の歌集歌書を借りることもできます。 2024.4.10. Twitterより編集再掲  本日は「塔」の京都事務所の定例開所日でした。いつもブックカバーをかけて下さる会員さんに教わって、今日は私もカバーをかけてみました。なかなか難しいけど、出来上がり感がうれしくて夢中になってしまいました。今日は事務所近くの裁判所の枝垂れ桜が満開です。 2024.4

          「塔」事務所4月開所日(過去ログ)

          『うた新聞』4月号にて(過去ログ)

          (過去ログ)現在発売中の『うた新聞』4月号に「作品時評」欄を寄稿しました。前号(3月号)の作品を評しています。これから6か月間担当します。皆様ぜひお読みください。 2023.4.10. Twitterより編集再掲

          『うた新聞』4月号にて(過去ログ)

          今週の一首

           新しい職場での一年が始まった。ここでも「今週の一首」を図書館で掲載してもらえることになった。加えて前の職場でも引き続き掲載してもらえる。たくさん歌を読んでいい歌を選びたい。 2024.4.8. Twitterより編集再掲

          今週の一首

          『群馬県立土谷文明記念文学館 紀要 風 第26号2022年度』

          ①2023年3月発行の本誌を一年後の先日読んだ。当時の永田和宏の講演録を読むと、2022年時には、コロナの時代をどう生きるか、が本当に緊切の問題だったことが分かる。そして私たちがもうそれを忘れかけていることも。 ②永田和宏「ことばの力ー言葉で思いを伝えること」 〈この新型コロナウィルスの流行も、世界史の中に残ると思います。たぶん数行で、そんなには残らないだろうけれども、歴史は、あったことはすべてきちんと残してくれます。ただ私は、歴史書の中に唯一残らないことがあると思っていま

          『群馬県立土谷文明記念文学館 紀要 風 第26号2022年度』

          『うた新聞』2024年3月号

          ①今井恵子「結社の意義」 〈一般に近代短歌のはじまりと考えられる「浅香社」結成にあたって、それを〈結社〉と呼んだのかどうか。後になっての呼称であれば、近世の〈歌塾〉が近代の〈短歌結社〉へ移行するのに何時頃どのような経過をたどったのか。〉  たしかにその点は気になるところだ。昔読んだ資料で結社とは名乗ってなかったとあったような気がするがうろ覚え。浅香社のように○○社という名前は、明治時代の流行りの命名のように感じる。結社もその頃は新しい印象の言葉だったのではないか。 ②松澤俊

          『うた新聞』2024年3月号

          『現代短歌新聞』2024年3月号

          ①「インタビュー 永田紅氏に聞く」 改めて若山牧水賞おめでとうございます。  〈作者の属性や人生を詠むことを排除する向きがありますが、人生を詠んでいるからつまらないということは決してなくて。そもそもこの二分法が私は嫌いで。境涯派でも言葉派でも、いい歌はいいし、つまらないものはつまらない。〉  ほぼ同意。ただこの境涯派(人生派)と言葉派という用語は、用語だけが一人歩きしているようにも感じている。この言葉が論に使われているのはあまり見たことがない。 ②「永田紅」  〈一首の屹立

          『現代短歌新聞』2024年3月号

          〔公開記事〕川野里子『ウォーターリリー』(短歌研究社)

          世界の惨を感知する  川本千栄  この世界には様々な惨事が存在する。しかし目を凝らし耳を澄まさない限り、多くの人はそれに気づかない。この歌集で作者は、自らの存在の在り様を絡ませながら、時空を超えて、そうした惨に耳を澄ませ、受けとめてゆく。 あの川に兄が浮かんでこの沼に父が浮かんで 睡蓮咲いた 戦争に勝ちしにあらず絶望に勝ちたり 春巻きほんのりと透け にんげんのにんげんによるにんげんのための虐殺 しらほねを積む  ベトナム、カンボジアを訪ねた一連。一首目、肉親が戦争の犠牲にな

          〔公開記事〕川野里子『ウォーターリリー』(短歌研究社)