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毎日読書メモ

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米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(毎日読書メモ(538))

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(毎日読書メモ(538))

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)、発売前から楽しみに待ち、復習しなくちゃ、と『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』(上)(下)『巴里マカロンの謎』と、ゴールデンウィークに一気読み。

『春期限定いちごタルト事件』2004年8月に刊行されたが、わたしが読んだのは2011年3月。当時書いた短いメモ。
『夏期限定トロピカルパフェ事件

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恩田陸『夜明けの花園』(毎日読書メモ(537))

恩田陸『夜明けの花園』(毎日読書メモ(537))

恩田陸続く。
今年の1月に刊行された『夜明けの花園』(講談社)、水野理瀬シリーズ最新刊だが、2022年に雑誌に発表された「絵のない絵本」(学園を出たあとの理瀬が、ヨーロッパ方面のリゾート地で思いがけない事件に巻き込まれる)
2023年に雑誌発表された「月蝕」(学園を出る直前の聖が思い出話と暗殺への不安を並行して語る、過去のおさらい的物語)、書下ろしの「丘をゆく船」(聖のひとり語りにも出てきた、黎二

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春のみみずく朗読会、雑誌掲載(「新潮」2024年6月号)(毎日読書メモ(536))

春のみみずく朗読会、雑誌掲載(「新潮」2024年6月号)(毎日読書メモ(536))

2024年3月1日、早稲田大学大隈記念講堂で開催された、「早稲田大学国際文学館主催 村上春樹ライブラリー募金イベント Authors Alive!~作家に会おう~特別編 『村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会』に行ってきた、その時の記録が雑誌に掲載された。

「新潮」2024年6月号、創刊120周年記念号でもあり、川端康成文学賞発表業でもあり、そこに「春のみみずく朗読会」特集をつけ、当日読まれ

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恩田陸『spring』(毎日読書メモ(535))

恩田陸『spring』(毎日読書メモ(535))

4月に刊行された恩田陸『spring』(筑摩書房)を読んだ。雑誌「ちくま」に2020年から2023年にかけて連載されていたバレエ小説。

バレエ。その鋭さ、その華やかさ、その躍動感、それをどう言語化するのか。その試みは、かつてピアノコンクールの情景を言語化してみせた『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)に通ずるものがある。というか、先行する『蜜蜂と遠雷』を意識せずには読めない。それがこの小説にとって幸福だったの

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宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(毎日読書メモ(534))

宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(毎日読書メモ(534))

複数の紹介記事で見かけて心惹かれた、宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)を読んだ。予想以上に、物語に心を残してしまう、これまで読んだどんな物語とも似ていない、不思議な物語だった。それは近代史のおさらいでもあり、先進IT国家となったエストニアの生存戦略のガイドブックでもあり、犯罪のないミステリでもあり、青春小説でもあった。

印象の淡い表紙(金子幸代装画)は、物語の中盤まで来た時に、

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原田ひ香『三千円の使いかた』(毎日読書メモ(533))

原田ひ香『三千円の使いかた』(毎日読書メモ(533))

原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫)を読んだ。単行本が出たのが2018年、文庫になったのが2021年8月だが、それ以降、新聞広告でどれだけプロモーションされてきたことか。めっちゃ重版されてる。
テレビドラマにもなっていたが、本読む前にイメージできちゃうのがいやだったので見ていない。なので、新聞広告で見た以上のイメージはなしに読み始める(なので、イメージ持ちたくない方はこの先は読まない方がいいで

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額賀澪『タスキ彼方』(毎日読書メモ(532))

額賀澪『タスキ彼方』(毎日読書メモ(532))

額賀澪『タスキ彼方』(小学館)読了。令和5年~6年と、昭和15年~23年の箱根駅伝を中心とした物語が交互に語られ、2つの時代が繋ぎ合わされる物語。

額賀澪の箱根駅伝小説と言えば、『タスキメシ』、『タスキメシ箱根』(共に小学館)を思い出す。『タスキメシ』は管理栄養学を学ぶ学生が食というアプローチから箱根駅伝をサポートする物語だったが、今回の『タスキ彼方』は、その続編でもスピンオフでもない、独立した

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三浦しをん『墨のゆらめき』(毎日読書メモ(531))

三浦しをん『墨のゆらめき』(毎日読書メモ(531))

三浦しをん『墨のゆらめき』(新潮社)を読んだ。すっかり職業小説の達人となった三浦しをん、今回の職業はホテルマンと書道家である。
筆耕、という言葉を知ったのは、社会人になって数年目、陶磁器の展示会を開催するにあたって、展示品の品名を和紙の札に筆耕士さんに書いてもらうよう依頼したときだった。その時に、結婚式の招待状や席札などを書いているのも筆耕士さんであることを知った。更にリアルに筆耕士の仕事を感じた

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吉村昭『漂流』(毎日読書メモ(530))

吉村昭『漂流』(毎日読書メモ(530))

ちょっと遠出をするときに、道中の読書用の本、何冊も持っていけないから、と、父の本棚から取ってきた、吉村昭『漂流』(新潮文庫)を荷物に入れて行った。大正解。物語世界にぐっと引き込まれ、眠気もきざさず、途中で寝過ごしたりする心配もなく、手に汗握りつつ読み進める。
家に帰って、面白さを家人にとうとうと語っていたら、「君はこういう、極限状態にいる人が、どうやってその運命から脱出しようとする小説が好きなんだ

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井上荒野『照子と瑠衣』(毎日読書メモ(529))

井上荒野『照子と瑠衣』(毎日読書メモ(529))

年を経てきた女性たちの小説、江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』で堪能して、続けて井上荒野『照子と瑠衣』(祥文社)で更にワクワクする。『シェニール織とか黄肉のメロンとか』の登場人物たちが57歳くらい、照子と瑠衣は当年とって70歳!
照子と瑠衣、語感だけでもイメージできるように、ふたりの名前はリドリー・スコットの映画「テルマ&ルイーズ」から来ている。って、わたし見てないのですが、逃避行をする

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江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(毎日読書メモ(528))

江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(毎日読書メモ(528))

江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』(角川春樹事務所)を読んだ。色んな書評で好意的なコメントを見た作品で楽しみにしていたが、なるほど、年をとっていくことを肯定的に作品に反映させる、一つの試みだ、と感心する。

作家の民子、大学時代の同級生で、最近イギリスから帰国して来たばかりの理枝、専業主婦の早希。たまたま出席番号が隣り合わせで、一緒にいる機会が多かったことから「三人娘」などと呼ばれていた

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安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)を読んだ。昨年(2023年)の本屋大賞第2位(1位は凪良ゆう『汝、星の如し』)。チェロが重要な役割を果たすと聞いていて気になって、買ったまま1年間積ん読してしまったが、ようやく読めた。

子どもの頃、習っていたチェロを、ある事件をきっかけに失い、なんとなく屈折した育ち方をした主人公橘樹。全日本音楽著作権連盟という会社に就職した樹は、社内の派閥抗争のとばっ

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畑中幸子『南太平洋の環礁にて』(毎日読書メモ(526))

畑中幸子『南太平洋の環礁にて』(毎日読書メモ(526))

先日、友人の勧めで有吉佐和子『女二人のニューギニア』(河出文庫)を読んだのだが(感想ここ)、その際に有吉が寄宿した(寄宿なのか?)文化人類学者が畑中幸子さん。有吉と同い年だが存命、現在93歳。中部大学名誉教授。
有吉がニューギニアの畑中の家に滞在したのは1968年だが、元々畑中の研究テーマはオセアニア研究で、1961年から64年にかけて、実地調査を行ってきた島々の中で一番長く滞在した、フランス領ポ

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米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(文藝春秋)を読んだ。「オール讀物」に連載された、群馬県警の警部葛を主人公とした連作短編。主人公、といっても、葛の人間ドラマが主題ではない。逆に、単行本化する際に、雑誌掲載時には若干含まれていた葛の心情的な描写を意図的に削ったとのこと。
群馬県内で起こったさまざまな事件に葛がどうアプローチし、ぱっと見判然としない真相をどう明らかにしていったかが描かれる。
警察なので、被疑者を逮捕

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